恋愛経験ゼロの御曹司様が札束で口説こうとしてきた
 ──寒すぎるからコーヒー買ってきた。あとカイロも!
 ──おー! ありがと、助かる!

 いつだったか、付き合いたての頃の記憶がふっと脳裏をよぎる。冬空の下、同じコーヒーを片手に笑い合う瞬間が、文乃はたまらなく幸せだった。それはきっと、あの頃の将吾も……。

 でも、もうそれは、遠い過去のことだ。

 文乃は知らずの内に胸に抱えていた紙袋を見下ろす。綺麗に包装された茶葉をじっと見詰めてから、静かに溜息をついた。

「……もういいよ。今さら謝られても困る」
「文乃」
「だからもう二度と会いに来ないで」

 将吾の表情が一瞬明るくなった後、絶望に染まる。

 ──ああ、ほら。やっぱり許してもらえると思ってた。

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