いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
ep78 光と影
学校、行きたくないなぁ。
朝目が覚めた時、真っ先にそう思った。昨晩はなかなか寝付けなくて、気づいたら朝になっていた。枕元に置いたスマホのアラームがけたたましく鳴り続ける。頭の上で鳴り続けて、ガンガン耳の奥に響くのに、わたしは止める気力も湧かないまま、ぼんやりと天井を見つめていた。
もう、行くのやめちゃおうかな。どうせ、また不登校になったところで、元の生活に戻るだけだ。やっぱりダメだった。学校復帰なんて、出来っこないってわかってたのに。
遠藤さんがいる学校になんて戻りたくなんかなかったけど、別のクラスだし、すれ違いざまに悪口を言われるくらいなら、耐えられるかもしれないって思ってた。でも、クラスが変わっても、いじめが軽くなるなんてことはなかった。
何も変わらなかった。何も。また1年生の時と同じことが起きた。遠藤さんが学校にいる限り、わたしは行けない。それこそ、転校でもしない限り。
学校が、怖い。
アラームの音が、枕元で鳴り続けている。頭が痛くなるような音に耐えかねて、わたしはスマホに手を伸ばした。
アラームを止めるために画面を見た。LINEの通知が表示されていた。こんなに早くからLINEが来ることなんてめったにない。通知欄には、わたしも知るアニメキャラのアイコンが表示されている。LINEの送り主は、智子ちゃんからだった。
『これ、マジヤバかった。今日持っていくから、絶対に読んでほしい』
ホーム画面に表示された言葉だけでは、一体何がヤバかったのかわからない。通知をタップしてトーク画面を表示すると、メッセージと共に、わたしが知らないBL漫画の表紙を写した画像が添付されていた。
わたしはしばらくそのトーク画面を見つめた後、ベッドから抜け出した。学校に行かないと、せっかく智子ちゃんがおすすめしてくれた漫画を読むことができない。
1年生の時とは違うんだ。だってもう、ひとりじゃないから。
*
昇降口で自分の靴箱を覗くと、上履きが無かった。昨日は確かに自分の靴箱に入れたはずなのに。
きっと遠藤さんたちが隠したんだ。1年生の時は、自分の持ち物がなくなるなんて常茶飯事だった。どうしよう。学校には来賓用のスリッパがあるから、先生に言えば貸してくれるとは思うけど、理由は絶対に聞かれるし。そもそも、スリッパを借りるために職員室まで行かなきゃいけないのがなぁ。そこまで裸足同然で廊下を歩くって結構しんどいなぁ。どうしても目立っちゃうし、それに、靴下が汚れるのも気持ちが悪いし……。
……でも、このままじっとしているわけにはいかない。嫌なことは、さっさと済ませてしまったほうがいい。
何とか気持ちを立て直して、職員室へ行こうと心に決める。その時、ちょうど西田くんが登校してきた。
「おはよう、津田さん」
「おはよう、西田くん」
お互いに挨拶を交わしながら、西田くんは自分の靴箱から自分の上履きを出して履き替えている。ふと、西田くんの視線がわたしの足元に向けられた。
「あれ、津田さん、上履きは?」
当然違和感があるであろうことを聞かれて、わたしはばつの悪い気持ちで頬を掻いた。
「えっと、その、忘れてしまいまして……」
「忘れた? 昨日は履いてたよね?」
「昨日うっかり汚してしまって、家で洗ってきたんですよ」
わたしが適当にごまかすと、西田くんは疑わしそうに目を細めた。
「それ、本当?」
「……はい……まぁ」
「平日の真ん中で、昨日あったものを忘れて来たなんて、いやがらせを隠すためのありがちな言い訳だよね? 本当は、誰かに隠されたんじゃないの?」
余計な心配をかけたくなくて咄嗟についた嘘だったが、簡単に見抜かれてしまい、わたしは観念して隠されてしまったことを認めた。
「わかった。僕がスリッパを借りてくるから、津田さんはここで待っててよ」
「すみません、西田くん」
「いいよ。お互い様だし」
足早に職員室へ向かう西田くんに、わたしは、ほっと息をついた。いらぬ手間をかけさせてしまったのは申し訳なかったけれど、「お互い様」だと言ってくれたことが嬉しかった。
