いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
「もう、いい加減にしなよー。あんたがいつまでもぐずぐずしてるから、他の子たちみんな先に行っちゃったじゃん。篠原くんが来ないのは残念だけどさぁ、受験なんだからしょうがないでしょ」
ついにしびれを切らした愛花が腕を組んで彩美を嗜めた。愛花の率直な言い方に、重田は内心肝を冷やす。
「……分かってるって、そんなこと」
彩美は、うつむいたまま悔しそうな声で呻いた。
「それでも、もしかしたらって思うじゃん……」
「いやいや、絶対来ないでしょ。そもそも、神谷に頼らないで自分で篠原くんを誘えばよかったじゃん。篠原くんのLINE知ってるんでしょ?」
愛花の鋭い指摘に、彩美は奥歯を噛み締めた。
愛花の言うとおりだった。本当に咲乃を誘いたいのなら、わざわざ神谷を通す必要なんてない。神谷を間に挟むから話がうまく進まないわけで、咲乃に直接言って誘えば良かったのだ。それでもそれが出来なかったのは、咲乃の勉強の時間を奪ってしまうことに、少なからず罪悪感があったからだった。
誘ったところできっと断られるだろうし、運良く受け入れてくれたとしても、自分のわがままのせいで、彼の大切な時間を奪ってしまうことへの罪悪感は消えなかったはずだ。
だから、わざわざ神谷を通したのだ。神谷は、他人の恋愛を何の見返りもなしに後押しするような人間ではない。いくら彩美が脅しても、きっと面倒臭がって手助けなんてしてくれない。
そんなこと、わかってた。わかってたけど……。
結局彩美は、咲乃が来ないのを神谷のせいにしたかっただけで、本当は自分で誘う勇気がなかっただけなのだ。
再び何も言わなくなってしまった彩美に、愛花は呆れてため息をついた。浴衣の袖口を上げ、腕時計を確認する。お祭りもあと数十分で終わってしまう。このまま、座り呆けて終わる夏祭りなど、愛花はまっぴらごめんだ。
「重田」
「な、なんだよ」
愛花の呼びかけに、今まで存在感を薄めていた重田が反応する。
「なんか飲み物買ってこい」
「……わかったよ。買ってくる」
顎で使われる事に不服な様子は見せるものの、空気が読める重田は、愛花と彩美を二人きりにさせてやるため大人しく愛花の言いつけに従った。
しぶしぶ肩を落とした重田の姿が、人混みの中へと消えると、愛花は彩美の隣に腰を下ろした。
「これからどうすんの?」
今度は優しく声を掛ける。項垂れた彩美から、返事はない。
「このまま、終わっていいの? 来年はもう会えないかもしれないんだよ?」
それでも、彩美からの返事はない。
愛花は、なんで自分がこんなに気をつかわなきゃいけないんだろうと思った。そもそも、彩美の恋愛事情など、愛花には関係ないことなのに。
「あーそう、良いんだ! このまま何もしないで夏休みが終わっちゃっても! 結局、彩美がやったことって何? 自分が一番可愛いとか言って周りの子を見下すわりに、なーんにも行動してないじゃん。それで、篠原くんが来てくれなかったら周りに当たり散らすだけ。それって、何の意味あんの? 遠くから眺めてるだけでいいなら、他の子たちと一緒じゃん。巻き込まれるこっちの身にもなってよね!」
愛花は、普段から思っていたありったけの不満を彩美にぶつけた。
「あんた、ホントに篠原くんと付き合う気あんの? 嫌われるのが怖いからって、いじけて何もしないつもり? 本当に欲しかったら、当たって砕けて見せなよ!」
思っていること全部言ってやったわ、とばかりに、愛花はふんと鼻息を吹かす。親友として彩美を焚き付ける目的もあったが、迷惑だから周りの気持ちも考えろという気持ちもあった。
ちょうど愛花が言い切ったところで、飲み物を持った重田が帰ってきた。何も状況が変わっていないのを見て、ホッとしたらいいのかガッカリしたらいいのか分からないような複雑な表情をしている。
「……うっさいな」
「は?」
何かの聞き間違えか。愛花が聞き返す。
「わたしが、当たって砕けるって? 冗談じゃない」
不意に顔を上げて怒りだした彩美に、愛花も重田もたじろいだ。
「さっきから、人がこれからどうするか考えてるときに、言いたい放題言いってんじゃねぇよ。当たって砕けろ? 砕けるわけないでしょ、この私が。むしろ、砕いてやるっつの。欲しいものは砕いてでも手に入れてやるっつーの!」
篠原くんを? とは、さすがの愛花も怖くて聞けなかった。好きな人を砕いて手に入れるのは、思考として危ないと思うのだが、顔面が鬼の形相になった彩美には、何を言っても伝わらない。重田はすっかり委縮しているし、愛花は彩美の身勝手さにドン引きしていた。
「決めた! これから、篠原くんの家に行く!」
「へ?」
呆けた重田と愛花の声が重なる。彩美はふんすと鼻息を荒げた。
「篠原くんが来られないなら、会いに行けばいい!」
