いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
「八城台中学校。篠原が転校する前の学校で、行方不明になった生徒がいたんだってな」
日下や村上たちは、悠真が何を言っているのか分からなかった。誰もが彼を不可解そうな表情で見ている。
それもそうだ、栄至中学でこの事件のことを知っている人間は、他に誰もいないのだから。
「失踪する前に、そいつは部屋に書き置きを残してたんだって。なぁ、知ってる? 『ぼくはもう生きたくないので、ぼくをいじめたやつを殺してこの世からいなくなることにします』」
咲乃の顔から表情が消えていく。今までずっと平静を保っていた彼の変化に、悠真は茶化すように言葉を続けた。
「事件の概要はこうだ。男子生徒は以前からクラスメイト数人から酷いいじめをうけていた。男子生徒が行方不明になった当日、近所の神社でいじめていた生徒4名を呼び出し暴行、刃物で切り付けそのまま失踪した。被害を受けた4名のうち1名は軽傷、残り3名は全身酷い打撲と切り傷で重症を負っていたが、数週間後に回復した。現在も警察は、行方不明の少年を捜索している――。なぁ、篠原。いじめてたクラスメイトって、お前だったんじゃないの」
咲乃の様子を観察しながら、悠真は上機嫌に言った。
「……なぜ俺だと?」
ようやく咲乃が言葉を返す。温度を無くしたような、感情のない冷たい声だった。顔を上げた瞳の中には、射るような鋭い光を宿している。悠真は楽し気に目を細めて、咲乃の目を見返した。
「この事件は、去年の夏に起こった事件だった。その後の八城台からの急な転校生。無関係だなんて思わないわけないでしょ」
事件の事は悠真が2年生の頃、夏休み中に流れたネットニュースを見て知った。
未成年が関わる事件だったため、行方不明の少年の名前はもちろん、被害に会った少年たちの名前も伏せられていた。
未成年が起こした傷害事件。しかも、不可解なまま終わっている。少年たちの唯一の情報として記載されていた(14)という数字。悠真と同い年の事件にインパクトがあったのか、“八城台”という地名も含めて、事件のことが妙に頭に残っていた。
夏休みが開け、英至中に転校生がやってきた。その転校生が“八城台”から来たと知ったのは、事件を知った時に興味本位で覗いた八城台中学校が運営するホームページのおかげだった。
学校のホームページには、生徒たちの日常を画像と共に簡潔に書き記したブログ記事が公開されている。その中に、特に目を引く容姿をした男子生徒が映っている画像を見かけたことがあった。八城台中学校の全校生徒の前でスピーチをしていた少年が、話題の転校生と似ていたのだ。
咲乃は、転校初日の自己紹介の時、出身の県名しか言わなかったらしい。しかし、転校生が言った県には八城台という地名がある。出身地や中学のことを聞かれても、咲乃が頑なに明かさなかったのは、事件のことを知られたくなかったからだ。
悠真は咲乃に近づくと、いつもするように、気安く咲乃の肩に腕を乗せた。
「本当に事件と無関係だって言えるか? お前は嘘が得意だから、いつもみたいにすました顔で言ってみろ。『そんな事件と俺は関係ない』ってさ。でも、それって、変わろうと思って足掻いていたものの否定じゃん。本当は、西田とそのいじめてた奴が、被って被って仕方なかったくせに」
悠真は、咲乃の耳元に口を寄せて、囁いた。
「西田とそいつを重ねてどう思ってた。何を感じてた。お前にあったのは罪悪感か。それとも、抗い難い程の嫌悪感か?」
悠真は咲乃から離れると、村上から金属バットを受け取った。悠真は西田をまたぐようにして立ち、バットを高く振り上げる。勢いよく振り下ろされたバットが西田の背中を殴った。
西田は背中を丸め、額に汗を流し、ふーふーとテープで口を塞がれた間からうめき声と共に荒い息を繰り返した。
「最後のゲームだ」
悠真は、バットの芯を自分の手に打ちつけながら言った。
「俺はこのまま、何度も西田を殴り続ける。こいつの骨が折れようが、失神しようが、死のうが絶対にやめない。でも、お前が代わりに殴るなら、西田もそこまでひどい目には合わないだろうな」
悠真は口の端を上げると、バットを振りかぶり。
そして、勢いよく振り下ろす。
「わかった」
西田に振り下ろされる寸前のところで、悠真の手が止まった。
「やるよ」
短く答える咲乃に満足気に頷く。悠真はバットを、咲乃に差し出した。
「俺が良いというまで殴り続けろ。いいな?」
咲乃は持っていたかばんを下ろし、バットを受け取った。
悠真が警告するように、視線で村上たちを示す。村上たちも、それぞれバットを持って控えている。逆らえば、逆に村上たちの返り討ちに合うと言うわけだ。
