いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
説明会も学校案内も終わり、夢見心地のまま電車に乗って、帰路についた。まるでマンガの世界から戻って来たみたいだ。
家に近づくに連れて、ふわふわ浮ついていた気持が落ち着いてきて、しだいに現実が見えてくる。
やっぱり、理想は理想だ。校舎も素敵だし、制服も可愛いし、先輩も生き生きしていて素敵だったけど、わたしには偏差値が高すぎると思うし、そもそもわたしには、絶対に桜花咲じゃなきゃいけないなんて理由はないんだよな。しいて言えば、篠原くんが通うからってことぐらいだけど、わたしがついて行って篠原くんが迷惑じゃないとも限らないし。学費面はわたしだけじゃどうにもならないしなぁ。
まぁ、冷静に考えても現実的ではないよね。わたしが目指してもしょうがない。好きなマンガの聖地を見学できただけでも満足だ。
物思いに耽ったまま玄関のドアを開けて、はいていた靴を脱いで家に上がる。あまりにもいろんなことを考えていたから、わたしはこの時、スニーカーがもう一足あるのに気付かなかった。
「お帰りなさい、津田さん」
「ほぁあっ!???」
部屋のドアを開けた瞬間、篠原くんに出迎えられて、思わず変な声が出る。目をぱちくりして、背の高い篠原くんを見上げた。
「なんでいるんですか? 今日、お勉強会はお休みしたはずじゃあ……!」
「うん。だから遊びに来た。学校説明会、どうだったのか気になって」
「ずっと待ってたんですか? 連絡してくれれば早く帰ってきましたのに」
本当は桜花咲高校の説明会なのに、今日はお姉ちゃんが通っている学校の説明会に行ってきたと思われてるから、篠原くんに会うの、ちょっと気まずいんだよな。
「学校はどうだった? 気に入った?」
「えっ、あ、はい! そりゃあ、もう!」
校舎がすばらしくて、通ってる学生たちもキラキラしてて、なんか、本当に夢みたいだった。あんな学校にいけたらいいなって本当に思ってしまうくらいに。
「そっか。それなら俺も、津田さんが行く高校に行こうかな」
「えっ……な、何言ってるんですか? 冗談、ですよね?」
突然篠原くんがおかしなことを言うから、わたしの表情が引きつった。篠原くん、その冗談は笑えないよ。だって、篠原くんがわたしと同じ学校に行くために桜花咲を諦めるなんて。
「俺は割と本気だよ。津田さんのおねえさんが通っている学校なら、まず間違いはないし、あそこも進学校だから大学への進学率も高いしね」
「な、何言って……」
「津田さんと同じ学校に行けたら、きっと楽しいだろうなって」
穏やかに目を細めた篠原くんに、篠原くんが一体なにを考えているのか分からなくて、わたしは困惑した。
「同じ学校だったら、毎日一緒に学校に通えるし、放課後は一緒に勉強出来るから、色々と便利でしょう? 別の学校だと、時間を合わせるのも大変だもんね」
篠原くんの穏やかな表情を見て、わたしは全身から血の気が引いていくのを感じた。本当に、冗談で言ってるわけじゃないんだ。
「だっ、ダメですよ! 篠原くん、ずっと桜花咲を目指してがんばってたじゃないですか。神谷くんだって、きっとガッカリしますよ!」
「神谷のことなら心配ないよ。どこを受験したって、どうせついて来るんだから」
「そ、それはそうかもしれないですけど……」
神谷くん、篠原くんが行くから桜花咲に行くって言ってたし、神谷くん的にも別にどこの学校へ行こうが特にこだわりはないんだろうけど。いやでも、そもそも、わたしのために篠原くんが志望校を変えるなんてこと、絶対にあっちゃいけない。
「篠原くんは……桜花咲に行くべきです」
混乱した脳みそを必死に働かせて、ようやく言葉が出た。
お姉ちゃんの高校だって、県立高校としては人気校だから篠原くんが行ったって別に問題はない。だけど、今日の学校説明会で、実際に見てきたからこそわかる。篠原くんは、絶対に桜花咲に行かなきゃ行けない人だ。
止めなくちゃ。篠原くんは、絶対に桜花咲に行くべきだって、説得しなくちゃ。
「わたしもっ、篠原くんと桜花咲に行きますからっ、桜花咲をやめるなんて言わないでください!!」
……。
…………。
………………え……何言ってんの、わたし……え???
