いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
自分で言っておいて何だが、あの篠原が爽やかな顔をして休み時間中に読んでる本がエロ本だったらと想像したら面白く思えてきた。日下が腹を抱えて笑っていると、加奈は益々不機嫌な顔で膨れた。
「あー、もうサイテー。はーい、明日から日下くんのこと無視しまーす。もう一生喋りませーん」
「いや、ごめんて」
普段からよく口喧嘩する二人だったが、加奈に無視されることほど堪えるものはない。慌てて日下が謝ると、加奈は可笑しそうにケラケラ笑った。
加奈はひとしきり笑った後、小さく息をつき、再び表情をくもらせた。
「ねぇ、最近の悠真さ……大丈夫?」
「何が?」
「うーん」
今日の加奈はよく言い淀む。今も、言おうかどうか躊躇った後、首を横に振った。
「ううん、別に。ただ、昔は楽しかったなぁって思って」
「なんだ、それ」
困ったように笑った加奈に、日下は分からないふりをして拍子抜けした声を上げた。本当は、加奈が言いたいことは分かっていた。分かっていながら、分からないふりをする。表面上はへらへらしながら、気分は最悪だった。
ようやく加奈の家の前に到着した。昔から、何度も訪れたことなる外観。家の明かりがついている。加奈は日下の方を振り向いて、小学生の頃の面影のある顔で笑った。
「家まで送ってくれたから、無視はナシにしてあげる!」
一応、今日の無礼は許されたみたいだ。加奈が家の中に入って行くのを見送り、日下は帰路についた。
*
日下にとって悠真は、保育園時代からの幼馴染であり、唯一の親友だ。高校は同じ学校に行くことを決めているし、多分この先、別の大学へ進学して、違う会社に就職して、別の場所で暮らすことになっても、日下は悠真の親友で居続けられる自信がある。
日下にとって悠真は、友達というより家族や兄弟に近い。多分、ずっと付き合い続ける親友なのだと思っていた。
悠真は昔から友達想いだった。社交的で、活発で、人を楽しませることも好きだった。それに加えて見栄えする容姿も備えている。
誰をも魅力し、惹きつけるカリスマ的な存在。しかし、そんな悠真にも欠点があった。
子供の頃から器用でなんでもすぐにこなせてしまう彼は、不器用で要領が悪い人間に対する理解が低かった。なぜ自分に出来ることが、他の人には出来ないのか理解が出来ないのだ。また、悠真は表面的な容姿のみで、友達の好き嫌いを決める節があった。どんなに心優しくとも、話の面白い人間でも、悠真は容姿の悪い人間とは関わろうとも思わない。単純に関心が湧かないのだ。
それでも、今のように嫌悪するほどでもなかった。だが、ある出来事がきっかけで、悠真は“出来ないやつ”と”容姿の悪いやつ”を、極端に嫌悪するようになってしまった。
事の切っ掛けは、小6の頃。同じクラスにいたデブスの女子が悠真に好意を抱いていることが発覚した。女子が使っていた消しゴムに、悠真の名前が書かれているのを、悠真自身が見てしまったのだ。
日下たちはその時のことを面白がって、さんざん悠真を貶した。しかし、悠真は本気で嫌だったようで、その時のことがある種のトラウマになっているのか、それ以来、容姿の悪いやつを極端に避けるようになった。そして、その女子が要領も悪かったから、余計に出来ない奴への印象は悪くなったみたいだった。
中学に入ると、悠真が大人びたことで、より周囲が華やかになった。女子の友達も多くなり、仲良しグループの中にいた遠藤沙織と付き合うようにもなった。彼女は顔もスタイルも申し分ない、性格もはつらつとしていてノリのいい女子だ。
悠真から、遠藤と付き合うことになったと聞いた時、正直日下はほっとした。悠真は、加奈が好きなんじゃないかと思っていたから。
彼女が出来て、友達も沢山いて、学年の人気者で、勉強も運動も出来て、何不自由のない鮮やかな青春時代だ。
楽しくないわけがない。それなのに、何故だろう。最近の悠真は、全く楽しそうに見えない。
悠真の考えていることが分からない。何が不満で何に苛立っているのか、焦っているのか、足らないのか。
