いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
ep8 沢山のわたしが死んだ場所で
美少年とお近づきになれたことに浮かれていて、まさか学校でテストを受けることになるなんて思わなかった。
テストの日が近づくにつれて、わたしの気分は日に日に落ち込んでいった。ここ最近、体調も悪いし。いっそのこと、やっぱりやめるって言っちゃおうかな。でも、いろんな先生が関わっているらしいし、簡単にやめるとも言いづらい。もしかして篠原くん、わざとぎりぎりまで黙ってた? わたしが断れないように、先に準備を進めてたよね?
「やっぱり、こんなのおかしいよ! なんで勝手に日程とか決められてるの? これ、絶対篠原くんに騙されてるよ!!」
普通、こういうことは一番最初に相談があるものじゃないのか。なのに、勝手に全部決められちゃってさ。こんなのってないよ!
どう考えても、篠原くんのやり方はずるいし、「やっぱりやめたい」と言ってもわたしは悪くないと思う。でも、そもそもそんなことが言える勇気があったら、いじめにだって立ち向かえた。
「がんばるなんて言わなきゃよかった……」
……でも、あの時の篠原くん、めちゃくちゃうれしそうだったな。
「むり、あんな顔見ちゃったら、やっぱりやめるなんて言えないよ……」
篠原くんのふわっふわの笑顔を思い出して、お腹がキリキリ痛み出す。学校に行くのも、テストをうけるのも嫌だけど、篠原くんにがっかりされるのも嫌だ。やっぱりわたし、美少年に弱すぎる!!
テストを受けると決まってからというものの、お父さんやお母さんは期待に満ちた目でわたしを見るようになった。このテストがきっかけで、また学校に行けるようになるかもと期待しているのだ。人が不安で眠れない夜を過ごしてるときに、ニマニマ笑いの抑えきれない顔で「あんた、がんばりなさいよ!」とか、「勉強は順調なのか?」とか聞いてくる。こっちはそれどころじゃないんだから、放っておいてくれないかな。
お姉ちゃんはわたしの顔を見ると、「不幸がうつるから幽霊みたいなツラして歩きまわらないで」とウザそうに鼻をならした。お願いだから、もっとわたしに優しくして!
テストは3日間、教科は英国数の3科目だけを1日1教科づつ。1年の中期の範囲から出題される。場所は、使われていない空き教室で、時間は、最終下校後だ。
テスト当日。わたしは久しぶりに制服に腕を通した。お母さんが前日までに洗濯してくれた。すこしきつい気がするのは、わたしが前よりも太ったからか。成長期だからだと思いたい。
学校へは篠原くんが迎えに来てくれることになっている。学校の帰りにまた学校へ戻るなんて、篠原くんは大変だなとはおもうけど、そもそも篠原くんが言い出したことだから、悪いななんて思う必要なんてないのかもしれない。
集合時間になり外へ出ると、篠原くんは1階のエントランスで待っていた。
「こんにちは、津田さん」
「コンニチハ……」
お腹がぐるぐるしてる。気分も悪い。朝起きれただけでも奇跡だ。
「じゃあ、学校へ行こうか」
篠原くんと一緒に、一年ぶりに毎日通っていた道を歩く。別に感動とかはない。いやだなぁと思うだけ。1年生の時は、この道を通るのが辛くて仕方なかった。学校に一歩一歩近づいていくこの道が。
「顔色が悪いね。大丈夫?」
「大丈夫じゃないです……」
嫌すぎて吐きそう。
校門に着き、昇降口から入って廊下を歩く。今の時間は、普通に部活が行われている時間帯で、いつどこで知っている人に出くわすかもしれないという不安が、足取りを重くさせた。
最終下校後だからだろうか。心配とは裏腹に、教室はどこも空っぽだ。廊下を歩くと、わたしと篠原くんの足音だけがひびいている。
なつかしいはずなのに、なんだか知らない場所みたい。不思議と胸が苦しくなったりしていない。辛いを通り越して、感覚がマヒしちゃったのかな。頭の中に、いろんな記憶がよみがえる。それを、窓の外からぼんやり眺めているような感覚。
わたしにとって、学校は辛い場所でしかなかった。朝が来る瞬間に、いつも何かとたたかっていた。朝目覚めて起き上がることも、わたしにとってはたたかいだった。お母さんの急き立てるような怒鳴り声と、迫りくる時間。何とか決心して学校に着いたとたんに、もっと酷い絶望が待っている。
学校では、何も感じていないふりをしていた。わたしの人格がひとつずつ死んでいくのを、ただ眺めるだけ。わたしが生まれた瞬間から持っていたはずの、わたしのカケラたち。楽しさや喜び、希望、自信、価値観、その他わたしを構成する要素すべて――それらが傷ついて死んでしまっても、また朝になると、辛うじて息のある瀕死のそれらをかき集めて学校へ行く。
この場所で。なんども。なんども。死んでしまったわたしの多くの死骸は、誰にも気付いてもらえないまま、ただ踏まれて消えていく。わたしにとって学校という場所は、戦場でしかない。周りは常に敵だらけで、わたしの死骸であふれていた。
職員室で、久しぶりに担任の先生に会った。1年生の時からおなじ先生だ。正直、会いたくはなかった。だってこの人、信用できないんだもん。
先生に何か言われたけど、よくわからない。篠原くんが何か話しているけれど。あれ? わたし、ちゃんと挨拶できてた? したような気がするけど、さっきから、思考がふわふわしていてわからない。先生と篠原くんの後を追うのでせいいっぱいだ。一瞬だけ見た、先生のあきれた顔だけが妙に印象に残っている。
テストの日が近づくにつれて、わたしの気分は日に日に落ち込んでいった。ここ最近、体調も悪いし。いっそのこと、やっぱりやめるって言っちゃおうかな。でも、いろんな先生が関わっているらしいし、簡単にやめるとも言いづらい。もしかして篠原くん、わざとぎりぎりまで黙ってた? わたしが断れないように、先に準備を進めてたよね?
