しゃぼん玉と約束
君のおかげで
~瑠木side~
「私、瑠木のこと、、誤解してたの!」
下校中の沈黙の中、その言葉が湊月の口から出てきた。
「あの時は掲示板のことで頭がいっぱいで、瑠木が美杜と付き合ってるって話も信じちゃって、イライラしてあんなこと言ったの。ほんとにごめんなさい。」
と、湊月が頭を下げた。
湊月は全部悪くないんだ、悪いのは全部あいつなんだ。
そう頭の中に用意していたはずなのに出てきた言葉は、
「俺の方こそ、ごめん、、、なさい。」
だった。
「花巻となんか付き合ってないのに、すぐ否定しなかった俺が悪かった。ごめん。」
そうだよ、あの時すぐに付き合っていないとはっきり言っておけば、湊月に頭を下げさせるようなことはなかったのに。あんなの、湊月が誤解するに決まってる。
「松浦くんから本当のこと聞いて、ずっと謝りたかったのに、謝るのこんなに遅くなってごめん。」
「いやいや、俺だってごめん。」
そう言い合っているとなんだかおかしくなってきて、俺たちは一緒に笑った。
「いいよ、湊月。許してあげる。」
「ほんとに?瑠木ありがと。」
隣で笑う湊月はやっぱり可愛くてきれいだ。
ずっとこうしていたいな。
そう思っていると湊月が「ねぇ瑠木。」と俺を呼んだ。そして、
「久しぶりにさ、ブラウニー作ってくれない?」
と言ってきた。
想像もしてないことを言われて俺はびっくりした。
お菓子作りはここ数年一度もしていない。
トラウマがきっかけでもうやらないって決めたんだ。
「全然無理しなくていいの!でも、何だか瑠木のブラウニーが食べたくて。」
「でも俺、もうお菓子作りしないって、、」
だけど、湊月がそう言うなら。食べたいと言うのなら。
「やっぱりダメか、」
残念そうな笑みを浮かべた湊月を見て、俺は心の中の何かが切れた気がした。
「俺、作るよ。湊月にブラウニー作る。」
その言葉を聞いた湊月が「ほんとに??」と目をまるくしてきた。
俺が頷くと、湊月は輝いた笑顔で「やったー!」と喜んだ。
湊月がこんなに喜んでくれるなら、なんだって作ってやる。
トラウマがなんだ?
いつまでも昔のことを引きずってる弱い人間はもう辞める。周りのヤツらが言った言葉に惑わされない人間になるんだ。
俺にはまだお菓子作りがしたいという自分がいる。
それに俺は今もパティシエの夢を諦めてない。
俺は決めた。
夢に向かってもう一度頑張ってみる。
家の前に来たとき、私のわがままだからって湊月の家のキッチンを使わせてもらうことになった。
「あれ?瑠木くんじゃん、久しぶり。」
「やっほ!瑠木くん!」
家に入ると、湊月の妹の綺吏(イリ)と弟の瑠斗(ルイト)がリビングで課題をしていた。
「瑠木にブラウニー作ってもらうから、キッチン使ってもいいー?」
湊月が2人に聞くと、「いいよー!」と元気のいい声が返ってきた。
「瑠木くんのブラウニーとか久しぶりすぎ!」
と、瑠斗が目をキラキラさせている。
俺は腕をまくって、「よしっ」と気合いを入れた。
材料は揃っているみたいだし、早速作っていくか。
綺吏と瑠斗の学校の話を聞きながら作業を進めていくと、案外早く終わった。
生地を型に流してオーブンの中に入れる。
温度と時間を設定して、これで完璧。
なんとか失敗せずにできたことに胸をなで下ろす。
焼けるまで俺も課題しようか、と思ってリビングに来ると、カレンダーと一緒に壁に貼ってある1枚のチラシが目にはいってきた。
"芸能学校編入試験について"
その文字を見た瞬間、俺の足は止まった。
そのチラシには、日本の有名な芸能学校が載っている。
え、編入試験って、湊月まさか。
その時、
「瑠木ー!ちょっと来てー!」
と、2階から湊月の大きな声が聞こえてきて、俺は「はいはーい。」と返事をする。
いや、そんなわけないか。
そう思った俺はその場を離れた。
2階に行くと、とある部屋のドアが開いていた。
ここは、維月くんの部屋だ。
ここで何してるんだろう?