幼い頃からずっと近くで見てきたはずなのに。悠真が何を望んでいて何に苦しんでいるのか、日下には全く分からなかった。
「あー、もうサイテー。はーい、明日から日下くんのこと無視しまーす。もう一生喋りませーん」
「いや、ごめんて」
普段からよく口喧嘩する二人だったが、加奈に無視されることほど堪えるものはない。慌てて日下が謝ると、加奈は可笑しそうにケラケラ笑った。
加奈はひとしきり笑った後、小さく息をつき、再び表情をくもらせた。
「ねぇ、最近の悠真さ……大丈夫?」
「何が?」
「うーん」
今日の加奈はよく言い淀む。今も、言おうかどうか躊躇った後、首を横に振った。
「ううん、別に。ただ、昔は楽しかったなぁって思って」
「なんだ、それ」
困ったように笑った加奈に、日下は分からないふりをして拍子抜けした声を上げた。本当は、加奈が言いたいことは分かっていた。分かっていながら、分からないふりをする。表面上はへらへらしながら、気分は最悪だった。
ようやく加奈の家の前に到着した。昔から、何度も訪れたことなる外観。家の明かりがついている。加奈は日下の方を振り向いて、小学生の頃の面影のある顔で笑った。
「家まで送ってくれたから、無視はナシにしてあげる!」
一応、今日の無礼は許されたみたいだ。加奈が家の中に入って行くのを見送り、日下は帰路についた。
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日下にとって悠真は、保育園時代からの幼馴染であり、唯一の親友だ。高校は同じ学校に行くことを決めているし、多分この先、別の大学へ進学して、違う会社に就職して、別の場所で暮らすことになっても、日下は悠真の親友で居続けられる自信がある。
日下にとって悠真は、友達というより家族や兄弟に近い。多分、ずっと付き合い続ける親友なのだと思っていた。
悠真は昔から友達想いだった。社交的で、活発で、人を楽しませることも好きだった。それに加えて見栄えする容姿も備えている。
誰をも魅力し、惹きつけるカリスマ的な存在。しかし、そんな悠真にも欠点があった。
子供の頃から器用でなんでもすぐにこなせてしまう彼は、不器用で要領が悪い人間に対する理解が低かった。なぜ自分に出来ることが、他の人には出来ないのか理解が出来ないのだ。また、悠真は表面的な容姿のみで、友達の好き嫌いを決める節があった。どんなに心優しくとも、話の面白い人間でも、悠真は容姿の悪い人間とは関わろうとも思わない。単純に関心が湧かないのだ。
それでも、今のように嫌悪するほどでもなかった。だが、ある出来事がきっかけで、悠真は“出来ないやつ”と”容姿の悪いやつ”を、極端に嫌悪するようになってしまった。
事の切っ掛けは、小6の頃。同じクラスにいたデブスの女子が悠真に好意を抱いていることが発覚した。女子が使っていた消しゴムに、悠真の名前が書かれているのを、悠真自身が見てしまったのだ。
日下たちはその時のことを面白がって、さんざん悠真を貶した。しかし、悠真は本気で嫌だったようで、その時のことがある種のトラウマになっているのか、それ以来、容姿の悪いやつを極端に避けるようになった。そして、その女子が要領も悪かったから、余計に出来ない奴への印象は悪くなったみたいだった。
中学に入ると、悠真が大人びたことで、より周囲が華やかになった。女子の友達も多くなり、仲良しグループの中にいた遠藤沙織と付き合うようにもなった。彼女は顔もスタイルも申し分ない、性格もはつらつとしていてノリのいい女子だ。
悠真から、遠藤と付き合うことになったと聞いた時、正直日下はほっとした。悠真は、加奈が好きなんじゃないかと思っていたから。
彼女が出来て、友達も沢山いて、学年の人気者で、勉強も運動も出来て、何不自由のない鮮やかな青春時代だ。
楽しくないわけがない。それなのに、何故だろう。最近の悠真は、全く楽しそうに見えない。
悠真の考えていることが分からない。何が不満で何に苛立っているのか、焦っているのか、足らないのか。
幼い頃からずっと近くで見てきたはずなのに。悠真が何を望んでいて何に苦しんでいるのか、日下には全く分からなかった。