いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
ep88 どちらも大事な友達で
『明日、なるちゃんとお話したい……( *´•ω•`*)』
部屋で勉強をしていると、ちなちゃんからLINEがきた。文面から落ち込んでいる様子が伝わって来たので、わたしは相談に乗るつもりで快く引き受けた。
翌日、待ち合わせにしていた、学校の中庭にやってくると、すでにちなちゃんは、備え付けのベンチに座って待っていた。わたしは、ちなちゃんに駆け足で近寄った。
「ちなちゃーん、おまたせ!」
「なるちゃん、急に呼び出してごめんね?」
「ううん。ちなちゃんと話せて嬉しいよ!」
わたしもちなちゃんの隣に座る。ちなちゃんの怪我の具合や、お互いに軽く近況報告をしたあと、わたしはちなちゃんに話したいこととは何なのかを尋ねた。
「あのね、稚奈、なるちゃんにお願いがあるんだ」
「お願い? なに、ちなちゃん?」
悲しそうな、その上ひどく思い詰めたようなちなちゃんの様子に、わたしはあえて明るい声で聞いた。
5組の友達でも、篠原くんでもなく、わたしにお願いしたいと思ってくれたことが嬉しい。わたしにできることなら、なんでも協力したい。
ちなちゃんは一旦一呼吸を置いてから、しっかりとわたしの目を真正面から見て言った。
「あのね、篠原くんのことなんだけど。ふたりで会ったり、話したりするのはやめてほしいんだ」
「……え」
わたしはてっきり、いやがらせのことで何か助けてほしいことがあるんだと思ってた。ちなちゃんの思いもしなかったお願いに、わたしは混乱して、固まってしまった。
「あ……で……でも……べ、勉強が……」
ようやく言葉を絞り出すと、ちなちゃんは、スカートのすそを握り締め、真剣な顔をして言った。
「急にこんなことをお願いされても、なるちゃん、困るよね。でも、受験勉強をしなきゃいけないからって、相手が篠原くんじゃなきゃいけない理由は、稚奈、ないと思うの。桜花咲を受けるんだったら、おばさんたちにお願いして、塾に通わせてもらえばいいじゃん?」
動揺して上手く喋れないわたしと違って、ちなちゃんの言葉はハキハキとしている。ちなちゃんの気持ちは固まっているのだとわかった。
「……でも……でも……」
なんでもしたいとは思ってたけど、受験のことをいわれるなんて思わなかった。
確かに、勉強したいなら塾に通えばいいとは思うけど、桜花咲受験には、篠原くんの力は絶対に必要だ。篠原くんに頼らずに勉強を続けて合格するなんて、たぶん現実的じゃない。
わたしの脳では明らかにちなちゃんのお願いを拒否しているのに、口が思うように動かなかった。舌や口の周りの筋肉が、がちがちに固くなってしまったみたい。頭の中も真っ白で、伝えるべき言葉が何一つ浮かんで来なかった。心臓がばくばく大きな音を立てる。耳鳴りがする。ちなちゃんのことが大好きなのに、ちなちゃんのお願いを拒否しなければいけないことに抵抗を感じて、全身に冷や汗が滲んだ。
「篠原くんは、なるちゃんのモノじゃないんだよ?」
にこりと、ちなちゃんが笑って言った。
「篠原くんは稚奈の彼氏なんだよ? 親友の彼氏に勉強を見てもらってるって、常識的に考えておかしいよね」
……そうなんだ。篠原くんに勉強を見てもらうのって、「親友の彼氏に勉強をみてもらっている、常識的におかしい」ことになるのか。わたし、ずっと篠原くんは、普通に友達だと思って接してたから、考えもしなかった。
「で、でも……、なんで、急に、こんなこと……」
「だって、言えないよ……! なるちゃんにとっても、篠原くんはお友達だもん! でも、本当はずっと嫌だったんだ。なるちゃんが、篠原くんと連絡取り合ってるの……!!」
