いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
ep80 世界で一番、会いたくなかった人
彩美は、目の前で呆れ顔をしている神谷を呆然と見上げた。
「なんで、あんたが……」
呟くように言ったところで、自分が泣いていたのを思い出して、慌てて涙を拭う。最悪だ。一番見られたくない奴に泣き顔を見られてしまった。
立ち上がってスカートのしわを払い、急いで立ち上がる。今は神谷に構っていられる余裕はなかった。早くスマホを取り返して帰りたい。
「拾ってくれてありがとう。返してくれない?」
彩美がぶっきらぼうに言って手を差し出すと、神谷は考えるように視線を斜め上に向けた。
「返してやるのは良いけど……。まぁ、先に何があったか聞いてからだな」
「……なっ!」
彩美の顔が青ざめた。スマホをだしにするなんて最悪だ。
「そんなの、ずるい! 早く返してよ!」
「悔しかったら取ってみな」
つま先立ちになって、必死に手を伸ばす。あと数センチというところで手が届かない。いつのまに、こんなに背が伸びたのだろう。彩美は悔しくて、腹に一発くらわそうとこぶしを握った。
「待て待て! 殴ることねーだろ!」
「返してくれないなら、実力行使あるのみ」
神谷は軽やかに彩美の届かないところまで下がると、スマホを制服のポケットに入れてしまった。
「ちょっと!」
「まぁ、まぁ。いいから」
神谷は心底呆れた顔をして、彩美の足元へ目をやった。
「まずは、靴を履き替えてからにしよーぜ」
彩美は上履きのままの足元を見下ろして、ばつの悪い思いで顔をしかめた。いつもなら、神谷なんてグーパンで十分なのに、それすらも気力がわかない。なんだか疲れてしまった。
神谷に靴を持ってきてもらって、その場で履き替える。必然的に一緒に学校を出ることになってしまったが、スマホを取られているのだから、ついて行くしかない。
一体神谷は何を考えてこんなことをするのだろう。ただ単に、この状況を面白がっているのだろうか。もしかすると、日頃の腹いせかもしれない。彩美は、じっと神谷の背中を睨みつけた。
しばらくして、公園にたどり着いた。神谷は自販機でジュースを買うと、彩美に差し出した。
「はいよ」
「!……あ、ありがとう」
彩美は目をぱちくりさせて、渡されるがままに缶ジュースを受け取った。あの神谷がジュースを奢ってくれるなんて、信じられない。
「明日、130円な」
「ケチ」
一瞬でも、感心してしまった自分がバカだった。
彩美はベンチに座ると、缶のプルタブを上げた。彩美のとなりに神谷が座る。
「お前が泣いてたの、どうせ篠原のことだろ?」
ジュースを飲んでいたところで図星を付かれて、彩美はむせてしまった。ハンカチで口を拭い、神谷を睨む。
「だ、だったら何? 笑いたいなら笑えば?」
気まずいのを誤魔化すために語気を強めると、神谷はうんざりしたように空を仰いだ。
「俺も困ってんだよ。篠原に彼女出来てから、全く商品が売れねぇ。みんな、他人《ひと》の彼氏の写真なんかいらねーってさ」
「あんた、まだそんなことやってたの?」
本当にこいつは、咲乃を何だと思っているんだ。咲乃も、神谷を相手にしなくていいのにと思う。
「……その画像、どうするの?」
気になったので、一応聞いてみる。……別に他意はない。
「今年がダメなら来年だな。篠原なら、高校行っても目立つだろ。中学時代の篠原なんて貴重な画像、絶対に売れるぜ」
ニシシと悪いことを考えて笑う神谷に、彩美は怒る気にもなれずに、呆れてため息をついた。
「本当に受かるつもりでいるの?」
「当たり前だろ。俺は篠原と一緒の高校に行く。そういう運命なんだよ」
「どこにそんな自信があるんだか」
彩美は、手の中の缶を見ながら、神谷が夏休みに咲乃と勉強していたのを思い出していた。神谷なりに、桜花咲に受かるというのは本気らしい。彩美としては無謀だとは思うが、学校のテストの結果も教えてくれないから、神谷にどのくらい学力がついているのか、いまいちわからなかった。
「私も、桜花咲にしておけばよかったのかな……」
神谷の無謀な強気に影響されたのか、自分でも信じられない言葉が口からこぼれ出た。咲乃以外で桜花咲を受験しようなんて絶対に無謀だと思っていたから、一度も考えたことがなかったのに。もっと早くから勉強していれば、自分も咲乃と同じ学校へ行けたのだろうか。
「本田さんも、桜花咲を受けるのかな」
「それはねーよ。あいつ勉強、全然だめだし」
「……そうなんだ」
稚奈が桜花咲に行くわけではないのだとわかって、少しだけほっとした。たとえ付き合っていたとしても、志望校が別々になることなんて別段珍しい話ではない。それでも、卒業すれば、咲乃と稚奈がばらばらになってしまうことが、無性に彩美を安心させた。
あんなものを見てしまった後でも、まだ自分は篠原咲乃が好きなのだ。
「私、絶対に篠原くんは、本田さんのことが好きなわけないって思ってた。だって、本田さんといる時の篠原くん、幸せそうな感じがぜんぜんしないんだもん。きっと、本田さんと付き合わなきゃ行けない事情があるんだって思ったの。だから私、篠原くんを本田さんから解放してあげたくて。もし何か事情があるなら助けになるから、頼ってほしかったんだ」