「やっぱり、こんなのおかしいよ! なんで勝手に日程とか決められてるの? これ、絶対篠原くんに騙されてるよ!!」
普通、こういうことは一番最初に相談があるものじゃないのか。なのに、勝手に全部決められちゃってさ。こんなのってないよ!
どう考えても、篠原くんのやり方はずるいし、「やっぱりやめたい」と言ってもわたしは悪くないと思う。でも、そもそもそんなことが言える勇気があったら、いじめにだって立ち向かえた。
「がんばるなんて言わなきゃよかった……」
……でも、あの時の篠原くん、めちゃくちゃうれしそうだったな。
「むり、あんな顔見ちゃったら、やっぱりやめるなんて言えないよ……」
篠原くんのふわっふわの笑顔を思い出して、お腹がキリキリ痛み出す。学校に行くのも、テストをうけるのも嫌だけど、篠原くんにがっかりされるのも嫌だ。やっぱりわたし、美少年に弱すぎる!!
テストを受けると決まってからというものの、お父さんやお母さんは期待に満ちた目でわたしを見るようになった。このテストがきっかけで、また学校に行けるようになるかもと期待しているのだ。人が不安で眠れない夜を過ごしてるときに、ニマニマ笑いの抑えきれない顔で「あんた、がんばりなさいよ!」とか、「勉強は順調なのか?」とか聞いてくる。こっちはそれどころじゃないんだから、放っておいてくれないかな。
お姉ちゃんはわたしの顔を見ると、「不幸がうつるから幽霊みたいなツラして歩きまわらないで」とウザそうに鼻をならした。お願いだから、もっとわたしに優しくして!
テストは3日間、教科は英国数の3科目だけを1日1教科づつ。1年の中期の範囲から出題される。場所は、使われていない空き教室で、時間は、最終下校後だ。
テスト当日。わたしは久しぶりに制服に腕を通した。お母さんが前日までに洗濯してくれた。すこしきつい気がするのは、わたしが前よりも太ったからか。成長期だからだと思いたい。
学校へは篠原くんが迎えに来てくれることになっている。学校の帰りにまた学校へ戻るなんて、篠原くんは大変だなとはおもうけど、そもそも篠原くんが言い出したことだから、悪いななんて思う必要なんてないのかもしれない。
集合時間になり外へ出ると、篠原くんは1階のエントランスで待っていた。
「こんにちは、津田さん」
「コンニチハ……」
お腹がぐるぐるしてる。気分も悪い。朝起きれただけでも奇跡だ。
「じゃあ、学校へ行こうか」
篠原くんと一緒に、一年ぶりに毎日通っていた道を歩く。別に感動とかはない。いやだなぁと思うだけ。1年生の時は、この道を通るのが辛くて仕方なかった。学校に一歩一歩近づいていくこの道が。
「顔色が悪いね。大丈夫?」
「大丈夫じゃないです……」
嫌すぎて吐きそう。
校門に着き、昇降口から入って廊下を歩く。今の時間は、普通に部活が行われている時間帯で、いつどこで知っている人に出くわすかもしれないという不安が、足取りを重くさせた。
最終下校後だからだろうか。心配とは裏腹に、教室はどこも空っぽだ。廊下を歩くと、わたしと篠原くんの足音だけがひびいている。
なつかしいはずなのに、なんだか知らない場所みたい。不思議と胸が苦しくなったりしていない。辛いを通り越して、感覚がマヒしちゃったのかな。頭の中に、いろんな記憶がよみがえる。それを、窓の外からぼんやり眺めているような感覚。
わたしにとって、学校は辛い場所でしかなかった。朝が来る瞬間に、いつも何かとたたかっていた。朝目覚めて起き上がることも、わたしにとってはたたかいだった。お母さんの急き立てるような怒鳴り声と、迫りくる時間。何とか決心して学校に着いたとたんに、もっと酷い絶望が待っている。
学校では、何も感じていないふりをしていた。わたしの人格がひとつずつ死んでいくのを、ただ眺めるだけ。わたしが生まれた瞬間から持っていたはずの、わたしのカケラたち。楽しさや喜び、希望、自信、価値観、その他わたしを構成する要素すべて――それらが傷ついて死んでしまっても、また朝になると、辛うじて息のある瀕死のそれらをかき集めて学校へ行く。
この場所で。なんども。なんども。死んでしまったわたしの多くの死骸は、誰にも気付いてもらえないまま、ただ踏まれて消えていく。わたしにとって学校という場所は、戦場でしかない。周りは常に敵だらけで、わたしの死骸であふれていた。
職員室で、久しぶりに担任の先生に会った。1年生の時からおなじ先生だ。正直、会いたくはなかった。だってこの人、信用できないんだもん。
先生に何か言われたけど、よくわからない。篠原くんが何か話しているけれど。あれ? わたし、ちゃんと挨拶できてた? したような気がするけど、さっきから、思考がふわふわしていてわからない。先生と篠原くんの後を追うのでせいいっぱいだ。一瞬だけ見た、先生のあきれた顔だけが妙に印象に残っている。