恋愛経験ゼロの御曹司様が札束で口説こうとしてきた
「それから……昴さんの、おうちに……」

 そうだ、ここは昴の家だったと、物の少ない寝室をきょろきょろと視線だけで見回す。
 そうっと頭を起こしてベッドの下を覗き込んでみれば、床に二人分の衣服が落ちていた。
 まさかシャワーを浴びる暇もなく……と、昨日のなりゆき(・・・・)を察した文乃が、耳を赤くしながらベッドから降りようとしたときだった。

「わっ」

 体がベッドの真ん中まで引きずり戻され、再びすっぽりと後ろから抱き込まれる。
 ぱちぱちと目を瞬かせた文乃は、そのままの体勢で口を開いた。

「昴さん、起きてますか」
「はい」

 掠れた声だったが、きっちりと返事が寄越される。
 昴は目の前にある文乃のうなじに額を擦り付けると、落ち着いたように息を吐き出した。

「おはようございます、文乃さん」
「お、おはようございます……。あの、ええと……昨日は……ご迷惑をお掛けしたようで……」
「…………。迷惑とは?」
「頭も痛いし、記憶も曖昧なので……お酒、飲んだんじゃないかと」

 文乃は酒に強い方ではない。というか弱い。
 例え度数が低くてジュースに等しいものだったとしても、二口も飲めば気持ちよく酔ってしまう。ふわふわした気分で缶一本飲み干せば、翌朝はもうグロッキー状態で。
 佳奈にも「家で飲むようにしないとラクラクお持ち帰りされる」と注意されたものだ。今回は昴と一緒だったから良かっ──良かったのか?

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