別れが訪れるその日まで【番外編】
それにしても、ボタに話しかける紫苑君を見ていると、なんだか……。

「ん、どうしたの芹さん?」

私がジッと見ているのに、紫苑君が気づいた。

「ちょっとね。紫苑君、昔もそんな感じで、ボタに話しかけていたなーって思って」
『そういえば。うちでボタを飼いはじめた時は、毎日ボタに会いに来てたっけ』
「うん。ニャーニャー言いながら、よくボタを撫でてたよね」

紫苑君、昔から猫は好きだったけど、彼のお家では飼えなかったから。
かわりにうちでボタを飼ってからはよく遊びに来て、今みたいにボタに話しかけたり一緒になって遊んだりしてたの。
すると紫苑君、とたんに顔を赤らめた。

「あれは、その……昔の話で……。今は奈沙さんが中にいるから別だけど、普段は話したり、ニャーだなんて言わないから!」
「え? うん、分かった……」

思わず返事をしたけど、この慌てた様子。ひょっとして、照れているのかな?

別に気にしなくていいのに。紫苑君が猫好きなのは今更だし、ニャーって話しかけるのも、可愛くていいと思うんだけどなあ。
するとお姉ちゃんも。

『ふっふっふー。とかなんとか言っちゃって、本当は今だって、ニャーって言ったり、ボタのことだって撫でくり回したいって、思ってるんじゃないのー? ほらほらー、ふわふわでモフモフな毛並みだぞー』
「わっ、くすぐったいよボタ……いや、これは奈沙さんか?」

すり寄ってくるボタにくすぐったそうにしながら、だけど満更でもなさそうな紫苑君。
すると従来の猫好き魂に火がついたのか、黒々とした毛並みを優しく撫でたり、抱っこしたりしはじめる。

ふふ、紫苑君ってば楽しそう。
でも……楽しそう……なんだけど……。

『ほら、次は肉球ハイタッチだよ』
「ははっ、なんだかお手してるみたい……可愛い」

紫苑君、ボタと握手したり尻尾を擦り付けられたりして喜んでいるけどさあ。中身はお姉ちゃんだって、ちゃんと分かってるよね?
つまりこれは、紫苑君とボタとじゃれあって遊んでいるように見えるけど、同時にお姉ちゃんとスキンシップしているってことでもあって。

ああっ、お姉ちゃん! 頬擦りするのはやりすぎだって!
し、紫苑君は、私の彼氏なんですけど……。

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