ちなちゃんの笑った顔が、みるみるうちに歪んで、泣きそうな顔になる。わたしはその顔を見て、ずっとちなちゃんを我慢させていたんだと知った。
「……篠原くんは、わたしなんかどうとも思ってないよ。普通の友達だと思ってるよ?」
わたしは、ちなちゃんの好きな人を奪ったりしないし、そもそもそんなことが出来る人間じゃない。ちなちゃんも、分かってると思ってた。
「関係ないもん! そんなこと!」
ちなちゃんは、激しく首を振って否定した。
「周りの子たちも言ってたもん! みんなそんなの変だって。普通、他人《ひと》の彼氏に、勉強教わったりしないって!!」
「みんな……?」
わたしは、ちなちゃんの言葉にたじろいだ。みんなに話したって、わたしと篠原くんのことを、話したということなのだろうか。
「ちなちゃん……喋っちゃったの……? わたしたちのこと……」
わたしが恐る恐る聞くと、ちなちゃんは、今度は小さく首を振った。
「なるちゃんや篠原くんのことは、喋ってない。知り合いの子の彼氏の話ってことにしてる」
ちなちゃんはそう言うと、わたしの腕を掴んだ。
「だからお願い、なるちゃん。もう、篠原くんと関わらないで? なるちゃんなら、勉強くらい一人でも出来るよ。みんな、塾行ったり、自力でがんばって勉強してるよ?」
ちなちゃんに腕を揺すられる。わたしは、動揺したまま何も言えずに項垂れていた。ちなちゃんは手の甲で涙を拭うと、「そうだ!」と元気な声をだした。
「なるちゃん、稚奈と一緒の高校行こうよ!」
「えっ」
わたしはびっくりしてちなちゃんを見た。ちなちゃんの顔は悲しそうな表情から一変して、いい考えが思いついたと言うような、キラキラした輝きに満ちている。
「だって、桜花咲を目指すから、篠原くんの力が必要なんでしょう? だったら、ちなと一緒の高校行こうよ!」
「ちなちゃんと一緒の高校……?」
ちなちゃんと一緒の高校に行けたら、きっと楽しい。毎日一緒に登下校して、一緒に勉強して……毎日、一緒にいられたら……。
「篠原くんだって、ずっとなるちゃんのお世話が出来るわけじゃないし、流石に高校まで一緒だと迷惑じゃん?」
めい……わく。
「なるちゃん、ちゃんと考えた方がいいよ。桜花咲とか絶対、無謀だもん。他にも沢山学校あるし、もっとよく考えた方がいいよ!」
無謀……。
「もっと身の丈に合った学校にしなよ。稚奈、なるちゃんのためを思って言ってあげてるんだよ?」
そっか、ちなちゃんにとって、わたしが桜花咲を受けることって無謀なんだ。……そりゃそうか。どう考えたって、わたしじゃ、桜花咲みたいな名門私立校は身の丈に合わないもんね。
「なるちゃん、一緒の学校行こ?」
ちなちゃんと同じ学校に行けたら……きっと楽しい。
「勉強は、稚奈と一緒にやろうよ!」
ちなちゃんは、幼稚園時代からの大切な親友だし。
「篠原くんは稚奈の彼氏なんだよ?」
ちなちゃんには、幸せになってほしいと思うから。
「稚奈の応援してくれるって言ったじゃん?」
でも。
「親友でしょう?」
どうしてちなちゃんは、今まで一度も、同じ高校に行こうって、誘ってくれなかったんだろう……。
「ごめん、ちなちゃん。桜花咲受験だけは、諦められない」
「……なんで……?」
ちなちゃんの顔が、笑顔のまま固まる。わたしは、ちなちゃんに頭を下げて謝った。
「わたし、絶対に桜花咲に受かりたい。でも、わたし一人じゃ、絶対に受からないから、篠原くんと一緒に勉強する事、どうしても今だけは許してほしいんだ。篠原くんはちなちゃんの彼氏だってこと、ちゃんと分かってるから! 好きになったりしないって、本気で約束するから、だから、本当にごめん!」