休み時間に、智子ちゃんと西田くん、竹内くんの4人で上履きを探した。本当はひとりで探すつもりだったのだが、みんなが探すのを手伝ってくれたのだ。授業合間の僅かな空き時間を使って、裏門にあるゴミ捨て場や、校庭の生垣の中を漁ったりしたけど、どこを探してもわたしの上履きは見つからなかった。
「すみません、一緒に探してもらっちゃって……。でも、もう大丈夫ですから。親に新しいのを買ってもらいますし」
「何言ってんの、成海ちゃん。友達なんだから、遠慮しないでよ」
「そうだよ。俺も上履き隠されたことあるから気持ちわかるし、こういうのって、探せばきっと見つかると思うよ」
「また、お昼休みにみんなで探してみよう? まだ探せてない場所もあると思うしさ」
智子ちゃんと竹内くんのフォローが温かすぎて、胸の奥がジーンとする。目の周りが熱くなるのを感じて、涙がこぼれないよう必死にこらえた。
わたしが改めてみんなに感謝の気持ちを伝えると、智子ちゃんが励ますようにわたしの背中をさすった。すごく温かくて、上履きを失くして落ち込んでいた気持ちも少しだけ軽くなった。
「津田さん、このこと、篠原くんに言わなくていいの?」
そろそろ授業が始まる。教室に戻っていると、歩きながら、西田くんがすごく真剣な顔をして、わたしに尋ねた。
「篠原くんには、言わないでください。篠原くん、今ちなちゃんのことで手いっぱいでしょうし」
「でも、篠原くんは知りたいはずだよ。津田さんがまたいじめられてるって」
わかってるんだ。篠原くんだったら、きっと助けになってくれるって。けど今は、わたしの問題まで背負わせたくない。
「言わないでください。大丈夫ですよ。こういうことは慣れっこですし、いざというときは、日高先生に相談してみます」
西田くんの、わたしを心配してくれる気持ちはすごくありがたいけど、そこはどうしても頷くことができない。でも、スクールカウンセラーの日高先生なら、こういういじめ問題には詳しいだろうし、いざとなったら相談してみようと思う。
わたしが、篠原くんに言わないよう、再三西田くんにお願いすると、西田くんは渋い顔をして、しぶしぶ頷いてくれた。
朝目が覚めた時、真っ先にそう思った。昨晩はなかなか寝付けなくて、気づいたら朝になっていた。枕元に置いたスマホのアラームがけたたましく鳴り続ける。頭の上で鳴り続けて、ガンガン耳の奥に響くのに、わたしは止める気力も湧かないまま、ぼんやりと天井を見つめていた。
もう、行くのやめちゃおうかな。どうせ、また不登校になったところで、元の生活に戻るだけだ。やっぱりダメだった。学校復帰なんて、出来っこないってわかってたのに。
遠藤さんがいる学校になんて戻りたくなんかなかったけど、別のクラスだし、すれ違いざまに悪口を言われるくらいなら、耐えられるかもしれないって思ってた。でも、クラスが変わっても、いじめが軽くなるなんてことはなかった。
何も変わらなかった。何も。また1年生の時と同じことが起きた。遠藤さんが学校にいる限り、わたしは行けない。それこそ、転校でもしない限り。
学校が、怖い。
アラームの音が、枕元で鳴り続けている。頭が痛くなるような音に耐えかねて、わたしはスマホに手を伸ばした。
アラームを止めるために画面を見た。LINEの通知が表示されていた。こんなに早くからLINEが来ることなんてめったにない。通知欄には、わたしも知るアニメキャラのアイコンが表示されている。LINEの送り主は、智子ちゃんからだった。
『これ、マジヤバかった。今日持っていくから、絶対に読んでほしい』
ホーム画面に表示された言葉だけでは、一体何がヤバかったのかわからない。通知をタップしてトーク画面を表示すると、メッセージと共に、わたしが知らないBL漫画の表紙を写した画像が添付されていた。
わたしはしばらくそのトーク画面を見つめた後、ベッドから抜け出した。学校に行かないと、せっかく智子ちゃんがおすすめしてくれた漫画を読むことができない。
1年生の時とは違うんだ。だってもう、ひとりじゃないから。
*
昇降口で自分の靴箱を覗くと、上履きが無かった。昨日は確かに自分の靴箱に入れたはずなのに。