「なんで、あんたが……」
呟くように言ったところで、自分が泣いていたのを思い出して、慌てて涙を拭う。最悪だ。一番見られたくない奴に泣き顔を見られてしまった。
立ち上がってスカートのしわを払い、急いで立ち上がる。今は神谷に構っていられる余裕はなかった。早くスマホを取り返して帰りたい。
「拾ってくれてありがとう。返してくれない?」
彩美がぶっきらぼうに言って手を差し出すと、神谷は考えるように視線を斜め上に向けた。
「返してやるのは良いけど……。まぁ、先に何があったか聞いてからだな」
「……なっ!」
彩美の顔が青ざめた。スマホをだしにするなんて最悪だ。
「そんなの、ずるい! 早く返してよ!」
「悔しかったら取ってみな」
つま先立ちになって、必死に手を伸ばす。あと数センチというところで手が届かない。いつのまに、こんなに背が伸びたのだろう。彩美は悔しくて、腹に一発くらわそうとこぶしを握った。
「待て待て! 殴ることねーだろ!」
「返してくれないなら、実力行使あるのみ」
神谷は軽やかに彩美の届かないところまで下がると、スマホを制服のポケットに入れてしまった。
「ちょっと!」
「まぁ、まぁ。いいから」
神谷は心底呆れた顔をして、彩美の足元へ目をやった。
「まずは、靴を履き替えてからにしよーぜ」
彩美は上履きのままの足元を見下ろして、ばつの悪い思いで顔をしかめた。いつもなら、神谷なんてグーパンで十分なのに、それすらも気力がわかない。なんだか疲れてしまった。
神谷に靴を持ってきてもらって、その場で履き替える。必然的に一緒に学校を出ることになってしまったが、スマホを取られているのだから、ついて行くしかない。
一体神谷は何を考えてこんなことをするのだろう。ただ単に、この状況を面白がっているのだろうか。もしかすると、日頃の腹いせかもしれない。彩美は、じっと神谷の背中を睨みつけた。
しばらくして、公園にたどり着いた。神谷は自販機でジュースを買うと、彩美に差し出した。
「はいよ」
「!……あ、ありがとう」
彩美は目をぱちくりさせて、渡されるがままに缶ジュースを受け取った。あの神谷がジュースを奢ってくれるなんて、信じられない。
「明日、130円な」
「ケチ」
一瞬でも、感心してしまった自分がバカだった。
彩美はベンチに座ると、缶のプルタブを上げた。彩美のとなりに神谷が座る。
「お前が泣いてたの、どうせ篠原のことだろ?」
ジュースを飲んでいたところで図星を付かれて、彩美はむせてしまった。ハンカチで口を拭い、神谷を睨む。
「だ、だったら何? 笑いたいなら笑えば?」
気まずいのを誤魔化すために語気を強めると、神谷はうんざりしたように空を仰いだ。
「俺も困ってんだよ。篠原に彼女出来てから、全く商品が売れねぇ。みんな、他人《ひと》の彼氏の写真なんかいらねーってさ」
「あんた、まだそんなことやってたの?」
本当にこいつは、咲乃を何だと思っているんだ。咲乃も、神谷を相手にしなくていいのにと思う。
「……その画像、どうするの?」
気になったので、一応聞いてみる。……別に他意はない。
「今年がダメなら来年だな。篠原なら、高校行っても目立つだろ。中学時代の篠原なんて貴重な画像、絶対に売れるぜ」
ニシシと悪いことを考えて笑う神谷に、彩美は怒る気にもなれずに、呆れてため息をついた。
「本当に受かるつもりでいるの?」
「当たり前だろ。俺は篠原と一緒の高校に行く。そういう運命なんだよ」
「どこにそんな自信があるんだか」
彩美は、手の中の缶を見ながら、神谷が夏休みに咲乃と勉強していたのを思い出していた。神谷なりに、桜花咲に受かるというのは本気らしい。彩美としては無謀だとは思うが、学校のテストの結果も教えてくれないから、神谷にどのくらい学力がついているのか、いまいちわからなかった。
「私も、桜花咲にしておけばよかったのかな……」
神谷の無謀な強気に影響されたのか、自分でも信じられない言葉が口からこぼれ出た。咲乃以外で桜花咲を受験しようなんて絶対に無謀だと思っていたから、一度も考えたことがなかったのに。もっと早くから勉強していれば、自分も咲乃と同じ学校へ行けたのだろうか。
「本田さんも、桜花咲を受けるのかな」
「それはねーよ。あいつ勉強、全然だめだし」
「……そうなんだ」
稚奈が桜花咲に行くわけではないのだとわかって、少しだけほっとした。たとえ付き合っていたとしても、志望校が別々になることなんて別段珍しい話ではない。それでも、卒業すれば、咲乃と稚奈がばらばらになってしまうことが、無性に彩美を安心させた。
あんなものを見てしまった後でも、まだ自分は篠原咲乃が好きなのだ。
「私、絶対に篠原くんは、本田さんのことが好きなわけないって思ってた。だって、本田さんといる時の篠原くん、幸せそうな感じがぜんぜんしないんだもん。きっと、本田さんと付き合わなきゃ行けない事情があるんだって思ったの。だから私、篠原くんを本田さんから解放してあげたくて。もし何か事情があるなら助けになるから、頼ってほしかったんだ」