いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
「松浦さんって、本当は篠原くんのこと好きでしょ。だって松浦さん、篠原くんに憧れてたもんね?」
彩美の指摘に、世奈は怒りに任せて彩美に掴みかかろうとした。稀々香が世奈の腕を掴んでやめさせると、きつく彩美を睨んだ。
「バカなこと言わないで。あたしたちは稚奈のこと応援してるの。たまに篠原くんと話すことはあっても、稚奈から横取りしようなんて思ってない」
稀々香が、彩美に向かって真っすぐに言い放つ。彩美はきれいに整えられた自身の爪の状態を確認しながら、どうでもよさそうに肩をすくめた。
「応援ねぇ。関口さんたちは本田さんのこと大事にしてるみたいだけど、正直、本田さんって篠原くんの方が大事じゃない?」
「何言ってんの?」
稀々香が顔をしかめると、彩美は憐れむように稀々香を見た。
「だって関口さん、前は本田さんと一緒に帰ってたんでしょ? なのに、今は関口さんひとりで帰ってるじゃん」
「……彼氏と帰るのは普通でしょ」
彩美の言うとおり、稚奈に彼氏ができてから稀々香はひとりで帰っていた。しかし、それを稀々香が不満に思ったことはない。稀々香だって、自分に彼氏が出来たら彼氏と帰りたいものだと納得しているからだ。
「まぁ、普通そっかぁ。私も彼氏が出来たら、友達より、彼氏の方が大事になっちゃうもん」
「アンタと一緒にしないでよ」
当たり前かと、勝手にひとりで納得する彩美に、稀々香が苛立たし気な声を漏らす。彩美は、思い出すように視線を斜め上にあげた。
「でもぉ、最近の本田さん、篠原くんとばっか話してるくない? 関口さんたちといるより、篠原くんといた方が楽しそうだけどぉ?」
彩美は最後に、実生に目を向けた。嫌がらせを受けている稚奈を、これ以上傷つけるようなことをするなと言った実生に。
「私、思うんだけどさ。本田さんってウザくない? 毎日毎日、彼氏の自慢話されんの。私だったら、別れれば良いのにって思っちゃうなぁ。正直、みんな、篠原くんみたいなイケメンな彼氏、羨ましくてしょうがないんだよね。――もしかして嫌がらせって、この中の誰かがやってたりしてない?」
「あたしたちはやってない!」
「そうなんだ? まぁ、あれだけ目立ってたら反感買うのもしょうがないんじゃない? 本田さんに教えてあげれば? 自業自得だねって」
彩美は愛らしく微笑むと、各々怒りに動けないでいる稀々香たちを後にして、教室に戻って行った。残された彼女たちを、野次馬たちが好奇の眼差しで見つめている。
稀々香たちは顔中に不快感をにじませると、自分たちの教室に帰って行った。
*
違和感を突け。神谷に言われたことを頭の中で反芻して、彩美は、その違和感を突くために、ある場所に来ていた。本田稚奈の家だ。
「やっぱり、やるなら直接本人とぶつかるべきだよね」
彩美は、緊張する気持を落ち着けるために、数回深呼吸をすると、意を決して、インターホンに手を伸ばした。インターホンのボタンを押し、呼び鈴が鳴る。長い余韻を残して消えた後、年上の女性の声で応答があった。
『はい、どちら様でしょうか?』
きっと、本田稚奈の母親だ。彩美は、相手に良い印象を与えられるよう、いつもより丁寧に答えた。
「英至中学校の、山口彩美です。稚奈ちゃんいますか?」
『稚奈のお友達ね。今呼んでくるから、待っててね』
しばらく待つと、玄関のドアが開いた。固い表情のまま、警戒した様子の稚奈が現れる。彩美は稚奈に、にこりと微笑んだ。
「こんにちは、本田さん」
「……なんで来たの?」
直球で、遠慮のない言い方だ。歓迎していないことが分かる。
「本田さんと話がしたかったの。……篠原くんのことで」
彩美が笑顔を崩さずに言うと、稚奈の目は明らかに鋭くなった。
「篠原くんのこと? 山口さんと話すことなんてない」
稚奈は苛立ちを隠さずに言うと、キッと鋭く彩美を睨みつけた。
「稀々香ちゃんから聞いたよ。山口さん、稀々香ちゃんたちに酷いこと言ったんでしょ? 嫌がらせしてるのは、稀々香ちゃんたちなんじゃないかって。稀々香ちゃんたちはそんな子たちじゃない! バカにしないで!」
稚奈の言葉に、彩美は肩をすくめた。
「本気にしないでよ、冗談で言ったんだから」
