いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
 篠原と面談したときは、安藤のことは何も分からないと答えていた。以前から相談を受けていたというのなら、高木と安藤の不仲は知っていたはず。事前に篠原から、増田に話があっても良かったはずだ。

 嘘をついていた……?

 増田は信じられない気持ちで悠真を見ると、悠真は辛そうな顔で下を向いた。

「あいつ良い奴だけど、時々何考えてんのわかんないとこあって」

 言葉の中に、躊躇うような響きが混じる。

「本当は誰のことも信用してないんじゃないかって思えてくるときがあってさ。こんなこと思いたくないけど、でも、本当に俺たちの事を友達(・・)だって思ってるのかなって――」

 悔しそうに顔をしかめる。悠真と篠原が親しいのを知っていた増田は、悠真の気持ちが良く分かった。親しいと思っていた相手に信用されていないとなると辛いのも当然だろう。

「……先生。本当に篠原は、“何もわからない”って言ったの?」

 ためらうように尋ねる悠真の姿が、篠原の姿と重なる。増田は、篠原に事情を聴いた時のことを思い出した。

 増田と対面した篠原は、いつもと変わらず落ち着いた雰囲気で、静かに座っていた。

――安藤さんがなぜあんなことをしたのか、僕にはわかりません。

 思い詰めた様子で目を落とす。長い睫毛が瞳の奥に陰を作った。

――こんなことになったのは、僕の不注意です。すみませんでした。

 頭を下げた篠原を見て、学級員としていらぬ責任を感じる必要はないと慰めた。

 しかし、悠真の話が確かなら、なぜ篠原は安藤から相談を受けていたことを隠していたのだろうか。何か言えない事情でもあったのか。

「篠原は察しがいいから、安藤さんが思い詰めていたらすぐにわかったと思うんだよね」

 悠真の声が響いて、増田の思考を引き戻す。篠原の姿だった陰は、完全に悠真の姿に戻っていた。

「もしかして篠原は……」

 悠真は少しだけ言葉を詰まらせ。

「安藤さんがこんなことをするのを、わかっていて黙ってたんじゃないかな」

 とても苦しそうな顔をして、そう言った。



 生徒全員の面談が終わり、増田はノートPCで生徒たちから聞いた話をまとめていた。

 悠真の言った言葉が、頭の中で何度も巡っている。篠原に対する疑問はぬぐい切れない。増田にとって篠原は、真面目で信頼のおける優秀な生徒だった。学級委員としての責任感も強い。安藤との関りのことを黙っていたことに関しては、きっと何か理由があったのだろう。
 なぜ黙っていたのか、一度本人に確認してみようか。担任として、知っていたことを黙っていた理由を聞くべきだし、理由によっては咎めるべきだ。

 増田は、疲労と共に溜息を吐いた。その前に安藤と高木の件を解決しなければならない。明日は、高木と安藤の両親との話し合いがあるのだから。
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