いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
無事に教室に戻ると、わたしと智子ちゃんは、ほっと顔を見合わせた。新島くんが助けに来てくれなかったら、わたしは今頃どうなっていたんだろうと考えると、恐怖で身体が震えてしまう。
「あ、あの、ありがとう、ございました」
昨日、守ってくれると行った事は本当だったのだと改めて感じて、わたしがおずおずと感謝を伝えると、新島くんはぶっきらぼうに、「別に」と一言こたえた。
丁度その時、西田くんと竹内くんが、教室に帰ってきた。
「津田さんの上履き見つけたよ!」
「あったんですか!? ありがとうございます!」
わたしと智子ちゃんが、西田くんたちに駆け寄ると、西田くんと竹内くんは、互いに困ったように顔を見合わせた。
「どうしたの? 上履きは?」
「えっと、それが……。見せづらいんだけど……」
智子ちゃんが尋ねると、竹内くんは、躊躇いがちに持っていたビニール袋を開いて、わたしたちに中身が見えるように差し出した。開いた口から、ビニールの中を確認する。
上履きには、確かにマジックで『津田成海』と書かれていたが、その他は、わたしが使っていた上履きにしてはあまりにも変わり果てていた。
上履きは全体的にハサミでズタズタに割かれ、さっきまで水に漬かっていたことがわかるくらいには湿っていて、僅かにだが、公衆トイレで嗅ぐような不快なにおいが染み付いていた。
「ひどい……」
智子ちゃんが顔を歪めて呟くと、「どこにあったの?」と、西田くんたちに尋ねた。
「男子トイレの便器の中に入ってた」
答えたのは、西田くんだった。
「僕たちも、まさかそんなところにあるなんて思ってなくてさ。男子トイレまでは、津田さんは探しに来られないもんね」
西田くんは、気遣うようにそう言うと、わたしは竹内くんから上履きの入ったビニール袋を受け取った。
「それ、どうするの? 家に持って帰る?」
西田くんに尋ねられて、わたしは首を振った。
「学校に捨てます。探してきてくれたのに、すみません」
わたしが答えると、丁度チャイムが鳴った。みんなそれぞれ席へ戻る。せっかく、上履きを見つけたのに、みんな表情は暗いままで、心が晴れるなんてことは全くなかった。
わたしはビニール袋の口を固く結ぶと、上履きを入れた袋を、自分のロッカーの中にしまった。
放課後、わたしは学校のゴミ捨て場に訪れると、燃えるごみの袋の中に、履けなくなった上履きを混ぜて処分した。
お母さんに頼んで、新しい上履きを買ってもらわなきゃ。こんなことなら、上履きを探す必要はなかったな。智子ちゃんや西田くんたちにも悪いことをしちゃったよ。
わたしは、深くため息をついて、ゴミ捨て場を後にした。
「終わった?」
「ほわぁ!!」
いきなり物陰から長身があらわれて、わたしは思わず叫び声を上げてしまう。新島くんはそんなわたしを、嫌そうな顔で見下ろした。
「終わったんなら、さっさと帰る」
「……はい」
おずおずとうなずいて、新島くんの隣を歩く。ちらりと横目で新島くんを見て、わたしは遠慮がちに口を開いた。
「……あの、今日は本当に、ありがとうございました」
「いーよ、別に」
わたしが改めてお礼を述べると、ぶっきらぼうに新島くんが返事をした。
「叩かれたところ、大丈夫でしたか?」
腫れてる様子はないし、流石に痛みは引いてるとは思うけど、結構な強さで叩かれたみたいだし、口内が怪我したかもしれない。
「いいって。ウザいから、余計なこと気にすんな」
「……そう、ですか。すみません」
問題ないなら、別にいいんだけど。
学校裏から校庭に出て、正門を通る。学校には、部活動をしている下級生や、同じく正門を出る生徒たちがちらちら見える。
学校付近を歩くときは、なるべく新島くんと距離を保ち、周囲からは無関係に見えるように気を付けた。新島くんの後ろを歩きながら、気まずい気持を持て余して、目を地面に向ける。
住宅街に入ると、周囲に同じ制服を着た生徒の姿は見なくなった。ここまでくれば、誰かに見られる危険は少ない。わたしは新島くんに駆け寄ると、おずおずと話しかけた。
「……あ、あの……」
新島くんから返事はない。機嫌が悪いみたいだ。不機嫌な人に話しかけるのは苦手だけど、わたしは前から気になっていたことを聞くために、勇気を出して続けた。
「……新島くんは、どうしてわたしが遠藤さんに絡まれているって知ったんですか?」
中庭から3年生の教室までは、1階と2階でかなり離れている。用もないのに、そんなところまで新島くんが降りてくるなんてことは考えられない。
たまたまあの場に通りかかった誰かが、不穏な状況を見て、新島くんに知らせてくれたのかな。だとしたら誰が? なんで新島くんに?