「湊月ー?入るよ〜。」
ドアを開けると、たくさんのダンボールが積まれていて、湊月 何かを整理してるようだった。
「何してるの?」
「最近お兄ちゃんの部屋がほこりっぽくて、掃除したり、整理したりしてるの。」
確かに、あれからずっと放置されてた時よりは綺麗になった気がする。
俺は近くにあった雑巾で本棚を拭きながら、本の背表紙を追っていく。
維月くんは読書好きだったから、いっぱい本があるなぁ。
あ、この本。
1冊の本が目に止まって、その本を手にとる。
その本は、昔維月くんから貸してもらったことがある本だった。バスケ部の男子高校生の物語で、俺はこの本を読んでバスケしようと思ったんだ。
パラパラとページをめくると、維月くんがその本に出てくる名言のようなものを書いたメモが出てきた。
"本とかアニメとかに出てくる名言を見たら、しんどくても仕事頑張れるんだ"
メモを見てその言葉を思い出したとき、俺は口もとが緩んだ。
維月くんとまた話したいな。
「ねぇねぇ瑠木、これ見て。懐かしくない?」
ダンボールをガサガサとあさった湊月の手には、ホコリを被ったしゃぼん玉セットがあった。
「うわぁ懐しいな。」
実は俺たちはしゃぼん玉で出会ったんだ。
俺がこっちに引っ越してきたのは、年長の時だ。
親と結生はお隣さんに挨拶しに行くと言って外に出ていくけど、喘息がひどかった俺はそんなこともできなくて、閉められた部屋の窓から覗くことしかできなかった。
だから隣の家にどんな子がいるのかも、分からなかった。
ある日、なんだか眠れなくて俺は窓を少し開けて星を見ようとした時だ。向かいの家の窓からしゃぼん玉を吹いている女の子がいた。その子が湊月だった。
「こんばんは!」
長い髪をなびかせ、笑顔で声をかけてくれたあの日は決して忘れることのできない日。他人に抱く特別な感情が生まれた大切な日だ。
それから俺たちはよく夜になると、窓からしゃぼん玉を吹きあって、たわいのない話で笑った。
「あの時は何でもかんでも楽しかったんだろうな。」
「そうだな。」
「今と違って、誰にも干渉されずに楽しんでた。」
「・・・なぁ湊月。」
その時、俺がずっと思ってたことを言おうと思った。
「俺は湊月を勇気のない人だと思ってない。だから言うけどな、掲示板の件、本当のことを言ってみないか?」
湊月の表情が曇っていくのが分かる。湊月は机にそっとしゃぼん玉セットを置いた。
「あれは実際のところ湊月は何も悪くない。何もしてない湊月が酷いこと言われる筋合いはない。」
「でもっ、今更そう言ったって誰も信じてくれない。きっと離れていった由莉と捺未だって戻ってこないよ、、。」
ずきん。
涙で溢れてく湊月を見て胸が痛くなる。
今まであれだけ仲の良かった2人でさえ、掲示板の件で湊月から離れていった。決して証拠のない作り話を簡単に信じる人がたくさんの世の中になってしまったせいで、湊月はこんなにも苦しんでいる。
「俺は、俺はもう、苦しんでる湊月を見たくないんだよ。」
あれだけ毎日楽しそうに笑っていた湊月が、急に人が変わったように笑わなくなって、俺も辛かった。
「このままだと湊月が悪者のままになる。俺はそれが嫌なんだ。」
湊月は何も悪くない。
「それに、きっと高城や悠光だって、苦しんでる湊月を見たくないと思ってる。」
そうだ。掲示板の件があってもずっと湊月のそばにいてくれた高城と悠光。
"あんなに優しい湊月だよ?酷いことしたなんて思えない。私は湊月を信じるよ。仕事もちゃんとこなしてるし、あんなの湊月への嫉妬にしか思えない。大丈夫だよ瑠木くん。私と湊月の友情はこんなので切れないよ"
"俺、一ノ瀬さんのこと好きだからさ、もっと笑ってる一ノ瀬さんが見たいって思うんだよね。こんなこと言ってる俺、チョー気持ち悪いかもだけど一ノ瀬さんのこと信頼してるしさ"