なんて言ったら篠原くんを止められるのか。混乱したまま、必死に言い放った言葉に、わたしは自分でも理解が追いつかずに固まってしまった。
一緒に行くって。どこを? 桜花咲、を?
い……。
い…………?
言っちゃったぁ……!?!?!?
偏差値高すぎて絶対自分には無理だって思ってたのに!?
お金のこととか考えて、たった今やめようって決意してきたところだったのに???
まだ、お姉ちゃんの高校の学校説明会にも行ってないのに!????
自分が言ってしまったことに愕然として、口を開けたままあわあわしていると、篠原くんは驚いた顔をして、わたしをまじまじと見つめた。
「津田さん……本気、なの?」
篠原くんの、真剣な表情を見て益々取り返しのつかないことを言ってしまったのだと自覚する。今すぐ言ったことを訂正しないと、本当に桜花咲を受けることになっちゃう!!
「あっ、あの、今のは――」
間違いですって言おうとして、咄嗟に口をつぐんだ。
だって。だって、篠原くんの顔が――。
なんだかすごく――喜んでるみたいだったから。
瞳がすごくきらきらして、頬が少しだけ上気していて、なんだかクリスマスのサンタさんに会えたときの子供みたいな顔してて……。
そんな顔されちゃったら、やっぱり今のは間違いですなんて言えないよ!!
「……は、はい。……考えてみようかと……」
結局、間違えだったなんていえずに頷いてしまった。篠原くんは、ふわっと花が咲いたように笑って、わたしの両手を握り締めた。
「うん、ぜひ前向きに考えてみて。俺、協力するから!」
「……あ、ありがとう、ございます……」
が……がんばるって言っちゃった。篠原くんを前にすると、どうしても拒否できない。
いっつもこうだよ! 結局、篠原くんに流されて、自分で自分の首を絞めることになるんだから!!
わたしは内心で涙を流しながら、お母さんにどう伝えようかと悩んでいた。
*
「桜花咲高校、受験してみることにしたのね。いいんじゃないかしら、人生に一度くらいは何かに必死になってみるのも」
日高先生は、他人事だと思って簡単に言ってくるが、わたしは未だにあの時のことを後悔していた。
篠原くんが帰った後、お母さんにそれとなく「桜花咲を受験しようかなぁ~」って言ってみたら、「寝ぼけたこと抜かしてんじゃないの」と流されてしまったからだ。
やっぱり、桜花咲ってお金持ちの超エリートの家の子が行くようなイメージだよなぁ。県立や公立よりも、高くついちゃうし。そもそも、今まで引きこもってた分、わたしには親を説得できるほどの信用が無い。テストの成績は良くなったとはいえ、桜花咲に受かるほどとは思われてはいないのだから。
「篠原くんをあれだけ喜ばせておいて、結局、受験しないなんて……。友達として、最低ですよね……」
無駄に期待させるくらいなら断る勇気も必要だってこと、今なら痛いぐらいに痛感できる。
「まぁまぁ。そんなに重く捉えずに、記念受験だと思って軽い気持ちで受けてみたら? 合格したら入学を辞退するっていう手もあるんだし」
「そもそも合格する自信がないんですけど……」
たしかに、もし受かったらそれだけでもすごいことだし、たとえ入学までは出来なくても、篠原くんなら納得してくれるかなぁ。
まぁ、篠原くんは大人だから、家の事情で入学までは出来ないって言えば、分かってくれるとは思うけど……がっかりするのかな、篠原くん。
……でも、正直――嬉しかったんだよなぁ。桜花咲に行くって言った時に、喜んでもらえたのが。わたしがついて行っても、嫌がったりしないんだって。中学で終わらせようとしてるんじゃないってことが分かって、嬉しかった。
「桜花咲を受けるとなると、過去問を買わないと。……自腹でですけど……」
お母さんにはまともに受け取ってももらえてないし、受験料だけでも貯めておかないと。
とりあえず今は、受験勉強をがんばって、篠原くんの期待に応えることだけを考えよう。
合格したら伝えるんだ。今まで勉強を見てくれてありがとうって。篠原くんのおかげで、桜花咲を合格できるまで勉強が出来るようになったよって。
一緒の学校に行けないのは残念だけど、篠原くんなら、きっとそれだけでも喜んでくれるはずだ。
*★*―――――*★*―――――*★*―――――
登場人物のデータを更新しました。
