いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】

ep10 本当の友達になるために

 翌日、テストの結果が届いた。自分のPCからメールの受信箱を開く。今まで、学校からの連絡メールを無視しまくったせいで、受信箱には未読のメールが1000件以上もたまっている。

 わたしはその中から、一番最新のメールをクリックしようとして――手が止まった。手ごたえ的には悪くなかったけど、それでも不安だった。あんなにがんばったのに期待していた結果と違っていたらと思うと、見ない方が幸せなんじゃないかとすら思えてくる。


「そんなに心配しないで。先生だって褒めていたんだよ?」

 いつまでも勇気が出せずに固まっているわたしを、篠原くんが勇気づけてくれた。学校で、わたしのテストの結果が良かったって、増田先生が褒めていたそうだ。

「……そう、ですよね」

 ようやく、決心してメールを開いた。

「え、えっと、英語は……83点!?」

 すごい、はじめての高得点だ!

「国語は、96点! 数学は――」

 80点!

 うそ。これ本当? 宛先間違ってない?

「良かったね、津田さん。全部平均点以上だよ」

 ……うそじゃ、ない? これ、夢じゃない?

「よかった……、ほんとうによかったぁ……」

「がんばったね、津田さん」

 本当に、信じられない。問題は1年生の中期の範囲だけど、今まで生きていてこんな高得点を取ったことはなかった。

「ありがとうございます、篠原くん!」

 わたしなりにテスト勉強を頑張ったのもあるけれど、すべては篠原くんが勉強を見てくれたおかげだ。よかった、篠原くんをガッカリさせなくて。あとで、お母さんにも見せてあげなくちゃ。きっと、今夜の晩御飯は極上ステーキだ。

 わたしが晩御飯に想いを馳せていると、篠原くんがちょんちょんとわたしの肩を叩いた。

「津田さん。テストが終わったら、ご褒美あげるって約束だよね?」


「え、あ、そうでしたね」

 そういえば、そうだった。昨日はちなちゃんと一緒に帰ることになったから、ご褒美の件は後回しになってたけど。

「一体何なんですか、ご褒美って」

 顔がにやけないように、ひきしめる。なんだかんだ、ご褒美という言葉には弱い。

「それは内緒。まずは、外出の準備をしようか」

「外に出るんですか?」

「うん。外に出るよ」

「……」

 やっぱり、ご褒美をもらうのは諦めようかな。





 しぶしぶ、支度をして家を出た。正直、外には出たくない。外は寒いし、人もいるし。インドア派のわたしとしては、極力外出はしたくないのだ。

「あの、どこへ行くんですか?」

「着いてからのお楽しみ」

 さっきからそればっかり。わたし、サプライズ苦手なんだよな。突発的な出来事への対応力とかついてないし。

 溜息を吐いて、篠原くんについていく。

 買い物帰りのおばさんとすれ違って、わたしは思わず目を逸らした。外に出るのは好きじゃない。部屋の中で感じなくていいことを感じてしまうから。誰かとすれ違うたびに、自分がどれだけみじめに生きてるかを思い知らされるから。
 きれいなお姉さんとか、楽しそうに喋っている学生とか、犬の散歩をしているおじいさんとか、会社帰りのサラリーマンとか。なんだかみんな、普通にうまくやっていけてる人たちばかりで、学校に行かずに引きこもっている自分がうしろめたくなる。人の視線が気になる。部屋の中で過ごしていたら、こんな風に誰かと比べずにすむのに。うしろめたさも、自分の容姿も気にしなくていいのに。誰かの言葉に、視線に、態度に、傷付かなくていいのに。自分がどれだけ世間から切り離されているかを実感しなくていいから、部屋にいた方がずっと楽だ。

 10分くらい歩いて、ある家の前にたどりついた。それは、ガレージ付きの二階建ての一軒家だった。

「もしかしてここ、篠原くんの家、ですか?」

「うん。いつか、招待しようと思っていたんだ」

 まさか、篠原くんのおうちに招待されるなんて思ってない。わたしは、自分の身体がこわばるのを感じた。
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