ぎらぎらと決意をみなぎらせた瞳は、まるで餌を狙う猛獣のよう。
彩美は、絶対篠原くんと素敵な夏を過ごすと固く決意すると、脇目も振らずに歩きはじめた。
ついにしびれを切らした愛花が腕を組んで彩美を嗜めた。愛花の率直な言い方に、重田は内心肝を冷やす。
「……分かってるって、そんなこと」
彩美は、うつむいたまま悔しそうな声で呻いた。
「それでも、もしかしたらって思うじゃん……」
「いやいや、絶対来ないでしょ。そもそも、神谷に頼らないで自分で篠原くんを誘えばよかったじゃん。篠原くんのLINE知ってるんでしょ?」
愛花の鋭い指摘に、彩美は奥歯を噛み締めた。
愛花の言うとおりだった。本当に咲乃を誘いたいのなら、わざわざ神谷を通す必要なんてない。神谷を間に挟むから話がうまく進まないわけで、咲乃に直接言って誘えば良かったのだ。それでもそれが出来なかったのは、咲乃の勉強の時間を奪ってしまうことに、少なからず罪悪感があったからだった。
誘ったところできっと断られるだろうし、運良く受け入れてくれたとしても、自分のわがままのせいで、彼の大切な時間を奪ってしまうことへの罪悪感は消えなかったはずだ。
だから、わざわざ神谷を通したのだ。神谷は、他人の恋愛を何の見返りもなしに後押しするような人間ではない。いくら彩美が脅しても、きっと面倒臭がって手助けなんてしてくれない。
そんなこと、わかってた。わかってたけど……。
結局彩美は、咲乃が来ないのを神谷のせいにしたかっただけで、本当は自分で誘う勇気がなかっただけなのだ。
再び何も言わなくなってしまった彩美に、愛花は呆れてため息をついた。浴衣の袖口を上げ、腕時計を確認する。お祭りもあと数十分で終わってしまう。このまま、座り呆けて終わる夏祭りなど、愛花はまっぴらごめんだ。
「重田」
「な、なんだよ」
愛花の呼びかけに、今まで存在感を薄めていた重田が反応する。
「なんか飲み物買ってこい」
「……わかったよ。買ってくる」
顎で使われる事に不服な様子は見せるものの、空気が読める重田は、愛花と彩美を二人きりにさせてやるため大人しく愛花の言いつけに従った。
しぶしぶ肩を落とした重田の姿が、人混みの中へと消えると、愛花は彩美の隣に腰を下ろした。
「これからどうすんの?」
今度は優しく声を掛ける。項垂れた彩美から、返事はない。
「このまま、終わっていいの? 来年はもう会えないかもしれないんだよ?」
それでも、彩美からの返事はない。
愛花は、なんで自分がこんなに気をつかわなきゃいけないんだろうと思った。そもそも、彩美の恋愛事情など、愛花には関係ないことなのに。
「あーそう、良いんだ! このまま何もしないで夏休みが終わっちゃっても! 結局、彩美がやったことって何? 自分が一番可愛いとか言って周りの子を見下すわりに、なーんにも行動してないじゃん。それで、篠原くんが来てくれなかったら周りに当たり散らすだけ。それって、何の意味あんの? 遠くから眺めてるだけでいいなら、他の子たちと一緒じゃん。巻き込まれるこっちの身にもなってよね!」
愛花は、普段から思っていたありったけの不満を彩美にぶつけた。
「あんた、ホントに篠原くんと付き合う気あんの? 嫌われるのが怖いからって、いじけて何もしないつもり? 本当に欲しかったら、当たって砕けて見せなよ!」
思っていること全部言ってやったわ、とばかりに、愛花はふんと鼻息を吹かす。親友として彩美を焚き付ける目的もあったが、迷惑だから周りの気持ちも考えろという気持ちもあった。
ちょうど愛花が言い切ったところで、飲み物を持った重田が帰ってきた。何も状況が変わっていないのを見て、ホッとしたらいいのかガッカリしたらいいのか分からないような複雑な表情をしている。
「……うっさいな」
「は?」
何かの聞き間違えか。愛花が聞き返す。
「わたしが、当たって砕けるって? 冗談じゃない」
不意に顔を上げて怒りだした彩美に、愛花も重田もたじろいだ。
「さっきから、人がこれからどうするか考えてるときに、言いたい放題言いってんじゃねぇよ。当たって砕けろ? 砕けるわけないでしょ、この私が。むしろ、砕いてやるっつの。欲しいものは砕いてでも手に入れてやるっつーの!」
篠原くんを? とは、さすがの愛花も怖くて聞けなかった。好きな人を砕いて手に入れるのは、思考として危ないと思うのだが、顔面が鬼の形相になった彩美には、何を言っても伝わらない。重田はすっかり委縮しているし、愛花は彩美の身勝手さにドン引きしていた。
「決めた! これから、篠原くんの家に行く!」
「へ?」
呆けた重田と愛花の声が重なる。彩美はふんすと鼻息を荒げた。
「篠原くんが来られないなら、会いに行けばいい!」
ぎらぎらと決意をみなぎらせた瞳は、まるで餌を狙う猛獣のよう。
彩美は、絶対篠原くんと素敵な夏を過ごすと固く決意すると、脇目も振らずに歩きはじめた。