たまたま下駄箱で会って交わした高城との会話、部活の休憩中に言ってた悠光の言葉、あれは全部嘘なんかじゃない。2人とも本当に湊月のことが好きなんだ。
「俺は湊月のおかげでトラウマから抜け出せた。湊月が俺を変えてくれたんだ。だから今度は、俺が湊月を変える番。」
「瑠木、、」
湊月の顔がゆっくりと上がっていく。
「でもやっぱりまだ怖いよ。誰も信じてくれなかったら、、。」
「大丈夫だよ湊月、隣を見ろ。俺がついてる。」
湊月の目を見ると、本当はずっと事実を言いたかったと言っているように見えた。今までどんなに辛かったのか、分かった気がした。でもきっと大丈夫だ。さっきの湊月と違う気がする。
「そうだよね、私のことなのに瑠木に言われちゃったら何だか本当のこと言いたくなってきたかも。」
そう言った湊月はクスッと笑った。
湊月が、笑った。
「今まで心配かけてごめん。私、勇気出してみようかな。」
「ほ、本当か?」
「うん。確かに私、何も悪くないし、このまま悪者で終わるのもやだし。嫌なことはちゃんと嫌だって伝えたい。私だって、変わりたい。」
「そっか。」
今の湊月は、何だかかっこよく見えた。今まで感じたことのないオーラをまとっている気がする。
俺、言えた。思っていたことを伝えれた。
そうだ、この瞬間、俺はもう1つのトラウマを克服したんだ。本心を自分の言葉にすることで、誰かを変えることができるなんて知らなかった。
「じゃあ、下降りてブラウニーでも食べるか。」
「ふふ、そうだね。みんなで食べよっ。」
俺たちは維月くんの部屋を出る。
成長への第1歩。
「私、瑠木のこと、、誤解してたの!」
下校中の沈黙の中、その言葉が湊月の口から出てきた。
「あの時は掲示板のことで頭がいっぱいで、瑠木が美杜と付き合ってるって話も信じちゃって、イライラしてあんなこと言ったの。ほんとにごめんなさい。」
と、湊月が頭を下げた。
湊月は全部悪くないんだ、悪いのは全部あいつなんだ。
そう頭の中に用意していたはずなのに出てきた言葉は、
「俺の方こそ、ごめん、、、なさい。」
だった。
「花巻となんか付き合ってないのに、すぐ否定しなかった俺が悪かった。ごめん。」
そうだよ、あの時すぐに付き合っていないとはっきり言っておけば、湊月に頭を下げさせるようなことはなかったのに。あんなの、湊月が誤解するに決まってる。
「松浦くんから本当のこと聞いて、ずっと謝りたかったのに、謝るのこんなに遅くなってごめん。」
「いやいや、俺だってごめん。」
そう言い合っているとなんだかおかしくなってきて、俺たちは一緒に笑った。
「いいよ、湊月。許してあげる。」
「ほんとに?瑠木ありがと。」
隣で笑う湊月はやっぱり可愛くてきれいだ。
ずっとこうしていたいな。
そう思っていると湊月が「ねぇ瑠木。」と俺を呼んだ。そして、
「久しぶりにさ、ブラウニー作ってくれない?」
と言ってきた。
想像もしてないことを言われて俺はびっくりした。
お菓子作りはここ数年一度もしていない。
トラウマがきっかけでもうやらないって決めたんだ。
「全然無理しなくていいの!でも、何だか瑠木のブラウニーが食べたくて。」
「でも俺、もうお菓子作りしないって、、」
だけど、湊月がそう言うなら。食べたいと言うのなら。
「やっぱりダメか、」
残念そうな笑みを浮かべた湊月を見て、俺は心の中の何かが切れた気がした。
「俺、作るよ。湊月にブラウニー作る。」
その言葉を聞いた湊月が「ほんとに??」と目をまるくしてきた。
俺が頷くと、湊月は輝いた笑顔で「やったー!」と喜んだ。
湊月がこんなに喜んでくれるなら、なんだって作ってやる。
トラウマがなんだ?
