いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
ep62 結局いつもみたいに流される
ここは、桜花咲学園。政治家や有名人の血縁者、大企業の御曹司や御令嬢など、品性、家柄、明晰な頭脳を併せ持つ生徒のみが在籍する、由緒正しい名門私立校。
わたしは今日、学校説明会に参加するべく、ここ桜花咲学園高校の正門前に立っている。
……なんて、調子に乗ってマンガの冒頭部分の引用しちゃったけど、本当に来たんだ。サクラの紋があしらわれた和洋折衷な正門の風格とか、その奥に見えるレンガ造りの校舎とか……なんかもう、マンガで見てきた世界そのままだ。
梅雨明けでカラリと晴れ渡った天気は、熱烈な猛暑でわたしの体力を奪っていく。日向を避けつつ、なんとかここまでやって来たけど、見覚えのある門構えを前にしたとたん、感動が暑さを上回った。
桜花咲高校のパンフレットを両手で握りしめて、ドキドキしながら観音開きになった門をくぐる。校舎まではサクラの並木道になっているみたいだ。今は葉っぱが緑だけど、春になったらこの道も桜吹雪が舞う道に変わるんだ。
マンガの見開きページで見た、桜の咲き乱れる学校風景を思い出す。主人公のひなみちゃんも、学校説明会のときはこんなにドキドキしながらこの道を歩いたのかな。
わたしは興奮して鼻息を荒げながら、マンガで見てきた景色を眺めて、『説明会参加者受付』と書かれた看板を頼りに受付を済ませてから、持ってきていた上履きに履き替えて、案内されるままに建物の中に入った。
「……なにこれ、すごい……」
桜花咲高校の敷地内にある、これまた洋風な建物の中に入った瞬間、暖色の明かりが広がるその空間にわたしは思わず独り言を漏らしてしまった。
舞台の上に巨大なスクリーンがあって、その舞台を囲うようにテーブル席がカーブを描きながら、映画館みたいに階段状にテーブルが並んでいる。
講堂なんて初めて入ったけど、こんなに大きな施設、高校で何に使うんだろう。
わたしは事前に指定されていた席の番号を探して座った。広びろとした講堂に、少しずつ説明会に参加するひとたちで席が埋まって行く。みんな、親と同伴だ。わたしはまだお母さんにも相談していなかったから一人で来ちゃったけど、一人でくる子は珍しいみたい。
わたしだけ浮いてるんじゃないかと思うと、急に居心地が悪くなってきて、胃のあたりがキューッとする。わたしは悪目立ちしないように身体を小さくしながら、受付でもらった資料に目を落として、熱心に読み込んでいるふりをした。
「えぇっと……G-15は……、あっ、ここだ!」
最後まで読み終えた冊子をもう一度前から開いていると、わたしの隣の一つ開けた席に女の子が座った。気になってちらりと横目で見ると、その子はうっすら頬を赤くさせてタオルハンカチで汗を拭っている。頭をお団子ヘアにしたその子は、目が大きくて、華奢で、とってもかわいい子だなぁと思った。
その女の子も同伴者はいないらしく、一人で来たみたいだ。わたしと同じ人がいたことに心の底からほっとして、胃のしくしくも治まってしまった。それでも手持無沙汰感は抜けなくて、一度読み終えた資料に目を落とす。
部活紹介のページの、文化部の項目から面白そうな部活はないかと探してみる。吹奏楽部、美術部、将棋部、軽音部……色んな部活があるなぁ。マンガ研究部!? なにこれ、すっごく気になる!