怒りに肩を震わせる稚奈を、彩美は冷めた気持ちで見つめた。稚奈が怒ろうが傷つこうが、咲乃を助けるためであれば、彩美にとってはどうでもいい事だった。
「じゃあ、これも聞いた? 自業自得だって言ったこと」
「は、何のこと?」
「言ってないかぁ。あの子たち、本田さんに甘いもんね」
彩美は、はぁとため息をつくと、真っすぐに稚奈を見つめた。
「あれだけ、篠原くんのことを自慢して見せびらかしてたら、そりゃ反感買うでしょって言ってんの。本田さん見てると、まるで篠原くんは、本田さんを良く見せるための道具みたい。そんなの篠原くんのためにはならない。本田さんに篠原くんは相応しくない!」
息継ぎもせずに一気に言ったせいで、息が切れた。彩美が肩で息をすると、鋭く稚奈を睨みつける。稚奈もまた、彩美を鋭く睨みつけていた。
「篠原くんは、稚奈が好きだから一緒にいるんだよ? だって、稚奈の彼氏だもん」
「嘘!」
彩美が叫ぶ。彩美は信じているのだ。絶対に咲乃は、本田稚奈のことなんて好きではないと。
「だったら、聞いてみたら? 篠原くんに、稚奈のこと好きかどうか。稚奈が言えば、篠原くんはこたえてくれるよ?」
余裕そうに笑う稚奈に、彩美は奥歯を噛み締めた。やっぱり稚奈は、咲乃を縛り付けて、自分の想い通りにしようとしているのだ。
「本田さんが何をして、篠原くんを縛ってるのかわからない。けど、私は絶対に諦めたりなんかしない。どんな手を使ってでも、篠原くんを解放してみせるから!」
絶対に負けない。
彩美が決意を込めてそう宣言すると、稚奈は呆れたように冷めた目をして彩美を見た。
「やってみれば? 篠原くんは稚奈のものだから、山口さんが何をしたってムダに決まってるけどね」
稚奈はそういうと、もう話は済んだとばかりにニコリと笑った。
「稚奈、そろそろお家に戻るね。じゃあね、山口さん」
稚奈はそう言って、家の中に入って行った。残された彩美は、稚奈を引き留めようとしてあげた手をおろした。わかってはいたが、結局話は平行線だ。だが、これで確信が持てた。本田稚奈は、咲乃の何かを縛っているのだと。
「……絶対に、負けないんだから」
呟いて、ぎゅっと拳を握る。
篠原くんを助けるために、私が負けちゃダメだから。
彩美の指摘に、世奈は怒りに任せて彩美に掴みかかろうとした。稀々香が世奈の腕を掴んでやめさせると、きつく彩美を睨んだ。
「バカなこと言わないで。あたしたちは稚奈のこと応援してるの。たまに篠原くんと話すことはあっても、稚奈から横取りしようなんて思ってない」
稀々香が、彩美に向かって真っすぐに言い放つ。彩美はきれいに整えられた自身の爪の状態を確認しながら、どうでもよさそうに肩をすくめた。
「応援ねぇ。関口さんたちは本田さんのこと大事にしてるみたいだけど、正直、本田さんって篠原くんの方が大事じゃない?」
「何言ってんの?」
稀々香が顔をしかめると、彩美は憐れむように稀々香を見た。
「だって関口さん、前は本田さんと一緒に帰ってたんでしょ? なのに、今は関口さんひとりで帰ってるじゃん」
「……彼氏と帰るのは普通でしょ」
彩美の言うとおり、稚奈に彼氏ができてから稀々香はひとりで帰っていた。しかし、それを稀々香が不満に思ったことはない。稀々香だって、自分に彼氏が出来たら彼氏と帰りたいものだと納得しているからだ。
「まぁ、普通そっかぁ。私も彼氏が出来たら、友達より、彼氏の方が大事になっちゃうもん」
「アンタと一緒にしないでよ」
当たり前かと、勝手にひとりで納得する彩美に、稀々香が苛立たし気な声を漏らす。彩美は、思い出すように視線を斜め上にあげた。
「でもぉ、最近の本田さん、篠原くんとばっか話してるくない? 関口さんたちといるより、篠原くんといた方が楽しそうだけどぉ?」
彩美は最後に、実生に目を向けた。嫌がらせを受けている稚奈を、これ以上傷つけるようなことをするなと言った実生に。
「私、思うんだけどさ。本田さんってウザくない? 毎日毎日、彼氏の自慢話されんの。私だったら、別れれば良いのにって思っちゃうなぁ。正直、みんな、篠原くんみたいなイケメンな彼氏、羨ましくてしょうがないんだよね。――もしかして嫌がらせって、この中の誰かがやってたりしてない?」
「あたしたちはやってない!」
