いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
「何だ何だ、誰もいないのか? 指名でもいいぞ、誰かいないか?」
担任は呆れた顔をした。そして、ちらりと期待を込めた視線を篠原に送ると、篠原は素知らぬ顔でにこりと笑顔を返した。
「せんせーい、僕は西田さんが良いと思いまーす」
まったく進展がないのに見かねて、担任が再度口を開こうとしたときだった。小林が手を上げて西田を指名した。
「西田さんはまじめなので、俺も西田さんが良いと思います」
他の生徒も倣って手を上げる。すると、順々にクラスの男子たちが面白がって西田を指名し始めた。女子達の笑う声が広がる。
「西田、皆に期待されてるぞ。どうだ、学級委員やってみないか?」
「ええっと……」
西田は人の前に立つのが苦手だ。ましてや人をまとめることなど出来ない。西田は周囲の強制的な空気に圧倒されて、嫌だとも言えなかった。
「西田、やれよ。みんなが頼んでるんだからさ」
「そうだよ西田」
「やれよ、西田」
西田、西田と、一つひとつの指名の声が野次に変わる。そこに女子達のくすくす嘲笑する声が合わさった。
面倒な役割を全て西田に押し付けようとしている。クラス全体の意見が、学級委員は西田がやるべきだと言っている。西田は泣きたくなって、背中を丸めて小さくなった。
「立候補します」
澄んだ、はっきりとした声が響くと、教室中の野次がぴたりと止まった。西田は俯いていた顔を上げて、驚いて篠原を見た。誰もが驚いた顔で、手を挙げた篠原を見ている。
「西田さんがどうしても学級委員をやりたいと言うのなら、引き下がりますけど」
篠原が西田に微笑むと、西田は当惑した顔で目を泳がせた。
「そうか。先生としては自主性を重んじたいと思っているんだが、西田も皆に期待されてるしな。どうする、西田」
西田は生唾を呑みこむと、蚊の鳴くような声で「僕は……別に……」と答えた。
「それじゃあ、学級委員は篠原に決まりだ。あとは副委員長。これは女子にやってもらいたいんだが、誰かいないか」
篠原が学級委員に立候補した途端、女子達の目がギラリと光った――。
あの時、篠原がなぜ学級委員に立候補したのかはわからない。学級委員になれば内申書に書いてもらえるから、西田のことは関係がなかいのかもしれない。しかし、それでも西田は助けられた。
篠原が何を考えているのか。あれはどういうつもりだったのか。西田は何もわからないまま、未だに篠原に聞けずにいる。
*
一日の学校が終わり、咲乃はかばんを肩にかけた。これから職員室に寄ってから、成海の家に行く。
稚奈の勉強を見るようになってからは、彼女の勉強のことも考えなければならない。稚奈曰く、「本気で受かりたい」のだそうだ。偏差値のさほど高くはない高校だから、1、2年生の勉強の基礎が分かっていれば余裕で受かる。受験勉強に関しては、今からでも余裕で取り返せるだろう。あとは、本人のやる気次第だが。
「なぁ、篠原。これから日下たちと遊ぶんだけど、篠原もどう?」
悠真に遊びに誘われ、咲乃は困った顔をして悠真に謝った。
「ごめん、これから職員室に寄ってすぐに帰らないと。勉強もしないといけないし」
「……そっか。桜花咲だもんな。気分転換したくなったらいつでも言えよ」
「うん。ありがとう」
咲乃が柔らかく笑うと、悠真は何かを考えるように視線を外した。再び視線を合わせ、口を開いた。
「篠原ってさ――」
「ゆーま、何やってんの? 早く帰ろーよー」
教室の外から、女子生徒が不満気に声を掛けた。
「悪い、今行くわ」
悠真が苦笑気味に女子生徒に応えると、咲乃に向き直った。
「やっぱ何でもない。じゃあな、篠原」
「うん、またね」
