いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
「でも、勉強頑張るとすごく褒めてくれるんだよ? 篠原くんって、勉強教えるのも上手だけど、やる気にさせたり褒めたりするのがすっごく上手いの。だから、ついつい頑張っちゃうんだよね。2年生の時にね、レポートの課題、提出期限ぎりぎりまで放置しちゃってたんだけど、篠原くんが図書室で2時間も手伝ってくれたんだぁ! おかげで、先生にレポート褒められちゃった」
「……そ、うなんだ」
嬉々として咲乃とのことを話す稚奈に、彩美は動揺を必死に隠していた。
咲乃の知らない一面を、本田稚奈からまざまざと伝えられる。彩美は、咲乃が個人的に勉強を教えるほど、面倒見がいい人だなんて知らなかった。提出期限ぎりぎりまで放置していたレポートに付き合ってくれるような人だとも思っていなかった。彩美が知っている咲乃は、やさしい一面もありながら、あまり深入りしない人だったから。
「山口さんも、篠原くんと仲がいいんでしょ?」
稚奈が笑顔のままくるりと彩美に振り向いた。彼女の細い髪の毛の一本一本が、夕日の光をはじいてきらきらと輝いている。
「山口さんも、篠原くんに勉強教えてもらえばいいのに!」
悪意無く輝かしい笑顔で言われて、彩美は言葉をなくした。稚奈のその言葉は彩美の中で鈍く響き、激しい悔しさや憤りではらわたが煮えくり返るようだった。
咲乃と過ごした時間の少なさを。夢見るだけで、遠くに感じるその距離を、嘲笑われているような気がしたから。
*
――西田くんをいじめるの、やめてくれない?――
「――ま、――悠真ったら!」
袖を引かれて、はっと我に返る。引かれた方を見ると、少女が不満そうな顔をして悠真を見ていた。
「何考えてんの。うちの話聞いてる?」
「あ……あぁ、聞いてる聞いてる」
「ほんとぉ? なーんか、今日の悠真ぼーっとしてばっかり」
「ごめんって、沙織」
その日、悠真は付き合って2年になる彼女とファミレスでデートしていた。デートと言っても、一方的に彼女の話を聞き、適当に相槌をうつだけの時間だ。上の空でも気付かれない程度には話を聞いているつもりだったのだが、相当ぼんやりしているように見えてしまったらしい。
膨れている彼女の頬を、悠真が甘い顔で触れれば、彼女は途端に機嫌を直す。悠真はいつものように、彼女と恋人らしい戯れをして、彼女の機嫌を取った。
空が暗くなった頃。ファミレスを出て、彼女を家まで送り届けた。その帰り道、悠真はひとり、分厚い雲の広がる夜空を眺めて歩く。
空洞のように空いた心の穴の中で、大量の蟲が仰け反るような不快感。中1の時からそれはあった。西田と同じクラスになった時からだ。
中学1年生の頃から同じクラスだった西田が、ずっと目障りだった。理由は特に無い。ただ受け付けないのだ。行動が、言動が、性格が、思考が、存在の全てが。
何もしてなくとも、生きている事だけで殺意が湧くほど。この、胸の中に広がる、蟲がのたうち回るような感覚と同じ不快感を覚える。
「西田をいじめるのをやめろ、ねぇ」
あんなゴミを庇って何になるのだろう。周囲が迷惑を被るだけの、愚図で、無能で、存在する価値のない奴が。
「篠原だって、嫌いなくせに」
俺と篠原は似ているから。
咲乃が時々、悠真と同じ心の中の不快感に耐えるような顔をしているのを見たことがある。本当は篠原だって、ああいう無能が嫌いなのだ。
他人の足を引っ張るだけの存在価値の無い無能。息をしているだけで人を不快にさせ、視界に入ると不快感しか残さない。潜在的に嫌悪感を与えさせるような人間。
無数の大きな蟲が身体の中を這い回り蠢くような。あの不快感と同じ感覚を覚える、西田を。
心の底から。
「殺してやりたいって、思ってるくせに」
「……そ、うなんだ」
嬉々として咲乃とのことを話す稚奈に、彩美は動揺を必死に隠していた。
咲乃の知らない一面を、本田稚奈からまざまざと伝えられる。彩美は、咲乃が個人的に勉強を教えるほど、面倒見がいい人だなんて知らなかった。提出期限ぎりぎりまで放置していたレポートに付き合ってくれるような人だとも思っていなかった。彩美が知っている咲乃は、やさしい一面もありながら、あまり深入りしない人だったから。
「山口さんも、篠原くんと仲がいいんでしょ?」
稚奈が笑顔のままくるりと彩美に振り向いた。彼女の細い髪の毛の一本一本が、夕日の光をはじいてきらきらと輝いている。
「山口さんも、篠原くんに勉強教えてもらえばいいのに!」
悪意無く輝かしい笑顔で言われて、彩美は言葉をなくした。稚奈のその言葉は彩美の中で鈍く響き、激しい悔しさや憤りではらわたが煮えくり返るようだった。
咲乃と過ごした時間の少なさを。夢見るだけで、遠くに感じるその距離を、嘲笑われているような気がしたから。
*
――西田くんをいじめるの、やめてくれない?――
「――ま、――悠真ったら!」
袖を引かれて、はっと我に返る。引かれた方を見ると、少女が不満そうな顔をして悠真を見ていた。
「何考えてんの。うちの話聞いてる?」
「あ……あぁ、聞いてる聞いてる」
「ほんとぉ? なーんか、今日の悠真ぼーっとしてばっかり」
「ごめんって、沙織」
その日、悠真は付き合って2年になる彼女とファミレスでデートしていた。デートと言っても、一方的に彼女の話を聞き、適当に相槌をうつだけの時間だ。上の空でも気付かれない程度には話を聞いているつもりだったのだが、相当ぼんやりしているように見えてしまったらしい。
膨れている彼女の頬を、悠真が甘い顔で触れれば、彼女は途端に機嫌を直す。悠真はいつものように、彼女と恋人らしい戯れをして、彼女の機嫌を取った。
空が暗くなった頃。ファミレスを出て、彼女を家まで送り届けた。その帰り道、悠真はひとり、分厚い雲の広がる夜空を眺めて歩く。
空洞のように空いた心の穴の中で、大量の蟲が仰け反るような不快感。中1の時からそれはあった。西田と同じクラスになった時からだ。
中学1年生の頃から同じクラスだった西田が、ずっと目障りだった。理由は特に無い。ただ受け付けないのだ。行動が、言動が、性格が、思考が、存在の全てが。
何もしてなくとも、生きている事だけで殺意が湧くほど。この、胸の中に広がる、蟲がのたうち回るような感覚と同じ不快感を覚える。
「西田をいじめるのをやめろ、ねぇ」
あんなゴミを庇って何になるのだろう。周囲が迷惑を被るだけの、愚図で、無能で、存在する価値のない奴が。
「篠原だって、嫌いなくせに」
俺と篠原は似ているから。
咲乃が時々、悠真と同じ心の中の不快感に耐えるような顔をしているのを見たことがある。本当は篠原だって、ああいう無能が嫌いなのだ。
他人の足を引っ張るだけの存在価値の無い無能。息をしているだけで人を不快にさせ、視界に入ると不快感しか残さない。潜在的に嫌悪感を与えさせるような人間。
無数の大きな蟲が身体の中を這い回り蠢くような。あの不快感と同じ感覚を覚える、西田を。
心の底から。
「殺してやりたいって、思ってるくせに」