恋愛経験ゼロの御曹司様が札束で口説こうとしてきた
柔らかな枕に頬を埋めたまま、文乃はぼんやりと虚空を見つめていた。
カーテンの隙間から射し込む朝日が、ちょうど頬に当たっては白く照り返す。聞こえるのは美しい鳥のさえずりぐらいで、少し足を動かせば、大袈裟なほど衣擦れの音が耳に届いた。
何とも心地よい朝の気だるさに身を委ねること数分。寝ぼけた意識が徐々にはっきりとしてきたところで、文乃は体に回された温かい腕の存在に気が付いた。
「……!?」
思わず二度見。
腕があるなら本体もすぐそばにあるわけで、文乃は恐る恐る、背中を包むような温もりを振り返る。
そこには案の定、昴の穏やかな寝顔があった。
寝乱れた前髪が目許にかかっていても、少しだけ唇が開いていても、その端整な顔立ちが崩れることはなく。何なら起きているときよりも色気が増しているような気がして、文乃はゆっくりと前に向き直る。
──そして昨晩の記憶を振り返ってみたが、これが何も思い出せない。
昨日は確か、昴が喫茶店に来たのだ。休みが取れたからとわざわざ店に足を運んでくれて、友人の佳奈にも丁寧に挨拶をしていた姿が印象的だった。
午後はあまり客が多くなく、重ねて急な大雨が降ってきたことで早めに閉店して──それから?
カーテンの隙間から射し込む朝日が、ちょうど頬に当たっては白く照り返す。聞こえるのは美しい鳥のさえずりぐらいで、少し足を動かせば、大袈裟なほど衣擦れの音が耳に届いた。
何とも心地よい朝の気だるさに身を委ねること数分。寝ぼけた意識が徐々にはっきりとしてきたところで、文乃は体に回された温かい腕の存在に気が付いた。
「……!?」
思わず二度見。
腕があるなら本体もすぐそばにあるわけで、文乃は恐る恐る、背中を包むような温もりを振り返る。
そこには案の定、昴の穏やかな寝顔があった。
寝乱れた前髪が目許にかかっていても、少しだけ唇が開いていても、その端整な顔立ちが崩れることはなく。何なら起きているときよりも色気が増しているような気がして、文乃はゆっくりと前に向き直る。
──そして昨晩の記憶を振り返ってみたが、これが何も思い出せない。
昨日は確か、昴が喫茶店に来たのだ。休みが取れたからとわざわざ店に足を運んでくれて、友人の佳奈にも丁寧に挨拶をしていた姿が印象的だった。
午後はあまり客が多くなく、重ねて急な大雨が降ってきたことで早めに閉店して──それから?