恋愛経験ゼロの御曹司様が札束で口説こうとしてきた
「勿体ないなど。私は文乃さんほど素敵な方を他に知りません」
「ええっ? そんなことないと思いますが……」
「いいえ。無意識でしょうが、あなたは他人のことをよく気にかけている。相手が少しでも笑えるように、自分に出来ることを探せる人です」
「そ、それは、人として」
「当たり前だと思いますか。私はきっと、そう思えるあなたに惚れたのです」

 体調の悪い人がいたなら放っておかないし、緊張していると知ったなら楽にしてほしいと笑う。何かを貰ったなら笑顔で感謝を述べる。

 昴自身が実際に見てきた文乃の対応を振り返り、彼は「でも」と続けた。

「資源が有限であるのと同じように、あなたの優しさも無限ではありません。与えるばかりではすり減って、いずれは尽きてしまう。……受け取るばかりの他人が、あなたの優しさを当たり前などと思ってはいけないのです」
「……っ」

 文乃は零れ落ちそうなほど目を見開いて、くしゃりと顔を歪ませた。

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