派手好きで高慢な悪役令嬢に転生しましたが、バッドエンドは嫌なので地味に謙虚に生きていきたい。
「……俺は、何かを成し遂げようとする者は、尊敬できる者であると思っている。例えそれで何もできなかったとしても、その心意気こそが何よりも大切なものであるとそう考えているからだ」
「……はい」
「俺は、お前のことを尊敬している。お前のその意思は、気高きものだ。俺は、この世界にいたお前という存在を生涯忘れないだろう」

 ディゾール様は、私のことを称賛してくれた。それは、素直に嬉しいことである。
 入学式の時、彼は苛烈なことを言っていた。それを改めて思い出す。
 あの時の私は、彼に褒められるなんて思ってもいなかった。そういう人間になれたことは、誇るべきことだろう。

「ありがとうございます、ディゾール様。あなたのような誇り高き人にそこまで言ってもらえることを、私は嬉しく思います」
「……」
「ディゾール様……」

 そこで、ディゾール様はその右手を差し出してきた。私は、ゆっくりとその手を取る。
 彼は、私の手を力強く握ってきた。それに対して、私も同じように力を込める。
 それは、お互いに対する敬意の表れのように感じた。この感触を決して忘れない。そう思いながら、私達はしばらくその手を握り続けるのだった。
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