「いや、俺がずっとついてた」
「ついてたって……見てたんですか!? 上履きを探してるときも、ずっと?!」
驚いて訪ねると、新島くんは頷いた。1日中、ずっと後ろにいたなんて、全く気づかなかった。
「いつどこで何があるか、わかんないでしょ。こっちはあんたのこと頼まれてんだから」
「そう、ですよね……。それは、どうも……」
おかげで助かったけど……正直、ちょっと怖い。ストーカーみたいなんて言ったらアレだけど……。助けられた身で、こんなことを言えた立場じゃないんだけどさ。
「つうか、遠藤がいるのわかってんのに津田さんうろうろしすぎね。もう少し危機感持って。あと、基本的に俺の視界の範囲内にいてよ、後ろついていくの面倒だから。なんかあったら必ず連絡して。昨日、LINE交換したでしょ」
「……すみません、気を付けます……」
新島くんにクレームをつけられて、わたしは反省して小さくなった。
確かに今日、自分のせいでいろんな人に迷惑をかけてしまった。上履きのために学校中を探しまわっていたせいで、遠藤さんに絡まれちゃったし。でも、常に新島くんの視界内にいるって、それはかなり難しいんじゃないだろうか。
「……誰に頼まれたのかって、聞いてなかった、ですよね?」
「言ってなかったっけ」
昨日聞いたけど、話がそれてしまったはずだ。わたしが「聞いてないです」と頷くと、新島くんは「あー」と面倒臭そうに頭を掻きつつ、迷うように目をさ迷わせた。
「篠原から。聞いてないの?」
「篠原くんから!?」
驚いて、隣を歩く新島くんの顔を見上げる。
篠原くんが頼んだの……? もしかして篠原くん、わたしが新島くんが苦手なこと忘れてる?
「あいつ、本田のことがあって守ってやれないからとか言ってた。学校復帰したてで、困ることも多いだろうから面倒を見てくれないかってさ」
「こ……断らなかったん……ですか?」
新島くんの態度を見ても、わたしと関わるのは不本意なんだとわかる。断ることもできたんじゃないかと勘ぐっていると、「色々あったんだよ」とはぐらかされてしまった。
再び会話が途切れて、沈黙が訪れる。居心地の悪いこの空気から逃れるように、わたしは必死に、地面に伸びる自分の影を見つめた。
「あんたの兄弟って、姉ちゃんひとり?」
「……は、はい。そうです」
突然新島くんに話しかけられて、思わず声が裏返る。新島くんから話しかけてくるなんて、珍しいことだった。
「昨日、家にあった写真見たけど、あんたの姉ちゃんきれいな人だよな。全然似てねぇ」
「……。よく言われます」
親戚の人から、耳の形が似てるね、とは言われる。どうでもいいことだけど。
再び無言の時間が訪れて、気まずい空気が流れた。何か話題を探した方がいいだろうかと悩みつつ、本当は会話なんかしたくないんだよな、と気怠い気持ちも湧いてきた。
時々隣りから、柔軟剤の甘い香りが微かに鼻につく。篠原くんの、柑橘系の爽やかな石鹸の香りとは違う。新島くんの香りはフローラル系というのだろうか。みずみずしくも甘さの含む、魅惑的な香りだった。
今更、新島くんを好きになるなんてことは絶対にない。わたしにとって新島くんは恋のトラウマだし、遠くから見てる分には問題ないけど、新島くん、性格悪いし。
「……」
ようやく自分家のマンションが見えてきて、わたしは心からほっとした。やっと新島くんから解放される。
「……今日もありがとうございました。では、また明日」
さっと頭を下げて、エントランスへ向かおうとした、その時だった。
「明日からは、朝も迎えに来るから。待ち合わせは後で連絡する」
朝も一緒に登校するのか……。一緒に登校しても気まずい時間が増えるだけで本当は嫌だけど、守られているだけのわたしには拒否する権利はない。
「は……はい。よろしくお願いします」
わたしがおどおど頭を下げると、新島くんは何も言わずに行ってしまった。
「あ、あの、ありがとう、ございました」
昨日、守ってくれると行った事は本当だったのだと改めて感じて、わたしがおずおずと感謝を伝えると、新島くんはぶっきらぼうに、「別に」と一言こたえた。
丁度その時、西田くんと竹内くんが、教室に帰ってきた。