「あの、すみません」
「ハイッ!」
突然声をかけられて、反射的に返事をした。隣の女の子が、申し訳なさそうな顔でこっちを見ている。
「邪魔しちゃってごめんなさい。あの、ペン持ってませんか? 私、忘れちゃって……」
「ハッ、ハイッ! モ、モッテマス!」
わたしは慌てて、筆記用具からシャーペンを取り出すと「ド、ドウゾッ!」と言って女の子に渡した。女の子は、とても可愛い顔をにこっとさせて「ありがとう」と言った。
初対面の人と話しちゃった……。しかもすごくかわいい子と。……なんだかドキドキしてしまった。
時間になると、ついに、学校関係者による説明会が始まった。
会場が暗くなり、巨大なスクリーンに学校PR用の映像が流れる。学校生活を切り取ったス写真と、爽やかなBGMと共に、女性のはきはきした音声が流れた。それが終わると、桜花咲学園高校の学生の司会進行のもと、説明会が始まった。
学校説明会を含む行事は全て、学生主体で行われるらしい。さっきの映像も、学生が作ったものだったようだ。
スクリーンに映し出されたスライドと、配布されていた資料をもとに、学校理念やカリキュラムの説明、学費などの説明がされ、約1時間程度の学校説明会が終わった。
学校説明会が終わった後は、男女二組の先輩たちの引率による学校内見学だった。桜花咲は美男美女しかいないのか。引率の先輩は、二人とも清潔感があって、すらりと背が高く、聡明そうな顔立ちをしていた。
講堂から渡り廊下を通り、校舎に入る。ホテルのような広々としたロビーは、天井までのびる大きな窓ガラスが開放的だ。ソファーや、テーブルも備わっていて、学生たちが勉強したり、談笑したりして過ごしていた。
あまりにもきれいすぎて、ここが高校の校舎だということを忘れてしまいそう。天井を見上げると、大きなシャンデリアが暖色の光を放ちながら、虹色に輝いていた。
「こちらのロビーは、学生たちが自由に使える憩いの場となっています。軽食でしたら飲食も可能で、部活動や委員会のちょっとした打ち合わせの際にも利用されることがあります」
ロビーを抜け、観音開きのガラスドアを抜けると、これまた広々とした廊下が続いていた。
「ここが、1年生の教室です。校舎内は冷暖房完備で、常に快適に授業が受けられます」
教室の中を覗くと、マンガの中でひなみちゃんが過ごしていた教室の風景が広がっていて、思わず息を呑んだ。
たしか、ひなみちゃんに彼氏が出来ちゃって、寝ているひなみちゃんに梓月先輩がこっそりチュウしようとして葛藤したあげくできないって言う、あそこ切なすぎて泣いたんだよなぁ。
どこを切り取っても、マンガの登場人物たちが過ごす学校風景そのままで、本当に梓月先輩がいるのではと錯覚してしまいそうだ。
「こちらが食堂です。食堂は常に開いているので、好きな時間にお食事が可能です。昼食メニューは11時から13時までご注文いただけますが、そのほかの時間帯はカフェメニューとなります。デザートも人気なのでぜひ、入学の際は午後の休息にご利用ください」
学食以外にカフェメニュー!? なにそれ、すごく気になる。デザート気になる!!
テーブル席が並んだ広い食堂には、テラス席も用意されている。この学食で、主人公がいじめっ子たちに嫌がらせとか受けたりしてたんだよなぁ。でも、そこを梓月先輩が助けてくれてさ、かっこよかったなぁ。
一通り本館を巡り、別館である図書館や、アリーナと言われる体育館ホール、演劇や映画も見られるコンサートホールなんかも見て回って、きれいに整備されたグラウンド上やテニスコートなんかも見学した。
施設の設備がすごすぎて、わたしの語彙力では表現しきれなくてもうしわけないけど、なんかもう、別世界って感じ。
あっ、あの渡り廊下! たしか、梓月先輩と主人公が出会った時の場所! あっ、梓月先輩が主人公を壁ドンした所って、たしかあの場所だ! あっ、梓月先輩とひなみちゃんの初キスシーンってたしかあの場所!?
わたしは今日、学校説明会に参加するべく、ここ桜花咲学園高校の正門前に立っている。
……なんて、調子に乗ってマンガの冒頭部分の引用しちゃったけど、本当に来たんだ。サクラの紋があしらわれた和洋折衷な正門の風格とか、その奥に見えるレンガ造りの校舎とか……なんかもう、マンガで見てきた世界そのままだ。
梅雨明けでカラリと晴れ渡った天気は、熱烈な猛暑でわたしの体力を奪っていく。日向を避けつつ、なんとかここまでやって来たけど、見覚えのある門構えを前にしたとたん、感動が暑さを上回った。
桜花咲高校のパンフレットを両手で握りしめて、ドキドキしながら観音開きになった門をくぐる。校舎まではサクラの並木道になっているみたいだ。今は葉っぱが緑だけど、春になったらこの道も桜吹雪が舞う道に変わるんだ。
マンガの見開きページで見た、桜の咲き乱れる学校風景を思い出す。主人公のひなみちゃんも、学校説明会のときはこんなにドキドキしながらこの道を歩いたのかな。
わたしは興奮して鼻息を荒げながら、マンガで見てきた景色を眺めて、『説明会参加者受付』と書かれた看板を頼りに受付を済ませてから、持ってきていた上履きに履き替えて、案内されるままに建物の中に入った。
「……なにこれ、すごい……」
桜花咲高校の敷地内にある、これまた洋風な建物の中に入った瞬間、暖色の明かりが広がるその空間にわたしは思わず独り言を漏らしてしまった。
舞台の上に巨大なスクリーンがあって、その舞台を囲うようにテーブル席がカーブを描きながら、映画館みたいに階段状にテーブルが並んでいる。
講堂なんて初めて入ったけど、こんなに大きな施設、高校で何に使うんだろう。
わたしは事前に指定されていた席の番号を探して座った。広びろとした講堂に、少しずつ説明会に参加するひとたちで席が埋まって行く。みんな、親と同伴だ。わたしはまだお母さんにも相談していなかったから一人で来ちゃったけど、一人でくる子は珍しいみたい。
わたしだけ浮いてるんじゃないかと思うと、急に居心地が悪くなってきて、胃のあたりがキューッとする。わたしは悪目立ちしないように身体を小さくしながら、受付でもらった資料に目を落として、熱心に読み込んでいるふりをした。
「えぇっと……G-15は……、あっ、ここだ!」
最後まで読み終えた冊子をもう一度前から開いていると、わたしの隣の一つ開けた席に女の子が座った。気になってちらりと横目で見ると、その子はうっすら頬を赤くさせてタオルハンカチで汗を拭っている。頭をお団子ヘアにしたその子は、目が大きくて、華奢で、とってもかわいい子だなぁと思った。
その女の子も同伴者はいないらしく、一人で来たみたいだ。わたしと同じ人がいたことに心の底からほっとして、胃のしくしくも治まってしまった。それでも手持無沙汰感は抜けなくて、一度読み終えた資料に目を落とす。
部活紹介のページの、文化部の項目から面白そうな部活はないかと探してみる。吹奏楽部、美術部、将棋部、軽音部……色んな部活があるなぁ。マンガ研究部!? なにこれ、すっごく気になる!
