いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
 その後、部屋の中は大いに盛り上がった。女子たちが他のカードゲームやポケット式のボードゲームをもってきていたおかげで、就寝時間を過ぎ、ようやく女子たちが部屋を出た頃には夜中の3時近くになっていた。
 悠真たちも大人しく布団にもぐった。それでもまだ遊び足りない小林や中川たちが、お菓子の袋を開けながらこそこそ話しては笑っている。咲乃はどっと疲れがやってきて、時々話しかけられてちょっかいを出されても、がんとして寝たふりをした。



 翌日、咲乃は朝の6時には起き出して、シャワーを済ませると身支度を整えた。朝の7時から学級委員のみの朝礼と、食堂の受付の仕事がある。名簿で、来たグループをチェックして、テーブルの番号札を渡すのだ。

 朝礼は簡単に済まされた。怪我人が出ないように再三注意喚起がされた後、各自仕事に入った。咲乃は副委員長と一緒に受付に立って、やってきたグループに番号札を渡して席の案内をする。朝食はバイキング式で、自分で好きな料理を好きなだけとっていいことになっている。

 悠真たちも、時間通りにちゃんとやってきた。昨晩騒ぎすぎたのが影響して若干元気がないが、咲乃が人数を確認してチェックをすると「後でな」と、それぞれ一言声をかけてバイキングの列に加わった。

 一通り全クラスのグループがそろい、咲乃たちは担任に報告を済ませて自分たちの朝食を取りに行く。そのときだった。食堂に女子の悲鳴が起こった。咲乃が騒ぎに駆け付けると、女子達が一人の女子を取り囲んで、心配そうに声をかけていた。その少し離れた場所で、西田は床にひっくり返った料理とお盆を、青い顔で呆然と眺めていた。

「大丈夫?」

 西田の落とした料理が、女子の手に掛ったのだ。やけどしたらしく、痛そうに赤くなった手を押さえている。クラスメイトたちが騒然とする中、咲乃は清潔な冷たい布巾を女子生徒の手に巻き付けた。

「笹本さん、戸塚さんを養護教諭の先生のところへ連れて行ってくれる?」

 咲乃が副委員長に頼むと、副委員長は「わかった」とうなずいて火傷した女子生徒を養護教諭まで連れて行った。

「西田最低」

「戸塚さん可哀想」

「謝れよ」

 咲乃が雑巾を取りに戻ると、女子達が声を潜めて話しているのを聞いた。西田は白い顔で突っ立っていた。頭が真っ白になって正常な判断ができないのだ。自分がしたことに理解が追い付いていない様子で固まっている。

「西田くん、床拭くの一緒に手伝ってくれる?」

 咲乃が西田に雑巾を手渡すと、西田は震える手で雑巾を受け取った。

 咲乃が床の汚れを片付けようとしていると、女子達が慌てて咲乃を止めた。

「篠原くんはやらなくていいよ、私たちがやるから!」

「学級委員のお仕事だけでも大変なんだから、私たちのことも頼って!」

「……うん、ありがとう」

 数名の女子達は咲乃から雑巾を取り上げると、自分たちでせっせと雑巾がけを始めた。

「清水達がやってるんだからすぐに終わるよ。ここは清水たちに任せて、朝食取りに行けば?」

 咲乃が心配して様子を窺っていると、悠真がバイキングの列を指さした。もうほとんどのグループは席に着いたようだ。バイキングの列も、最後尾が見えている。
 女子達が手際よく床にこぼした料理をふき取っている横で、西田はうまくふき取れずに悪銭苦闘していた。周囲の視線と罪悪感で緊張しているらしかった。ただ拭くだけなのに、床を汚すだけで全く作業が進まない。

「西田くん、邪魔なんだけど。ろくに掃除もできないわけ?」

「……ご、ごめ――」

 女子の一人が、西田を無理やりどかせた。小さな謝罪の言葉も、どかされた拍子に途切れてしまった。
 咲乃は、途方に暮れたように立っている西田の肩を叩いた。

「西田くんも、朝食を取りに行こう。清水さん、あとはお願いね」

 咲乃が女子達に声をかけ、西田と一緒にバイキングの列の最後尾に並んだ。

 それぞれがテーブルに着き、朝食にありついていたころ、咲乃は西田の方を見た。西田のいるグループはクラスでも大人しい子ばかりが集まっていて、和やかに喋っているという雰囲気ではない。その中でも西田の顔色は青ざめ、見るからに具合の悪そうな顔をしていた。食欲も起こらないらしく、食事も進んでいない。

「気にすんなって」

 咲乃の視線の先に気づいて、悠真が言った。

「篠原は委員長だからって他人(ひと)の事気にしすぎ。せっかくの修学旅行なのに、人の世話で終わらせるつもり?」

「……そうだね、気を付けるよ」

 困っている生徒がいれば助けるのが委員長の役割だが、今、咲乃ができることは何もない。悠真の気遣いに、咲乃は素直に頷いた。



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お読みいただきありがとうございました。

明日12/13
17:30 ep43 まるで夢みたいな瞬間に浸る

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