恋愛経験ゼロの御曹司様が札束で口説こうとしてきた
一杯の紅茶といっぱいの好意
「──あらあらまぁまぁ、本当に昨日の人だわ」
翌朝、文乃は驚く母と一緒にノートパソコンの前に座っていた。
検索欄に「羽衣石昴」と打ち込んでみたところ、一発で彼の顔写真がずらりと出てきたのだ。
どうやら何度かメディアに取り上げられたらしく、最新の記事を見てみると彼のざっくりとした経歴が表示される。
旧財閥・羽衣石家の御曹司。国立大学を首席で卒業後、羽衣石物産に入社。再生エネルギー事業での取り組みは海外からも高い評価を受け、その功績から現在は宇宙事業にも携わっており、同社の次期社長としても注目を集める人物である──。
「う、宇宙事業……? やっぱり社長さんになるんだ……」
「凄いわねぇ。文乃ちゃんったらこんな大物を釣り上げちゃうなんて。──まあ美味しい」
母が舌鼓を打つ上品な甘さのチョコレート菓子は、昴が昨日渡したものだ。羽衣石グループの食品会社が毎年クリスマスになると季節限定で売り出しているシリーズで、これはその試作品だと言っていた。
よければ感想や改善案を聞かせてほしいとのことが──文句の付けようがない。クリスマスシーズンになったら改めて自分で買おう。そんなことを考えつつ文乃はノートパソコンの電源を落とす。
「それで? どうするの?」
「何が?」
「やだ白々しい。羽衣石さんとお付き合いしてみないの?」
母に肩を小突かれ、文乃は複雑な面持ちで沈黙した。
半年ほど前、恋人に浮気されてコーヒーをぶちまけて別れたことは、すでに家族の知るところだ。ついでに学生時代から何度もそういったことがあったせいで、今や男性不信に近い状態であることも。
況してや相手は旧財閥の御曹司。その辺りにも大きな壁や身分の違いを実感せざるを得ない。
だが、母はそれを踏まえた上で文乃の背を優しく擦った。
「文乃ちゃんの優しさに付け込んで最低なことをした人たちは、お母さんも許してないけどねぇ。だからって、もう誰とも付き合うな! なんて言うつもりもないのよ」
「……うん」
「羽衣石さんは誠実そうだし、自分のことは自分で出来そうじゃない。文乃ちゃんが世話を焼く暇もなさそうだから、お母さんおすすめです」
「昨日ちょっと話しただけなのに……?」
「お菓子で懐柔された感じは否めないわね。ま、あんな人とお話できる機会もそうそう無いし、お付き合い云々を抜きにしても良い刺激になるかもよ」
──もう少し気楽に捉えてみたら?
母の言葉に、文乃は苦笑まじりに頷いたのだった。
翌朝、文乃は驚く母と一緒にノートパソコンの前に座っていた。
検索欄に「羽衣石昴」と打ち込んでみたところ、一発で彼の顔写真がずらりと出てきたのだ。
どうやら何度かメディアに取り上げられたらしく、最新の記事を見てみると彼のざっくりとした経歴が表示される。
旧財閥・羽衣石家の御曹司。国立大学を首席で卒業後、羽衣石物産に入社。再生エネルギー事業での取り組みは海外からも高い評価を受け、その功績から現在は宇宙事業にも携わっており、同社の次期社長としても注目を集める人物である──。
「う、宇宙事業……? やっぱり社長さんになるんだ……」
「凄いわねぇ。文乃ちゃんったらこんな大物を釣り上げちゃうなんて。──まあ美味しい」
母が舌鼓を打つ上品な甘さのチョコレート菓子は、昴が昨日渡したものだ。羽衣石グループの食品会社が毎年クリスマスになると季節限定で売り出しているシリーズで、これはその試作品だと言っていた。
よければ感想や改善案を聞かせてほしいとのことが──文句の付けようがない。クリスマスシーズンになったら改めて自分で買おう。そんなことを考えつつ文乃はノートパソコンの電源を落とす。
「それで? どうするの?」
「何が?」
「やだ白々しい。羽衣石さんとお付き合いしてみないの?」
母に肩を小突かれ、文乃は複雑な面持ちで沈黙した。
半年ほど前、恋人に浮気されてコーヒーをぶちまけて別れたことは、すでに家族の知るところだ。ついでに学生時代から何度もそういったことがあったせいで、今や男性不信に近い状態であることも。
況してや相手は旧財閥の御曹司。その辺りにも大きな壁や身分の違いを実感せざるを得ない。
だが、母はそれを踏まえた上で文乃の背を優しく擦った。
「文乃ちゃんの優しさに付け込んで最低なことをした人たちは、お母さんも許してないけどねぇ。だからって、もう誰とも付き合うな! なんて言うつもりもないのよ」
「……うん」
「羽衣石さんは誠実そうだし、自分のことは自分で出来そうじゃない。文乃ちゃんが世話を焼く暇もなさそうだから、お母さんおすすめです」
「昨日ちょっと話しただけなのに……?」
「お菓子で懐柔された感じは否めないわね。ま、あんな人とお話できる機会もそうそう無いし、お付き合い云々を抜きにしても良い刺激になるかもよ」
──もう少し気楽に捉えてみたら?
母の言葉に、文乃は苦笑まじりに頷いたのだった。