「津田さんの上履き見つけたよ!」
「あったんですか!? ありがとうございます!」
わたしと智子ちゃんが、西田くんたちに駆け寄ると、西田くんと竹内くんは、互いに困ったように顔を見合わせた。
「どうしたの? 上履きは?」
「えっと、それが……。見せづらいんだけど……」
智子ちゃんが尋ねると、竹内くんは、躊躇いがちに持っていたビニール袋を開いて、わたしたちに中身が見えるように差し出した。開いた口から、ビニールの中を確認する。
上履きには、確かにマジックで『津田成海』と書かれていたが、その他は、わたしが使っていた上履きにしてはあまりにも変わり果てていた。
上履きは全体的にハサミでズタズタに割かれ、さっきまで水に漬かっていたことがわかるくらいには湿っていて、僅かにだが、公衆トイレで嗅ぐような不快なにおいが染み付いていた。
「ひどい……」
智子ちゃんが顔を歪めて呟くと、「どこにあったの?」と、西田くんたちに尋ねた。
「男子トイレの便器の中に入ってた」
答えたのは、西田くんだった。
「僕たちも、まさかそんなところにあるなんて思ってなくてさ。男子トイレまでは、津田さんは探しに来られないもんね」
西田くんは、気遣うようにそう言うと、わたしは竹内くんから上履きの入ったビニール袋を受け取った。
「それ、どうするの? 家に持って帰る?」
西田くんに尋ねられて、わたしは首を振った。
「学校に捨てます。探してきてくれたのに、すみません」
わたしが答えると、丁度チャイムが鳴った。みんなそれぞれ席へ戻る。せっかく、上履きを見つけたのに、みんな表情は暗いままで、心が晴れるなんてことは全くなかった。
わたしはビニール袋の口を固く結ぶと、上履きを入れた袋を、自分のロッカーの中にしまった。
放課後、わたしは学校のゴミ捨て場に訪れると、燃えるごみの袋の中に、履けなくなった上履きを混ぜて処分した。
お母さんに頼んで、新しい上履きを買ってもらわなきゃ。こんなことなら、上履きを探す必要はなかったな。智子ちゃんや西田くんたちにも悪いことをしちゃったよ。
わたしは、深くため息をついて、ゴミ捨て場を後にした。
「終わった?」
「ほわぁ!!」
いきなり物陰から長身があらわれて、わたしは思わず叫び声を上げてしまう。新島くんはそんなわたしを、嫌そうな顔で見下ろした。
「終わったんなら、さっさと帰る」
「……はい」
おずおずとうなずいて、新島くんの隣を歩く。ちらりと横目で新島くんを見て、わたしは遠慮がちに口を開いた。
「……あの、今日は本当に、ありがとうございました」
「いーよ、別に」
わたしが改めてお礼を述べると、ぶっきらぼうに新島くんが返事をした。
「叩かれたところ、大丈夫でしたか?」
腫れてる様子はないし、流石に痛みは引いてるとは思うけど、結構な強さで叩かれたみたいだし、口内が怪我したかもしれない。
「いいって。ウザいから、余計なこと気にすんな」
「……そう、ですか。すみません」
問題ないなら、別にいいんだけど。
学校裏から校庭に出て、正門を通る。学校には、部活動をしている下級生や、同じく正門を出る生徒たちがちらちら見える。
学校付近を歩くときは、なるべく新島くんと距離を保ち、周囲からは無関係に見えるように気を付けた。新島くんの後ろを歩きながら、気まずい気持を持て余して、目を地面に向ける。
住宅街に入ると、周囲に同じ制服を着た生徒の姿は見なくなった。ここまでくれば、誰かに見られる危険は少ない。わたしは新島くんに駆け寄ると、おずおずと話しかけた。
「……あ、あの……」
新島くんから返事はない。機嫌が悪いみたいだ。不機嫌な人に話しかけるのは苦手だけど、わたしは前から気になっていたことを聞くために、勇気を出して続けた。
「……新島くんは、どうしてわたしが遠藤さんに絡まれているって知ったんですか?」
中庭から3年生の教室までは、1階と2階でかなり離れている。用もないのに、そんなところまで新島くんが降りてくるなんてことは考えられない。
たまたまあの場に通りかかった誰かが、不穏な状況を見て、新島くんに知らせてくれたのかな。だとしたら誰が? なんで新島くんに?