咲乃は頷き、西田を跨ぐ。両手でグリップを握りしめ、高く掲げる――そのまま西田に向かって勢いよく振り下ろした。
日下や村上たちは、悠真が何を言っているのか分からなかった。誰もが彼を不可解そうな表情で見ている。
それもそうだ、栄至中学でこの事件のことを知っている人間は、他に誰もいないのだから。
「失踪する前に、そいつは部屋に書き置きを残してたんだって。なぁ、知ってる? 『ぼくはもう生きたくないので、ぼくをいじめたやつを殺してこの世からいなくなることにします』」
咲乃の顔から表情が消えていく。今までずっと平静を保っていた彼の変化に、悠真は茶化すように言葉を続けた。
「事件の概要はこうだ。男子生徒は以前からクラスメイト数人から酷いいじめをうけていた。男子生徒が行方不明になった当日、近所の神社でいじめていた生徒4名を呼び出し暴行、刃物で切り付けそのまま失踪した。被害を受けた4名のうち1名は軽傷、残り3名は全身酷い打撲と切り傷で重症を負っていたが、数週間後に回復した。現在も警察は、行方不明の少年を捜索している――。なぁ、篠原。いじめてたクラスメイトって、お前だったんじゃないの」
咲乃の様子を観察しながら、悠真は上機嫌に言った。
「……なぜ俺だと?」
ようやく咲乃が言葉を返す。温度を無くしたような、感情のない冷たい声だった。顔を上げた瞳の中には、射るような鋭い光を宿している。悠真は楽し気に目を細めて、咲乃の目を見返した。
「この事件は、去年の夏に起こった事件だった。その後の八城台からの急な転校生。無関係だなんて思わないわけないでしょ」
事件の事は悠真が2年生の頃、夏休み中に流れたネットニュースを見て知った。
未成年が関わる事件だったため、行方不明の少年の名前はもちろん、被害に会った少年たちの名前も伏せられていた。
未成年が起こした傷害事件。しかも、不可解なまま終わっている。少年たちの唯一の情報として記載されていた(14)という数字。悠真と同い年の事件にインパクトがあったのか、“八城台”という地名も含めて、事件のことが妙に頭に残っていた。
夏休みが開け、英至中に転校生がやってきた。その転校生が“八城台”から来たと知ったのは、事件を知った時に興味本位で覗いた八城台中学校が運営するホームページのおかげだった。
学校のホームページには、生徒たちの日常を画像と共に簡潔に書き記したブログ記事が公開されている。その中に、特に目を引く容姿をした男子生徒が映っている画像を見かけたことがあった。八城台中学校の全校生徒の前でスピーチをしていた少年が、話題の転校生と似ていたのだ。
咲乃は、転校初日の自己紹介の時、出身の県名しか言わなかったらしい。しかし、転校生が言った県には八城台という地名がある。出身地や中学のことを聞かれても、咲乃が頑なに明かさなかったのは、事件のことを知られたくなかったからだ。
悠真は咲乃に近づくと、いつもするように、気安く咲乃の肩に腕を乗せた。
「本当に事件と無関係だって言えるか? お前は嘘が得意だから、いつもみたいにすました顔で言ってみろ。『そんな事件と俺は関係ない』ってさ。でも、それって、変わろうと思って足掻いていたものの否定じゃん。本当は、西田とそのいじめてた奴が、被って被って仕方なかったくせに」
悠真は、咲乃の耳元に口を寄せて、囁いた。
「西田とそいつを重ねてどう思ってた。何を感じてた。お前にあったのは罪悪感か。それとも、抗い難い程の嫌悪感か?」
悠真は咲乃から離れると、村上から金属バットを受け取った。悠真は西田をまたぐようにして立ち、バットを高く振り上げる。勢いよく振り下ろされたバットが西田の背中を殴った。
西田は背中を丸め、額に汗を流し、ふーふーとテープで口を塞がれた間からうめき声と共に荒い息を繰り返した。
「最後のゲームだ」
悠真は、バットの芯を自分の手に打ちつけながら言った。
「俺はこのまま、何度も西田を殴り続ける。こいつの骨が折れようが、失神しようが、死のうが絶対にやめない。でも、お前が代わりに殴るなら、西田もそこまでひどい目には合わないだろうな」
悠真は口の端を上げると、バットを振りかぶり。
そして、勢いよく振り下ろす。
「わかった」
西田に振り下ろされる寸前のところで、悠真の手が止まった。
「やるよ」
短く答える咲乃に満足気に頷く。悠真はバットを、咲乃に差し出した。
「俺が良いというまで殴り続けろ。いいな?」
咲乃は持っていたかばんを下ろし、バットを受け取った。
悠真が警告するように、視線で村上たちを示す。村上たちも、それぞれバットを持って控えている。逆らえば、逆に村上たちの返り討ちに合うと言うわけだ。
咲乃は頷き、西田を跨ぐ。両手でグリップを握りしめ、高く掲げる――そのまま西田に向かって勢いよく振り下ろした。