「そうなんだ? まぁ、あれだけ目立ってたら反感買うのもしょうがないんじゃない? 本田さんに教えてあげれば? 自業自得だねって」
彩美は愛らしく微笑むと、各々怒りに動けないでいる稀々香たちを後にして、教室に戻って行った。残された彼女たちを、野次馬たちが好奇の眼差しで見つめている。
稀々香たちは顔中に不快感をにじませると、自分たちの教室に帰って行った。
*
違和感を突け。神谷に言われたことを頭の中で反芻して、彩美は、その違和感を突くために、ある場所に来ていた。本田稚奈の家だ。
「やっぱり、やるなら直接本人とぶつかるべきだよね」
彩美は、緊張する気持を落ち着けるために、数回深呼吸をすると、意を決して、インターホンに手を伸ばした。インターホンのボタンを押し、呼び鈴が鳴る。長い余韻を残して消えた後、年上の女性の声で応答があった。
『はい、どちら様でしょうか?』
きっと、本田稚奈の母親だ。彩美は、相手に良い印象を与えられるよう、いつもより丁寧に答えた。
「英至中学校の、山口彩美です。稚奈ちゃんいますか?」
『稚奈のお友達ね。今呼んでくるから、待っててね』
しばらく待つと、玄関のドアが開いた。固い表情のまま、警戒した様子の稚奈が現れる。彩美は稚奈に、にこりと微笑んだ。
「こんにちは、本田さん」
「……なんで来たの?」
直球で、遠慮のない言い方だ。歓迎していないことが分かる。
「本田さんと話がしたかったの。……篠原くんのことで」
彩美が笑顔を崩さずに言うと、稚奈の目は明らかに鋭くなった。
「篠原くんのこと? 山口さんと話すことなんてない」
稚奈は苛立ちを隠さずに言うと、キッと鋭く彩美を睨みつけた。
「稀々香ちゃんから聞いたよ。山口さん、稀々香ちゃんたちに酷いこと言ったんでしょ? 嫌がらせしてるのは、稀々香ちゃんたちなんじゃないかって。稀々香ちゃんたちはそんな子たちじゃない! バカにしないで!」
稚奈の言葉に、彩美は肩をすくめた。
「本気にしないでよ、冗談で言ったんだから」
怒りに肩を震わせる稚奈を、彩美は冷めた気持ちで見つめた。稚奈が怒ろうが傷つこうが、咲乃を助けるためであれば、彩美にとってはどうでもいい事だった。
「じゃあ、これも聞いた? 自業自得だって言ったこと」
「は、何のこと?」
「言ってないかぁ。あの子たち、本田さんに甘いもんね」
彩美は、はぁとため息をつくと、真っすぐに稚奈を見つめた。
「あれだけ、篠原くんのことを自慢して見せびらかしてたら、そりゃ反感買うでしょって言ってんの。本田さん見てると、まるで篠原くんは、本田さんを良く見せるための道具みたい。そんなの篠原くんのためにはならない。本田さんに篠原くんは相応しくない!」
息継ぎもせずに一気に言ったせいで、息が切れた。彩美が肩で息をすると、鋭く稚奈を睨みつける。稚奈もまた、彩美を鋭く睨みつけていた。
「篠原くんは、稚奈が好きだから一緒にいるんだよ? だって、稚奈の彼氏だもん」
「嘘!」
彩美が叫ぶ。彩美は信じているのだ。絶対に咲乃は、本田稚奈のことなんて好きではないと。
「だったら、聞いてみたら? 篠原くんに、稚奈のこと好きかどうか。稚奈が言えば、篠原くんはこたえてくれるよ?」
余裕そうに笑う稚奈に、彩美は奥歯を噛み締めた。やっぱり稚奈は、咲乃を縛り付けて、自分の想い通りにしようとしているのだ。
「本田さんが何をして、篠原くんを縛ってるのかわからない。けど、私は絶対に諦めたりなんかしない。どんな手を使ってでも、篠原くんを解放してみせるから!」
絶対に負けない。
彩美が決意を込めてそう宣言すると、稚奈は呆れたように冷めた目をして彩美を見た。
「やってみれば? 篠原くんは稚奈のものだから、山口さんが何をしたってムダに決まってるけどね」
稚奈はそういうと、もう話は済んだとばかりにニコリと笑った。
「稚奈、そろそろお家に戻るね。じゃあね、山口さん」
稚奈はそう言って、家の中に入って行った。残された彩美は、稚奈を引き留めようとしてあげた手をおろした。わかってはいたが、結局話は平行線だ。だが、これで確信が持てた。本田稚奈は、咲乃の何かを縛っているのだと。
「……絶対に、負けないんだから」
呟いて、ぎゅっと拳を握る。
篠原くんを助けるために、私が負けちゃダメだから。