「いや、俺がずっとついてた」
「ついてたって……見てたんですか!? 上履きを探してるときも、ずっと?!」
驚いて訪ねると、新島くんは頷いた。1日中、ずっと後ろにいたなんて、全く気づかなかった。
「いつどこで何があるか、わかんないでしょ。こっちはあんたのこと頼まれてんだから」
「そう、ですよね……。それは、どうも……」
おかげで助かったけど……正直、ちょっと怖い。ストーカーみたいなんて言ったらアレだけど……。助けられた身で、こんなことを言えた立場じゃないんだけどさ。
「つうか、遠藤がいるのわかってんのに津田さんうろうろしすぎね。もう少し危機感持って。あと、基本的に俺の視界の範囲内にいてよ、後ろついていくの面倒だから。なんかあったら必ず連絡して。昨日、LINE交換したでしょ」
「……すみません、気を付けます……」
新島くんにクレームをつけられて、わたしは反省して小さくなった。
確かに今日、自分のせいでいろんな人に迷惑をかけてしまった。上履きのために学校中を探しまわっていたせいで、遠藤さんに絡まれちゃったし。でも、常に新島くんの視界内にいるって、それはかなり難しいんじゃないだろうか。
「……誰に頼まれたのかって、聞いてなかった、ですよね?」
「言ってなかったっけ」
昨日聞いたけど、話がそれてしまったはずだ。わたしが「聞いてないです」と頷くと、新島くんは「あー」と面倒臭そうに頭を掻きつつ、迷うように目をさ迷わせた。
「篠原から。聞いてないの?」
「篠原くんから!?」
驚いて、隣を歩く新島くんの顔を見上げる。
篠原くんが頼んだの……? もしかして篠原くん、わたしが新島くんが苦手なこと忘れてる?
「あいつ、本田のことがあって守ってやれないからとか言ってた。学校復帰したてで、困ることも多いだろうから面倒を見てくれないかってさ」
「こ……断らなかったん……ですか?」
新島くんの態度を見ても、わたしと関わるのは不本意なんだとわかる。断ることもできたんじゃないかと勘ぐっていると、「色々あったんだよ」とはぐらかされてしまった。
再び会話が途切れて、沈黙が訪れる。居心地の悪いこの空気から逃れるように、わたしは必死に、地面に伸びる自分の影を見つめた。
「あんたの兄弟って、姉ちゃんひとり?」
「……は、はい。そうです」
突然新島くんに話しかけられて、思わず声が裏返る。新島くんから話しかけてくるなんて、珍しいことだった。
「昨日、家にあった写真見たけど、あんたの姉ちゃんきれいな人だよな。全然似てねぇ」
「……。よく言われます」
親戚の人から、耳の形が似てるね、とは言われる。どうでもいいことだけど。
再び無言の時間が訪れて、気まずい空気が流れた。何か話題を探した方がいいだろうかと悩みつつ、本当は会話なんかしたくないんだよな、と気怠い気持ちも湧いてきた。
時々隣りから、柔軟剤の甘い香りが微かに鼻につく。篠原くんの、柑橘系の爽やかな石鹸の香りとは違う。新島くんの香りはフローラル系というのだろうか。みずみずしくも甘さの含む、魅惑的な香りだった。
今更、新島くんを好きになるなんてことは絶対にない。わたしにとって新島くんは恋のトラウマだし、遠くから見てる分には問題ないけど、新島くん、性格悪いし。
「……」
ようやく自分家のマンションが見えてきて、わたしは心からほっとした。やっと新島くんから解放される。
「……今日もありがとうございました。では、また明日」
さっと頭を下げて、エントランスへ向かおうとした、その時だった。
「明日からは、朝も迎えに来るから。待ち合わせは後で連絡する」
朝も一緒に登校するのか……。一緒に登校しても気まずい時間が増えるだけで本当は嫌だけど、守られているだけのわたしには拒否する権利はない。
「は……はい。よろしくお願いします」
わたしがおどおど頭を下げると、新島くんは何も言わずに行ってしまった。