恋愛経験ゼロの御曹司様が札束で口説こうとしてきた
騒がしい郁人を置いて、昴は喫茶店に向かう道を車で駆けながら、文乃との出会いを思い返す。
──半年前、泥酔した郁人に大量の酒を飲まされた日の翌朝、割れるような頭の痛みに苛まれながら出勤して。昼休憩時、気分転換にと外の空気を吸いに行ったら、文乃に声を掛けられたのだ。
『あの……顔色が悪そうですが、大丈夫ですか? 良ければお水をお持ちしますが』
彼女は真っ青な顔で広場のベンチに腰掛ける昴を見かけて、わざわざ喫茶店から出てきてくれたらしい。
幼い頃は文句なしの健康優良児で、現在に至るまで重い病にかかったこともなく、また軽い体調不良であれば難なく動くことの出来た昴にとって、このような心配をされたのは初めてのことだった。
ゆえに最初は戸惑い、次第にこの醜態の原因が二日酔いであることがとてつもなく恥ずかしくなったわけだが、背中を擦る文乃の手があまりにも優しくて、「大丈夫です」の一言が出てこなかった。
何より──不思議と文乃から目が離せなかった。
──半年前、泥酔した郁人に大量の酒を飲まされた日の翌朝、割れるような頭の痛みに苛まれながら出勤して。昼休憩時、気分転換にと外の空気を吸いに行ったら、文乃に声を掛けられたのだ。
『あの……顔色が悪そうですが、大丈夫ですか? 良ければお水をお持ちしますが』
彼女は真っ青な顔で広場のベンチに腰掛ける昴を見かけて、わざわざ喫茶店から出てきてくれたらしい。
幼い頃は文句なしの健康優良児で、現在に至るまで重い病にかかったこともなく、また軽い体調不良であれば難なく動くことの出来た昴にとって、このような心配をされたのは初めてのことだった。
ゆえに最初は戸惑い、次第にこの醜態の原因が二日酔いであることがとてつもなく恥ずかしくなったわけだが、背中を擦る文乃の手があまりにも優しくて、「大丈夫です」の一言が出てこなかった。
何より──不思議と文乃から目が離せなかった。