「なんで? 応援するって、なるちゃん言ってくれたじゃん!」
ちなちゃんはベンチから立ち上がると、怒りのこもった目でわたしを睨み、悲痛な声を上げて怒鳴った。
「もう、なるちゃんなんか親友じゃない! だいっきらい!!」
ちなちゃんが走り去っていく。
わたしはそのまま呆然として、校舎の陰に控えていた新島くんに肩を叩かれるまで、その場から動くことができなかった。
部屋で勉強をしていると、ちなちゃんからLINEがきた。文面から落ち込んでいる様子が伝わって来たので、わたしは相談に乗るつもりで快く引き受けた。
翌日、待ち合わせにしていた、学校の中庭にやってくると、すでにちなちゃんは、備え付けのベンチに座って待っていた。わたしは、ちなちゃんに駆け足で近寄った。
「ちなちゃーん、おまたせ!」
「なるちゃん、急に呼び出してごめんね?」
「ううん。ちなちゃんと話せて嬉しいよ!」
わたしもちなちゃんの隣に座る。ちなちゃんの怪我の具合や、お互いに軽く近況報告をしたあと、わたしはちなちゃんに話したいこととは何なのかを尋ねた。
「あのね、稚奈、なるちゃんにお願いがあるんだ」
「お願い? なに、ちなちゃん?」
悲しそうな、その上ひどく思い詰めたようなちなちゃんの様子に、わたしはあえて明るい声で聞いた。
5組の友達でも、篠原くんでもなく、わたしにお願いしたいと思ってくれたことが嬉しい。わたしにできることなら、なんでも協力したい。
ちなちゃんは一旦一呼吸を置いてから、しっかりとわたしの目を真正面から見て言った。
「あのね、篠原くんのことなんだけど。ふたりで会ったり、話したりするのはやめてほしいんだ」
「……え」
わたしはてっきり、いやがらせのことで何か助けてほしいことがあるんだと思ってた。ちなちゃんの思いもしなかったお願いに、わたしは混乱して、固まってしまった。
「あ……で……でも……べ、勉強が……」
ようやく言葉を絞り出すと、ちなちゃんは、スカートのすそを握り締め、真剣な顔をして言った。
「急にこんなことをお願いされても、なるちゃん、困るよね。でも、受験勉強をしなきゃいけないからって、相手が篠原くんじゃなきゃいけない理由は、稚奈、ないと思うの。桜花咲を受けるんだったら、おばさんたちにお願いして、塾に通わせてもらえばいいじゃん?」
動揺して上手く喋れないわたしと違って、ちなちゃんの言葉はハキハキとしている。ちなちゃんの気持ちは固まっているのだとわかった。
「……でも……でも……」
なんでもしたいとは思ってたけど、受験のことをいわれるなんて思わなかった。
確かに、勉強したいなら塾に通えばいいとは思うけど、桜花咲受験には、篠原くんの力は絶対に必要だ。篠原くんに頼らずに勉強を続けて合格するなんて、たぶん現実的じゃない。
わたしの脳では明らかにちなちゃんのお願いを拒否しているのに、口が思うように動かなかった。舌や口の周りの筋肉が、がちがちに固くなってしまったみたい。頭の中も真っ白で、伝えるべき言葉が何一つ浮かんで来なかった。心臓がばくばく大きな音を立てる。耳鳴りがする。ちなちゃんのことが大好きなのに、ちなちゃんのお願いを拒否しなければいけないことに抵抗を感じて、全身に冷や汗が滲んだ。
「篠原くんは、なるちゃんのモノじゃないんだよ?」
にこりと、ちなちゃんが笑って言った。
「篠原くんは稚奈の彼氏なんだよ? 親友の彼氏に勉強を見てもらってるって、常識的に考えておかしいよね」
……そうなんだ。篠原くんに勉強を見てもらうのって、「親友の彼氏に勉強をみてもらっている、常識的におかしい」ことになるのか。わたし、ずっと篠原くんは、普通に友達だと思って接してたから、考えもしなかった。
「で、でも……、なんで、急に、こんなこと……」
