しゃぼん玉と約束

本当のこと

〜湊月side〜
「一ノ瀬さん一緒に帰ろうよ。」

ある日、生徒玄関で松浦くんにそう言われた。
前に誘われたけど断ったことがあるから、今日は一緒に帰ろうと思って「いいよ。」と返事をした。

最近、誰かと一緒に下校することが減っていた。
だから、学校外では私はぼっちっていう噂も流れていたんだ。

掲示板には、私への悪口が絶えてない。
毎日毎日、何かしら書かれてる。

もう、私の居場所なんてどこにもないのかな。
誰も私のことなんて思ってもくれないんだろうな。

そう思うと、学校に行くのが嫌になる。
誰とも会いたくなくなる。

この世界の中に私の話を聞いてくれる人なんて、きっと、もういないんだろうな。

「一ノ瀬さん!」

目の前に松浦くんの必死な顔があって、私は「うわぁ!」と大きな声を出してしまった。

「着いたよ。」

松浦くんが指さした方向には、黄色やオレンジの外装でポップな雰囲気のお店があった。

「ここって、?」
「実は一ノ瀬さんに食べてほしいものがあるんだ。」

そう松浦くんが笑顔で言った。

「おまたせしました。」
「わあ、美味しそぉ、、」

運ばれてきたパンケーキは見た目からふわふわで、上に乗ったバニラアイスと蜂蜜がキラキラ輝いている。周りに彩られたイチゴやベリーは、よりパンケーキをゴージャスに飾っていた。

写真を撮って、さっそくナイフとフォークを持って食べようとした時、

「ありがとう兄さん。」
と松浦くんが言った。「え、?」と声がでた。

なんと私にパンケーキを持ってきてくれた店員さんは、松浦くんのお兄さんだったのだ。
どことなく雰囲気は似てるかも。

「こんにちは、悠光の兄の光輝(コウキ)です。一ノ瀬湊月ちゃんだよね?」
「え?あ、はい、そうですけど、。」

私の名前、知ってるんだ。
もしかして雑誌とかで、、、

「悠光から話はよく聞くよ。」
「はい?」

私の聞き間違いだろうか。
松浦くんが光輝さんに私の話をしてるって、、

どういうことか気になったけど、光輝さんは他の店員さんに呼ばれて向こうに行ってしまった。

止まっていた手を動かし、パンケーキを口に運ぶ。

「パンケーキの味はどう?美味しい?」

私が食べているところを見て、松浦くんが聞いてきた。

「うん!すっごく美味しい!」

想像以上に美味しいからつい声が大きくなってしまった。だからなのか松浦くんは笑いながら「そっか、なら良かった。」と言った。

こんなに美味しいお店があるなんて、もっと早く知りたかったなぁ。
そう思いながらまた1切れ食べた時、

「一ノ瀬さん。瑠木と何があったの?」
と聞かれた。私はナイフとフォークを置いた。

「喧嘩したの。掲示板のこととかで頭がいっぱいで、何かしら言葉をかけてくる瑠木にもイラついちゃって。」
「そっか。」
「それに、瑠木って付き合ってるんでしょ?
その、、美杜と。」

このことを口に出したらつらかった。

「もう瑠木すら私のこと見てくれてないんだ、美杜の味方なんだって思ったの。それに美杜からも過剰接触するなって言われてたし、これで良かったのかなって。」

話を聞いた松浦くんは「ちょ、ちょっと待って。」と手をあげて言った。

「一ノ瀬さん、さっき瑠木が花巻さんと付き合ってるって発言してたけど、どこから聞いたの?」
「どこって、えっと、岡部さん達が話してたのが聞こえて、」

私の答えに松浦くんは、

「なるほど、そういう事ね。」
と笑った。そして、

「瑠木、誰とも付き合ってないよ?」

と言った。

「え、だって話してたの聞こえて、、」
「あの人たち花巻さんの取り巻きでしょ?花巻さんが勝手に言ってるだけだよ。何ですぐ信じるの。」

松浦くんの言葉で、頭がごちゃごちゃになった。

「え、じゃあ本当は瑠木、誰とも、付き合ってないの?」

とりあえず出てきた言葉を組み合わせた。すると松浦くんはこくりと頷く。
その瞬間、私は頭を抱えた。

「どうしよう、私、瑠木になんてことを、、 もう近づくなって言っちゃった。瑠木は何も悪くないじゃない、。」

そうだ、全部自分のせいだ。自業自得だ。
一時の感情だけで当たって、瑠木を傷つけてしまった。
瞼が熱くなって、視界がぼやける。
私、泣いてるの?

すると、前から松浦くんが手を伸ばしてきた。だけど、それに気がついた私が松浦くんの顔を見ると、なにか思ったのか、素早く伸ばした手を引っ込めた。そして、

「一ノ瀬さん。そんなに瑠木が好きなら、早く仲直りしてね。きっと瑠木もそう思ってるよ。」
と優しく微笑んだ。けれどその笑顔は、何だか辛そうにも見えた。

松浦くんの言う通りだ。瑠木に謝ろう。許してもらえなくても、瑠木に謝りたい。

「ありがとう松浦くん。私、ちゃんと瑠木に本当のこと言う、絶対言う。」

そう言って私は拳を握ってみせた。


パンケーキを食べ終えて少し話をしたあと、私たちは店を出た。私は会計後に光輝さんから貰った手作りクッキーを頬張って、「おいしっ。」とつぶやいた。

「でしょ。兄さんのクッキーはとっても美味しいんだ。」

その言葉を聞いてふと思い出したことがある。

「そういえば、瑠木もお菓子作りが好きだったな。」
「え、そうなの?」
「今はどうか分からないけど、、うん。昔は夢中で作ってたの。」

瑠木の得意なお菓子はブラウニーなんだ。

小学校から帰ったら、毎日チャイム鳴らしてきて

「みーづき!作って持ってきたから食べてよ〜。」って持ってきてくれた。他にもカップケーキとかパウンドケーキとか、もちろんクッキーの日もあった。

「瑠木のお菓子は世界一おいしいってよく言ってたなー。」

思い出してみると自然と笑顔になる。
あの時は楽しかったな。

「お兄ちゃんもいたし、毎年クリスマスになれば2人でケーキ作ったりして。」
「ふふっ、よっぽど楽しかったんだ。てか一ノ瀬さんもお兄さんがいるんだね。」
「うん、3年前まではね。交通事故に遭っちゃって、今はもういないんだ。」

それを聞いた松浦くんは即座に「ごめん。」と謝ってきた。私は「いいよいいよ、もう大丈夫だから。」と笑って返した。

そんなこんな話してるうちに駅についた。

「松浦くん、今日は本当にありがとう。色んなことに気づけた。」
「そっか。誘って良かったよ。」

瑠木は美杜と付き合っていなくて、自分が思うより私は何倍も瑠木のことが好きで、 本当はずっと瑠木に謝りたくて。

そんなことを松浦くんは教えてくれた。
掲示板で悪いこと書かれてても、私と仲良くしてくれる。それは何でなんだろう。きっと松浦くんが優しい人だからなんだね。

スマホを見た松浦くんは、

「そろそろ行かないとじゃない?」
と言った。確かにもう6時半だ。

「うん、じゃあまた明日ね。」
「また明日。」

私は手を振り、松浦くんに背を向けて歩きだした。

「俺、やっぱり瑠木には勝てないや。」

私は松浦くんがそんな言葉をこぼしたのも知らず、そのまま家に向かった。



誤解と優しさ。
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