いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
ep76 憂鬱で不機嫌なナイト
それからその日1日は、まるで息のつまるような1日だった。遠藤さんが、新島くんに会いに教室までやってくるのだ。そのため、休み時間を教室で過ごすことができず、智子ちゃんとひと気のない廊下をぶらぶら歩いたり、図書室に避難したりして過ごした。
今のところ、遠藤さんは、新島くんのことに夢中でわたしのことなんて眼中にないようだが、またいつ遠藤さんに目を付けられるか分からない。目立った行動はなるえく避け、存在感を消しつつ、学校では一人にならないよう、常に智子ちゃんと一緒に行動した。
智子ちゃんには、わたしが遠藤さんにいじめられていたことを話している。智子ちゃんも清水さんにいじめられていた時があったらしく、わたしの不安な気持ちに共感してくれたのがありがたかった。
そんな、ストレスフルな一日を過ごして、ようやく帰りの会を終えた後。帰り支度をしていると、篠原くんに声をかけられた。
「津田さん、お疲れさま」
「……あっ、はい。お疲れさまです」
篠原くんと学校で交わす会話は、「おはよう」と、「お疲れ様」の最低限の挨拶だけ。休み時間になると、篠原くんはちなちゃんのクラスにいるので、学校で篠原くんと話すタイミングなんてほとんどない。それに、学級委員の仕事で度々職員室に呼ばれることがあって、篠原くんは傍から見ても忙しそうに見えた。
席は真隣だし、話しかけようと思えば話せるんだけど、学校では篠原くんと親しく見えるような行動は慎んでいたから、わたしの方から積極的に話しかけることはなかった。どうせこの後に勉強会があるから、学校で喋る機会がなくても別に困らない。
「津田さん、学校で何か困っていることない?」
篠原くんは、自分が忙しいのにも関わらず度々こうしてわたしのことまで気にかけてくれている。そんな篠原くんの気持ちがありがたくて、遠藤さんのことで不安だった気持ちも励まされる感じがした。きっと篠原くんなら、どんなことだって親身になって聞いてくれるだろう。
……でも、篠原くんに今朝のことを話すことはできそうもない。ちなちゃんのことで十分大変な篠原くんに、わたしの問題まで背負わせるのはどうしても気が引けてしまうからだ。
「いえ、大丈夫です」
いつものように答えると、篠原くんは少しだけ眉を下げて微笑んだ。
「そっか。何かあったら、遠慮せずに言ってね」
「ありがとうございます、篠原くん。それでは、また」
「うん、またね」
別れの挨拶を交わして、ちなちゃんを迎えに篠原くんは教室を出て行った。
わたしも早く帰ろう。そう思って、カバンを持って教室を出る。教室を出たところで、ぬっと目の前に陰ができた。
わたしは、突如目の前に現れた壁に目をぱちくりさせた。一拍置いてから、それが男子の制服だと理解する。混乱したまま恐る恐る視線を上げて、思わず小さく声を漏らした。
「は……ぇ……」
新島くんがひどくうんざりした様子でまっすぐにわたしを見下ろしていた。
「帰んの?」
「……?」
誰に言ったんだろう。後ろを振り返る。教室の中にはまだ数名残っているけど……。
新島くんは目の端をぴくぴくと小さく痙攣させて、すごく嫌そうな顔でわたしを見下ろしていた。
「あんただよ、あんた。もう帰んのかって聞いてんだけど」
「……はぁ」
「じゃ、帰えるぞ」
KAERUZO? ……カエルゾ……蛙、ぞ?
「何ぼーっと突っ立ってんだよ、どんくさいな!」
「ヒッ、ヒャイ! すみません!」
びくっと全身を震わせて、あわてて新島くんの隣まで走る。
本当に? 本当に一緒に帰るってこと? なんで? なんで、新島くんと? なんで? ……ぜんぜんわからない……怖い。
頭の中には最悪なことを想定してしまう。例えば、このままひと気のない場所に連れていかれて、待ち構えていた遠藤さんたちにリンチされる、とか……。……ありえなくもない。もしかしてこの状況、かなりヤバいかも……。どうしよう、どうしよう! やっぱり逃げなきゃ……っ!!
「ゆうま、待ってよ!」
全身がびくりと揺れた。声の主はまぎれもなく遠藤さんだった。
「ねぇ、ゆうま、ゆうまってば!」
遠藤さんが、新島くんの腕を掴んで引き留めようとすると、新島くんは遠藤さんの手を振り払って、何もなかったかのように歩き続けた。
ちなみに、わたしの肩は新島くんの手によってがっしり掴まれているので逃げることができない。わたし、全然関係ないのに!