いつまでも昔のことを引きずってる弱い人間はもう辞める。周りのヤツらが言った言葉に惑わされない人間になるんだ。
俺にはまだお菓子作りがしたいという自分がいる。
それに俺は今もパティシエの夢を諦めてない。
俺は決めた。
夢に向かってもう一度頑張ってみる。
家の前に来たとき、私のわがままだからって湊月の家のキッチンを使わせてもらうことになった。
「あれ?瑠木くんじゃん、久しぶり。」
「やっほ!瑠木くん!」
家に入ると、湊月の妹の綺吏(イリ)と弟の瑠斗(ルイト)がリビングで課題をしていた。
「瑠木にブラウニー作ってもらうから、キッチン使ってもいいー?」
湊月が2人に聞くと、「いいよー!」と元気のいい声が返ってきた。
「瑠木くんのブラウニーとか久しぶりすぎ!」
と、瑠斗が目をキラキラさせている。
俺は腕をまくって、「よしっ」と気合いを入れた。
材料は揃っているみたいだし、早速作っていくか。
綺吏と瑠斗の学校の話を聞きながら作業を進めていくと、案外早く終わった。
生地を型に流してオーブンの中に入れる。
温度と時間を設定して、これで完璧。
なんとか失敗せずにできたことに胸をなで下ろす。
焼けるまで俺も課題しようか、と思ってリビングに来ると、カレンダーと一緒に壁に貼ってある1枚のチラシが目にはいってきた。
"芸能学校編入試験について"
その文字を見た瞬間、俺の足は止まった。
そのチラシには、日本の有名な芸能学校が載っている。
え、編入試験って、湊月まさか。
その時、
「瑠木ー!ちょっと来てー!」
と、2階から湊月の大きな声が聞こえてきて、俺は「はいはーい。」と返事をする。
いや、そんなわけないか。
そう思った俺はその場を離れた。
2階に行くと、とある部屋のドアが開いていた。
ここは、維月くんの部屋だ。
ここで何してるんだろう?
「湊月ー?入るよ〜。」
ドアを開けると、たくさんのダンボールが積まれていて、湊月 何かを整理してるようだった。
「何してるの?」
「最近お兄ちゃんの部屋がほこりっぽくて、掃除したり、整理したりしてるの。」
確かに、あれからずっと放置されてた時よりは綺麗になった気がする。
俺は近くにあった雑巾で本棚を拭きながら、本の背表紙を追っていく。
維月くんは読書好きだったから、いっぱい本があるなぁ。
あ、この本。
1冊の本が目に止まって、その本を手にとる。
その本は、昔維月くんから貸してもらったことがある本だった。バスケ部の男子高校生の物語で、俺はこの本を読んでバスケしようと思ったんだ。
パラパラとページをめくると、維月くんがその本に出てくる名言のようなものを書いたメモが出てきた。
"本とかアニメとかに出てくる名言を見たら、しんどくても仕事頑張れるんだ"
メモを見てその言葉を思い出したとき、俺は口もとが緩んだ。
維月くんとまた話したいな。
「ねぇねぇ瑠木、これ見て。懐かしくない?」
ダンボールをガサガサとあさった湊月の手には、ホコリを被ったしゃぼん玉セットがあった。
「うわぁ懐しいな。」
実は俺たちはしゃぼん玉で出会ったんだ。
俺がこっちに引っ越してきたのは、年長の時だ。
親と結生はお隣さんに挨拶しに行くと言って外に出ていくけど、喘息がひどかった俺はそんなこともできなくて、閉められた部屋の窓から覗くことしかできなかった。
だから隣の家にどんな子がいるのかも、分からなかった。
ある日、なんだか眠れなくて俺は窓を少し開けて星を見ようとした時だ。向かいの家の窓からしゃぼん玉を吹いている女の子がいた。その子が湊月だった。
「こんばんは!」
