いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
「この時間なら、まだ開放されているから外には出られるよ。ここのホテル、夜景が奇麗だって有名なんだって」

「そ、そうなんだ」

 まさか咲乃の方から誘われるとは思っていなかった。彩美が赤い顔のまま目を瞬かせていると、咲乃は彩美の手を取った。

「少し外で風にあたろう。まだ少し熱そうだから」

 包まれた手の中で、彩美の指の先から熱がともる。熱を与えたのは誰のせいだろう。

 彩美は咲乃に促されるままバルコニーへ出た。緩い風が頬を撫でて、濡れていた髪を揺らす。目の前に広がる京都の街灯りの、豊かな色彩を持った輝きは、彩美の大きな瞳でさえ捉えきれない。

 あっさり離れた手に寂しさを残して、夜風よりも柔らかい笑顔で咲乃が笑う。その顔があまりにも美しくて、彩美は耐え切れずに目線を夜景に戻した。夜景を見ていた方が、心臓には優しかった。

「橋本さんが、俺を頼ってくれてよかった」

 彩美は再び咲乃の方を見た。咲乃は可笑しそうに口元を押さえてくすくすと笑っていた。

「橋本さんに言われたんだ。『友達なら手伝ってよ』って」

「えぇっ、愛花ったらそんなこと言ったの!?」

 ただでさえ、自分のクラスのことで忙しくしている咲乃に、なんて雑なお願いの仕方だろう。愛花も去年は、咲乃と同じクラスだったからって、図々しすぎるのではないか。

「でも、もう違うクラスだから関係ないと思われていたら悲しいから、頼ってくれた時は嬉しかったよ。橋本さんにも、山口さんにも」

「……そう、だよね」

 咲乃がそう言ってくれるのは嬉しい。去年のクラスを、親しんでくれているのだとわかるから。
 でもそれは、彩美とって望ましい形ではない。彩美がなりたいのは、そんなものではない。去年同じクラスだった友達(・・)だなんて。
 彩美は複雑な気持ちを抱えたまま、夜景を眺めた。

「戻ろう。あまり冷え過ぎてしまうといけないし。橋本さんによろしく言っておいてね」

「うん、愛花に言っておくね。こちらこそ、ありがとう。篠原くん」

 その後彩美は、咲乃と他愛のない話をしながら部屋に戻った。お礼を言おうと愛花のもとへ近づくと、愛花は布団の上でスマホをいじっていた。

「おっかえりー。だから、長風呂はほどほどにしろって言ったじゃん」

「ごめん。色々ありがと」

 愛花に言われて、彩美はばつの悪い想いで謝った。愛花は彩美がおとなしく謝るのを聞いて、口角を上げた。

「で、篠原くんとの時間を作ってあげたんだからさ。今度なんか奢ってよね」

 可愛いヒロインには、同じく華やかで有能な聞き役の親友が必要不可欠である。彩美は、目の前の有能な親友に深く感謝した。
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