「なんで無視するの? ねぇ……っ!」
遠藤さんは必死に、新島くんを呼びながら追いかけてくる。
「待ってよ。なんで、ブタなんかと一緒にいるの? ねぇ、ねぇってば!」
「あ゛ー、うっぜぇな゛!」
本気で苛立った声を上げ、新島くんは、遠藤さんの方に振り返った。わたしは新島くんに肩を掴まれたままなので、必然的にわたしも立ち止まざるをえない。巻き込まれた感半端ない。
「あのさぁ、俺たち別れたよね。なんで、未だに彼女面? ウザいから消えてくんねぇかな」
「そん……な……」
新島くんに言われたことが、信じられないような驚愕の表情を浮かべて、じっと新島くんを見つめている。
「行くよ、津田さん」
改めて肩を掴む手に力を込められて、抵抗できずに連行されていく。遠藤さんが怖すぎて、わたしは後ろを振り返ることができなかった。
今のところ、遠藤さんは、新島くんのことに夢中でわたしのことなんて眼中にないようだが、またいつ遠藤さんに目を付けられるか分からない。目立った行動はなるえく避け、存在感を消しつつ、学校では一人にならないよう、常に智子ちゃんと一緒に行動した。
智子ちゃんには、わたしが遠藤さんにいじめられていたことを話している。智子ちゃんも清水さんにいじめられていた時があったらしく、わたしの不安な気持ちに共感してくれたのがありがたかった。
そんな、ストレスフルな一日を過ごして、ようやく帰りの会を終えた後。帰り支度をしていると、篠原くんに声をかけられた。
「津田さん、お疲れさま」
「……あっ、はい。お疲れさまです」
篠原くんと学校で交わす会話は、「おはよう」と、「お疲れ様」の最低限の挨拶だけ。休み時間になると、篠原くんはちなちゃんのクラスにいるので、学校で篠原くんと話すタイミングなんてほとんどない。それに、学級委員の仕事で度々職員室に呼ばれることがあって、篠原くんは傍から見ても忙しそうに見えた。
席は真隣だし、話しかけようと思えば話せるんだけど、学校では篠原くんと親しく見えるような行動は慎んでいたから、わたしの方から積極的に話しかけることはなかった。どうせこの後に勉強会があるから、学校で喋る機会がなくても別に困らない。
「津田さん、学校で何か困っていることない?」
篠原くんは、自分が忙しいのにも関わらず度々こうしてわたしのことまで気にかけてくれている。そんな篠原くんの気持ちがありがたくて、遠藤さんのことで不安だった気持ちも励まされる感じがした。きっと篠原くんなら、どんなことだって親身になって聞いてくれるだろう。
……でも、篠原くんに今朝のことを話すことはできそうもない。ちなちゃんのことで十分大変な篠原くんに、わたしの問題まで背負わせるのはどうしても気が引けてしまうからだ。
「いえ、大丈夫です」
いつものように答えると、篠原くんは少しだけ眉を下げて微笑んだ。
「そっか。何かあったら、遠慮せずに言ってね」
「ありがとうございます、篠原くん。それでは、また」
「うん、またね」
別れの挨拶を交わして、ちなちゃんを迎えに篠原くんは教室を出て行った。
わたしも早く帰ろう。そう思って、カバンを持って教室を出る。教室を出たところで、ぬっと目の前に陰ができた。
わたしは、突如目の前に現れた壁に目をぱちくりさせた。一拍置いてから、それが男子の制服だと理解する。混乱したまま恐る恐る視線を上げて、思わず小さく声を漏らした。
「は……ぇ……」
新島くんがひどくうんざりした様子でまっすぐにわたしを見下ろしていた。
「帰んの?」
「……?」
誰に言ったんだろう。後ろを振り返る。教室の中にはまだ数名残っているけど……。
新島くんは目の端をぴくぴくと小さく痙攣させて、すごく嫌そうな顔でわたしを見下ろしていた。
「あんただよ、あんた。もう帰んのかって聞いてんだけど」
「……はぁ」
「じゃ、帰えるぞ」
KAERUZO? ……カエルゾ……蛙、ぞ?
「何ぼーっと突っ立ってんだよ、どんくさいな!」
「ヒッ、ヒャイ! すみません!」
びくっと全身を震わせて、あわてて新島くんの隣まで走る。
本当に? 本当に一緒に帰るってこと? なんで? なんで、新島くんと? なんで? ……ぜんぜんわからない……怖い。
頭の中には最悪なことを想定してしまう。例えば、このままひと気のない場所に連れていかれて、待ち構えていた遠藤さんたちにリンチされる、とか……。……ありえなくもない。もしかしてこの状況、かなりヤバいかも……。どうしよう、どうしよう! やっぱり逃げなきゃ……っ!!
「ゆうま、待ってよ!」
全身がびくりと揺れた。声の主はまぎれもなく遠藤さんだった。
「ねぇ、ゆうま、ゆうまってば!」
遠藤さんが、新島くんの腕を掴んで引き留めようとすると、新島くんは遠藤さんの手を振り払って、何もなかったかのように歩き続けた。
ちなみに、わたしの肩は新島くんの手によってがっしり掴まれているので逃げることができない。わたし、全然関係ないのに!
「なんで無視するの? ねぇ……っ!」
遠藤さんは必死に、新島くんを呼びながら追いかけてくる。
「待ってよ。なんで、ブタなんかと一緒にいるの? ねぇ、ねぇってば!」
「あ゛ー、うっぜぇな゛!」
本気で苛立った声を上げ、新島くんは、遠藤さんの方に振り返った。わたしは新島くんに肩を掴まれたままなので、必然的にわたしも立ち止まざるをえない。巻き込まれた感半端ない。
「あのさぁ、俺たち別れたよね。なんで、未だに彼女面? ウザいから消えてくんねぇかな」
「そん……な……」
新島くんに言われたことが、信じられないような驚愕の表情を浮かべて、じっと新島くんを見つめている。
「行くよ、津田さん」
改めて肩を掴む手に力を込められて、抵抗できずに連行されていく。遠藤さんが怖すぎて、わたしは後ろを振り返ることができなかった。