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【Alanhart|THE MAGICAL ACTORS】
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家に近づくに連れて、ふわふわ浮ついていた気持が落ち着いてきて、しだいに現実が見えてくる。
やっぱり、理想は理想だ。校舎も素敵だし、制服も可愛いし、先輩も生き生きしていて素敵だったけど、わたしには偏差値が高すぎると思うし、そもそもわたしには、絶対に桜花咲じゃなきゃいけないなんて理由はないんだよな。しいて言えば、篠原くんが通うからってことぐらいだけど、わたしがついて行って篠原くんが迷惑じゃないとも限らないし。学費面はわたしだけじゃどうにもならないしなぁ。
まぁ、冷静に考えても現実的ではないよね。わたしが目指してもしょうがない。好きなマンガの聖地を見学できただけでも満足だ。
物思いに耽ったまま玄関のドアを開けて、はいていた靴を脱いで家に上がる。あまりにもいろんなことを考えていたから、わたしはこの時、スニーカーがもう一足あるのに気付かなかった。
「お帰りなさい、津田さん」
「ほぁあっ!???」
部屋のドアを開けた瞬間、篠原くんに出迎えられて、思わず変な声が出る。目をぱちくりして、背の高い篠原くんを見上げた。
「なんでいるんですか? 今日、お勉強会はお休みしたはずじゃあ……!」
「うん。だから遊びに来た。学校説明会、どうだったのか気になって」
「ずっと待ってたんですか? 連絡してくれれば早く帰ってきましたのに」
本当は桜花咲高校の説明会なのに、今日はお姉ちゃんが通っている学校の説明会に行ってきたと思われてるから、篠原くんに会うの、ちょっと気まずいんだよな。
「学校はどうだった? 気に入った?」
「えっ、あ、はい! そりゃあ、もう!」
校舎がすばらしくて、通ってる学生たちもキラキラしてて、なんか、本当に夢みたいだった。あんな学校にいけたらいいなって本当に思ってしまうくらいに。
「そっか。それなら俺も、津田さんが行く高校に行こうかな」
「えっ……な、何言ってるんですか? 冗談、ですよね?」
突然篠原くんがおかしなことを言うから、わたしの表情が引きつった。篠原くん、その冗談は笑えないよ。だって、篠原くんがわたしと同じ学校に行くために桜花咲を諦めるなんて。
「俺は割と本気だよ。津田さんのおねえさんが通っている学校なら、まず間違いはないし、あそこも進学校だから大学への進学率も高いしね」
「な、何言って……」
「津田さんと同じ学校に行けたら、きっと楽しいだろうなって」
穏やかに目を細めた篠原くんに、篠原くんが一体なにを考えているのか分からなくて、わたしは困惑した。
「同じ学校だったら、毎日一緒に学校に通えるし、放課後は一緒に勉強出来るから、色々と便利でしょう? 別の学校だと、時間を合わせるのも大変だもんね」
篠原くんの穏やかな表情を見て、わたしは全身から血の気が引いていくのを感じた。本当に、冗談で言ってるわけじゃないんだ。
「だっ、ダメですよ! 篠原くん、ずっと桜花咲を目指してがんばってたじゃないですか。神谷くんだって、きっとガッカリしますよ!」
「神谷のことなら心配ないよ。どこを受験したって、どうせついて来るんだから」
「そ、それはそうかもしれないですけど……」
神谷くん、篠原くんが行くから桜花咲に行くって言ってたし、神谷くん的にも別にどこの学校へ行こうが特にこだわりはないんだろうけど。いやでも、そもそも、わたしのために篠原くんが志望校を変えるなんてこと、絶対にあっちゃいけない。
「篠原くんは……桜花咲に行くべきです」
混乱した脳みそを必死に働かせて、ようやく言葉が出た。
お姉ちゃんの高校だって、県立高校としては人気校だから篠原くんが行ったって別に問題はない。だけど、今日の学校説明会で、実際に見てきたからこそわかる。篠原くんは、絶対に桜花咲に行かなきゃ行けない人だ。
止めなくちゃ。篠原くんは、絶対に桜花咲に行くべきだって、説得しなくちゃ。
「わたしもっ、篠原くんと桜花咲に行きますからっ、桜花咲をやめるなんて言わないでください!!」
……。
…………。
………………え……何言ってんの、わたし……え???