きっと遠藤さんたちが隠したんだ。1年生の時は、自分の持ち物がなくなるなんて常茶飯事だった。どうしよう。学校には来賓用のスリッパがあるから、先生に言えば貸してくれるとは思うけど、理由は絶対に聞かれるし。そもそも、スリッパを借りるために職員室まで行かなきゃいけないのがなぁ。そこまで裸足同然で廊下を歩くって結構しんどいなぁ。どうしても目立っちゃうし、それに、靴下が汚れるのも気持ちが悪いし……。
……でも、このままじっとしているわけにはいかない。嫌なことは、さっさと済ませてしまったほうがいい。
何とか気持ちを立て直して、職員室へ行こうと心に決める。その時、ちょうど西田くんが登校してきた。
「おはよう、津田さん」
「おはよう、西田くん」
お互いに挨拶を交わしながら、西田くんは自分の靴箱から自分の上履きを出して履き替えている。ふと、西田くんの視線がわたしの足元に向けられた。
「あれ、津田さん、上履きは?」
当然違和感があるであろうことを聞かれて、わたしはばつの悪い気持ちで頬を掻いた。
「えっと、その、忘れてしまいまして……」
「忘れた? 昨日は履いてたよね?」
「昨日うっかり汚してしまって、家で洗ってきたんですよ」
わたしが適当にごまかすと、西田くんは疑わしそうに目を細めた。
「それ、本当?」
「……はい……まぁ」
「平日の真ん中で、昨日あったものを忘れて来たなんて、いやがらせを隠すためのありがちな言い訳だよね? 本当は、誰かに隠されたんじゃないの?」
余計な心配をかけたくなくて咄嗟についた嘘だったが、簡単に見抜かれてしまい、わたしは観念して隠されてしまったことを認めた。
「わかった。僕がスリッパを借りてくるから、津田さんはここで待っててよ」
「すみません、西田くん」
「いいよ。お互い様だし」
足早に職員室へ向かう西田くんに、わたしは、ほっと息をついた。いらぬ手間をかけさせてしまったのは申し訳なかったけれど、「お互い様」だと言ってくれたことが嬉しかった。
休み時間に、智子ちゃんと西田くん、竹内くんの4人で上履きを探した。本当はひとりで探すつもりだったのだが、みんなが探すのを手伝ってくれたのだ。授業合間の僅かな空き時間を使って、裏門にあるゴミ捨て場や、校庭の生垣の中を漁ったりしたけど、どこを探してもわたしの上履きは見つからなかった。
「すみません、一緒に探してもらっちゃって……。でも、もう大丈夫ですから。親に新しいのを買ってもらいますし」
「何言ってんの、成海ちゃん。友達なんだから、遠慮しないでよ」
「そうだよ。俺も上履き隠されたことあるから気持ちわかるし、こういうのって、探せばきっと見つかると思うよ」
「また、お昼休みにみんなで探してみよう? まだ探せてない場所もあると思うしさ」
智子ちゃんと竹内くんのフォローが温かすぎて、胸の奥がジーンとする。目の周りが熱くなるのを感じて、涙がこぼれないよう必死にこらえた。
わたしが改めてみんなに感謝の気持ちを伝えると、智子ちゃんが励ますようにわたしの背中をさすった。すごく温かくて、上履きを失くして落ち込んでいた気持ちも少しだけ軽くなった。
「津田さん、このこと、篠原くんに言わなくていいの?」
そろそろ授業が始まる。教室に戻っていると、歩きながら、西田くんがすごく真剣な顔をして、わたしに尋ねた。
「篠原くんには、言わないでください。篠原くん、今ちなちゃんのことで手いっぱいでしょうし」
「でも、篠原くんは知りたいはずだよ。津田さんがまたいじめられてるって」
わかってるんだ。篠原くんだったら、きっと助けになってくれるって。けど今は、わたしの問題まで背負わせたくない。
「言わないでください。大丈夫ですよ。こういうことは慣れっこですし、いざというときは、日高先生に相談してみます」
西田くんの、わたしを心配してくれる気持ちはすごくありがたいけど、そこはどうしても頷くことができない。でも、スクールカウンセラーの日高先生なら、こういういじめ問題には詳しいだろうし、いざとなったら相談してみようと思う。
わたしが、篠原くんに言わないよう、再三西田くんにお願いすると、西田くんは渋い顔をして、しぶしぶ頷いてくれた。