長い髪をなびかせ、笑顔で声をかけてくれたあの日は決して忘れることのできない日。他人に抱く特別な感情が生まれた大切な日だ。
それから俺たちはよく夜になると、窓からしゃぼん玉を吹きあって、たわいのない話で笑った。
「あの時は何でもかんでも楽しかったんだろうな。」
「そうだな。」
「今と違って、誰にも干渉されずに楽しんでた。」
「・・・なぁ湊月。」
その時、俺がずっと思ってたことを言おうと思った。
「俺は湊月を勇気のない人だと思ってない。だから言うけどな、掲示板の件、本当のことを言ってみないか?」
湊月の表情が曇っていくのが分かる。湊月は机にそっとしゃぼん玉セットを置いた。
「あれは実際のところ湊月は何も悪くない。何もしてない湊月が酷いこと言われる筋合いはない。」
「でもっ、今更そう言ったって誰も信じてくれない。きっと離れていった由莉と捺未だって戻ってこないよ、、。」
ずきん。
涙で溢れてく湊月を見て胸が痛くなる。
今まであれだけ仲の良かった2人でさえ、掲示板の件で湊月から離れていった。決して証拠のない作り話を簡単に信じる人がたくさんの世の中になってしまったせいで、湊月はこんなにも苦しんでいる。
「俺は、俺はもう、苦しんでる湊月を見たくないんだよ。」
あれだけ毎日楽しそうに笑っていた湊月が、急に人が変わったように笑わなくなって、俺も辛かった。
「このままだと湊月が悪者のままになる。俺はそれが嫌なんだ。」
湊月は何も悪くない。
「それに、きっと高城や悠光だって、苦しんでる湊月を見たくないと思ってる。」
そうだ。掲示板の件があってもずっと湊月のそばにいてくれた高城と悠光。
"あんなに優しい湊月だよ?酷いことしたなんて思えない。私は湊月を信じるよ。仕事もちゃんとこなしてるし、あんなの湊月への嫉妬にしか思えない。大丈夫だよ瑠木くん。私と湊月の友情はこんなので切れないよ"
"俺、一ノ瀬さんのこと好きだからさ、もっと笑ってる一ノ瀬さんが見たいって思うんだよね。こんなこと言ってる俺、チョー気持ち悪いかもだけど一ノ瀬さんのこと信頼してるしさ"
たまたま下駄箱で会って交わした高城との会話、部活の休憩中に言ってた悠光の言葉、あれは全部嘘なんかじゃない。2人とも本当に湊月のことが好きなんだ。
「俺は湊月のおかげでトラウマから抜け出せた。湊月が俺を変えてくれたんだ。だから今度は、俺が湊月を変える番。」
「瑠木、、」
湊月の顔がゆっくりと上がっていく。
「でもやっぱりまだ怖いよ。誰も信じてくれなかったら、、。」
「大丈夫だよ湊月、隣を見ろ。俺がついてる。」
湊月の目を見ると、本当はずっと事実を言いたかったと言っているように見えた。今までどんなに辛かったのか、分かった気がした。でもきっと大丈夫だ。さっきの湊月と違う気がする。
「そうだよね、私のことなのに瑠木に言われちゃったら何だか本当のこと言いたくなってきたかも。」
そう言った湊月はクスッと笑った。
湊月が、笑った。
「今まで心配かけてごめん。私、勇気出してみようかな。」
「ほ、本当か?」
「うん。確かに私、何も悪くないし、このまま悪者で終わるのもやだし。嫌なことはちゃんと嫌だって伝えたい。私だって、変わりたい。」
「そっか。」
今の湊月は、何だかかっこよく見えた。今まで感じたことのないオーラをまとっている気がする。
俺、言えた。思っていたことを伝えれた。
そうだ、この瞬間、俺はもう1つのトラウマを克服したんだ。本心を自分の言葉にすることで、誰かを変えることができるなんて知らなかった。
「じゃあ、下降りてブラウニーでも食べるか。」
「ふふ、そうだね。みんなで食べよっ。」
俺たちは維月くんの部屋を出る。
成長への第1歩。