女子生徒と共に教室を出て行く新島悠真を見送って、咲乃は職員室へ向かった。悠真のためらうような表情を思い出して、自分に何を言おうとしたんだろうと頭の隅で考えていた。
担任は呆れた顔をした。そして、ちらりと期待を込めた視線を篠原に送ると、篠原は素知らぬ顔でにこりと笑顔を返した。
「せんせーい、僕は西田さんが良いと思いまーす」
まったく進展がないのに見かねて、担任が再度口を開こうとしたときだった。小林が手を上げて西田を指名した。
「西田さんはまじめなので、俺も西田さんが良いと思います」
他の生徒も倣って手を上げる。すると、順々にクラスの男子たちが面白がって西田を指名し始めた。女子達の笑う声が広がる。
「西田、皆に期待されてるぞ。どうだ、学級委員やってみないか?」
「ええっと……」
西田は人の前に立つのが苦手だ。ましてや人をまとめることなど出来ない。西田は周囲の強制的な空気に圧倒されて、嫌だとも言えなかった。
「西田、やれよ。みんなが頼んでるんだからさ」
「そうだよ西田」
「やれよ、西田」
西田、西田と、一つひとつの指名の声が野次に変わる。そこに女子達のくすくす嘲笑する声が合わさった。
面倒な役割を全て西田に押し付けようとしている。クラス全体の意見が、学級委員は西田がやるべきだと言っている。西田は泣きたくなって、背中を丸めて小さくなった。
「立候補します」
澄んだ、はっきりとした声が響くと、教室中の野次がぴたりと止まった。西田は俯いていた顔を上げて、驚いて篠原を見た。誰もが驚いた顔で、手を挙げた篠原を見ている。
「西田さんがどうしても学級委員をやりたいと言うのなら、引き下がりますけど」
篠原が西田に微笑むと、西田は当惑した顔で目を泳がせた。
「そうか。先生としては自主性を重んじたいと思っているんだが、西田も皆に期待されてるしな。どうする、西田」
西田は生唾を呑みこむと、蚊の鳴くような声で「僕は……別に……」と答えた。
「それじゃあ、学級委員は篠原に決まりだ。あとは副委員長。これは女子にやってもらいたいんだが、誰かいないか」
篠原が学級委員に立候補した途端、女子達の目がギラリと光った――。
あの時、篠原がなぜ学級委員に立候補したのかはわからない。学級委員になれば内申書に書いてもらえるから、西田のことは関係がなかいのかもしれない。しかし、それでも西田は助けられた。
篠原が何を考えているのか。あれはどういうつもりだったのか。西田は何もわからないまま、未だに篠原に聞けずにいる。
*
一日の学校が終わり、咲乃はかばんを肩にかけた。これから職員室に寄ってから、成海の家に行く。
稚奈の勉強を見るようになってからは、彼女の勉強のことも考えなければならない。稚奈曰く、「本気で受かりたい」のだそうだ。偏差値のさほど高くはない高校だから、1、2年生の勉強の基礎が分かっていれば余裕で受かる。受験勉強に関しては、今からでも余裕で取り返せるだろう。あとは、本人のやる気次第だが。
「なぁ、篠原。これから日下たちと遊ぶんだけど、篠原もどう?」
悠真に遊びに誘われ、咲乃は困った顔をして悠真に謝った。
「ごめん、これから職員室に寄ってすぐに帰らないと。勉強もしないといけないし」
「……そっか。桜花咲だもんな。気分転換したくなったらいつでも言えよ」
「うん。ありがとう」
咲乃が柔らかく笑うと、悠真は何かを考えるように視線を外した。再び視線を合わせ、口を開いた。
「篠原ってさ――」
「ゆーま、何やってんの? 早く帰ろーよー」
教室の外から、女子生徒が不満気に声を掛けた。
「悪い、今行くわ」
悠真が苦笑気味に女子生徒に応えると、咲乃に向き直った。
「やっぱ何でもない。じゃあな、篠原」
「うん、またね」
女子生徒と共に教室を出て行く新島悠真を見送って、咲乃は職員室へ向かった。悠真のためらうような表情を思い出して、自分に何を言おうとしたんだろうと頭の隅で考えていた。