なんて言ったら篠原くんを止められるのか。混乱したまま、必死に言い放った言葉に、わたしは自分でも理解が追いつかずに固まってしまった。
一緒に行くって。どこを? 桜花咲、を?
い……。
い…………?
言っちゃったぁ……!?!?!?
偏差値高すぎて絶対自分には無理だって思ってたのに!?
お金のこととか考えて、たった今やめようって決意してきたところだったのに???
まだ、お姉ちゃんの高校の学校説明会にも行ってないのに!????
自分が言ってしまったことに愕然として、口を開けたままあわあわしていると、篠原くんは驚いた顔をして、わたしをまじまじと見つめた。
「津田さん……本気、なの?」
篠原くんの、真剣な表情を見て益々取り返しのつかないことを言ってしまったのだと自覚する。今すぐ言ったことを訂正しないと、本当に桜花咲を受けることになっちゃう!!
「あっ、あの、今のは――」
間違いですって言おうとして、咄嗟に口をつぐんだ。
だって。だって、篠原くんの顔が――。
なんだかすごく――喜んでるみたいだったから。
瞳がすごくきらきらして、頬が少しだけ上気していて、なんだかクリスマスのサンタさんに会えたときの子供みたいな顔してて……。
そんな顔されちゃったら、やっぱり今のは間違いですなんて言えないよ!!
「……は、はい。……考えてみようかと……」
結局、間違えだったなんていえずに頷いてしまった。篠原くんは、ふわっと花が咲いたように笑って、わたしの両手を握り締めた。
「うん、ぜひ前向きに考えてみて。俺、協力するから!」
「……あ、ありがとう、ございます……」
が……がんばるって言っちゃった。篠原くんを前にすると、どうしても拒否できない。
いっつもこうだよ! 結局、篠原くんに流されて、自分で自分の首を絞めることになるんだから!!
わたしは内心で涙を流しながら、お母さんにどう伝えようかと悩んでいた。
*
「桜花咲高校、受験してみることにしたのね。いいんじゃないかしら、人生に一度くらいは何かに必死になってみるのも」
日高先生は、他人事だと思って簡単に言ってくるが、わたしは未だにあの時のことを後悔していた。
篠原くんが帰った後、お母さんにそれとなく「桜花咲を受験しようかなぁ~」って言ってみたら、「寝ぼけたこと抜かしてんじゃないの」と流されてしまったからだ。
やっぱり、桜花咲ってお金持ちの超エリートの家の子が行くようなイメージだよなぁ。県立や公立よりも、高くついちゃうし。そもそも、今まで引きこもってた分、わたしには親を説得できるほどの信用が無い。テストの成績は良くなったとはいえ、桜花咲に受かるほどとは思われてはいないのだから。
「篠原くんをあれだけ喜ばせておいて、結局、受験しないなんて……。友達として、最低ですよね……」
無駄に期待させるくらいなら断る勇気も必要だってこと、今なら痛いぐらいに痛感できる。
「まぁまぁ。そんなに重く捉えずに、記念受験だと思って軽い気持ちで受けてみたら? 合格したら入学を辞退するっていう手もあるんだし」
「そもそも合格する自信がないんですけど……」
たしかに、もし受かったらそれだけでもすごいことだし、たとえ入学までは出来なくても、篠原くんなら納得してくれるかなぁ。
まぁ、篠原くんは大人だから、家の事情で入学までは出来ないって言えば、分かってくれるとは思うけど……がっかりするのかな、篠原くん。
……でも、正直――嬉しかったんだよなぁ。桜花咲に行くって言った時に、喜んでもらえたのが。わたしがついて行っても、嫌がったりしないんだって。中学で終わらせようとしてるんじゃないってことが分かって、嬉しかった。
「桜花咲を受けるとなると、過去問を買わないと。……自腹でですけど……」
お母さんにはまともに受け取ってももらえてないし、受験料だけでも貯めておかないと。
とりあえず今は、受験勉強をがんばって、篠原くんの期待に応えることだけを考えよう。
合格したら伝えるんだ。今まで勉強を見てくれてありがとうって。篠原くんのおかげで、桜花咲を合格できるまで勉強が出来るようになったよって。
一緒の学校に行けないのは残念だけど、篠原くんなら、きっとそれだけでも喜んでくれるはずだ。
*★*―――――*★*―――――*★*―――――
登場人物のデータを更新しました。
★【登場人物設定】
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