「あの、すみません」
「ハイッ!」
突然声をかけられて、反射的に返事をした。隣の女の子が、申し訳なさそうな顔でこっちを見ている。
「邪魔しちゃってごめんなさい。あの、ペン持ってませんか? 私、忘れちゃって……」
「ハッ、ハイッ! モ、モッテマス!」
わたしは慌てて、筆記用具からシャーペンを取り出すと「ド、ドウゾッ!」と言って女の子に渡した。女の子は、とても可愛い顔をにこっとさせて「ありがとう」と言った。
初対面の人と話しちゃった……。しかもすごくかわいい子と。……なんだかドキドキしてしまった。
時間になると、ついに、学校関係者による説明会が始まった。
会場が暗くなり、巨大なスクリーンに学校PR用の映像が流れる。学校生活を切り取ったス写真と、爽やかなBGMと共に、女性のはきはきした音声が流れた。それが終わると、桜花咲学園高校の学生の司会進行のもと、説明会が始まった。
学校説明会を含む行事は全て、学生主体で行われるらしい。さっきの映像も、学生が作ったものだったようだ。
スクリーンに映し出されたスライドと、配布されていた資料をもとに、学校理念やカリキュラムの説明、学費などの説明がされ、約1時間程度の学校説明会が終わった。
学校説明会が終わった後は、男女二組の先輩たちの引率による学校内見学だった。桜花咲は美男美女しかいないのか。引率の先輩は、二人とも清潔感があって、すらりと背が高く、聡明そうな顔立ちをしていた。
講堂から渡り廊下を通り、校舎に入る。ホテルのような広々としたロビーは、天井までのびる大きな窓ガラスが開放的だ。ソファーや、テーブルも備わっていて、学生たちが勉強したり、談笑したりして過ごしていた。
あまりにもきれいすぎて、ここが高校の校舎だということを忘れてしまいそう。天井を見上げると、大きなシャンデリアが暖色の光を放ちながら、虹色に輝いていた。
「こちらのロビーは、学生たちが自由に使える憩いの場となっています。軽食でしたら飲食も可能で、部活動や委員会のちょっとした打ち合わせの際にも利用されることがあります」
ロビーを抜け、観音開きのガラスドアを抜けると、これまた広々とした廊下が続いていた。
「ここが、1年生の教室です。校舎内は冷暖房完備で、常に快適に授業が受けられます」
教室の中を覗くと、マンガの中でひなみちゃんが過ごしていた教室の風景が広がっていて、思わず息を呑んだ。
たしか、ひなみちゃんに彼氏が出来ちゃって、寝ているひなみちゃんに梓月先輩がこっそりチュウしようとして葛藤したあげくできないって言う、あそこ切なすぎて泣いたんだよなぁ。
どこを切り取っても、マンガの登場人物たちが過ごす学校風景そのままで、本当に梓月先輩がいるのではと錯覚してしまいそうだ。
「こちらが食堂です。食堂は常に開いているので、好きな時間にお食事が可能です。昼食メニューは11時から13時までご注文いただけますが、そのほかの時間帯はカフェメニューとなります。デザートも人気なのでぜひ、入学の際は午後の休息にご利用ください」
学食以外にカフェメニュー!? なにそれ、すごく気になる。デザート気になる!!
テーブル席が並んだ広い食堂には、テラス席も用意されている。この学食で、主人公がいじめっ子たちに嫌がらせとか受けたりしてたんだよなぁ。でも、そこを梓月先輩が助けてくれてさ、かっこよかったなぁ。
一通り本館を巡り、別館である図書館や、アリーナと言われる体育館ホール、演劇や映画も見られるコンサートホールなんかも見て回って、きれいに整備されたグラウンド上やテニスコートなんかも見学した。
施設の設備がすごすぎて、わたしの語彙力では表現しきれなくてもうしわけないけど、なんかもう、別世界って感じ。
あっ、あの渡り廊下! たしか、梓月先輩と主人公が出会った時の場所! あっ、梓月先輩が主人公を壁ドンした所って、たしかあの場所だ! あっ、梓月先輩とひなみちゃんの初キスシーンってたしかあの場所!?