「だって、言えないよ……! なるちゃんにとっても、篠原くんはお友達だもん! でも、本当はずっと嫌だったんだ。なるちゃんが、篠原くんと連絡取り合ってるの……!!」
ちなちゃんの笑った顔が、みるみるうちに歪んで、泣きそうな顔になる。わたしはその顔を見て、ずっとちなちゃんを我慢させていたんだと知った。
「……篠原くんは、わたしなんかどうとも思ってないよ。普通の友達だと思ってるよ?」
わたしは、ちなちゃんの好きな人を奪ったりしないし、そもそもそんなことが出来る人間じゃない。ちなちゃんも、分かってると思ってた。
「関係ないもん! そんなこと!」
ちなちゃんは、激しく首を振って否定した。
「周りの子たちも言ってたもん! みんなそんなの変だって。普通、他人《ひと》の彼氏に、勉強教わったりしないって!!」
「みんな……?」
わたしは、ちなちゃんの言葉にたじろいだ。みんなに話したって、わたしと篠原くんのことを、話したということなのだろうか。
「ちなちゃん……喋っちゃったの……? わたしたちのこと……」
わたしが恐る恐る聞くと、ちなちゃんは、今度は小さく首を振った。
「なるちゃんや篠原くんのことは、喋ってない。知り合いの子の彼氏の話ってことにしてる」
ちなちゃんはそう言うと、わたしの腕を掴んだ。
「だからお願い、なるちゃん。もう、篠原くんと関わらないで? なるちゃんなら、勉強くらい一人でも出来るよ。みんな、塾行ったり、自力でがんばって勉強してるよ?」
ちなちゃんに腕を揺すられる。わたしは、動揺したまま何も言えずに項垂れていた。ちなちゃんは手の甲で涙を拭うと、「そうだ!」と元気な声をだした。
「なるちゃん、稚奈と一緒の高校行こうよ!」
「えっ」
わたしはびっくりしてちなちゃんを見た。ちなちゃんの顔は悲しそうな表情から一変して、いい考えが思いついたと言うような、キラキラした輝きに満ちている。
「だって、桜花咲を目指すから、篠原くんの力が必要なんでしょう? だったら、ちなと一緒の高校行こうよ!」
「ちなちゃんと一緒の高校……?」
ちなちゃんと一緒の高校に行けたら、きっと楽しい。毎日一緒に登下校して、一緒に勉強して……毎日、一緒にいられたら……。
「篠原くんだって、ずっとなるちゃんのお世話が出来るわけじゃないし、流石に高校まで一緒だと迷惑じゃん?」
めい……わく。
「なるちゃん、ちゃんと考えた方がいいよ。桜花咲とか絶対、無謀だもん。他にも沢山学校あるし、もっとよく考えた方がいいよ!」
無謀……。
「もっと身の丈に合った学校にしなよ。稚奈、なるちゃんのためを思って言ってあげてるんだよ?」
そっか、ちなちゃんにとって、わたしが桜花咲を受けることって無謀なんだ。……そりゃそうか。どう考えたって、わたしじゃ、桜花咲みたいな名門私立校は身の丈に合わないもんね。
「なるちゃん、一緒の学校行こ?」
ちなちゃんと同じ学校に行けたら……きっと楽しい。
「勉強は、稚奈と一緒にやろうよ!」
ちなちゃんは、幼稚園時代からの大切な親友だし。
「篠原くんは稚奈の彼氏なんだよ?」
ちなちゃんには、幸せになってほしいと思うから。
「稚奈の応援してくれるって言ったじゃん?」
でも。
「親友でしょう?」
どうしてちなちゃんは、今まで一度も、同じ高校に行こうって、誘ってくれなかったんだろう……。
「ごめん、ちなちゃん。桜花咲受験だけは、諦められない」
「……なんで……?」
ちなちゃんの顔が、笑顔のまま固まる。わたしは、ちなちゃんに頭を下げて謝った。
「わたし、絶対に桜花咲に受かりたい。でも、わたし一人じゃ、絶対に受からないから、篠原くんと一緒に勉強する事、どうしても今だけは許してほしいんだ。篠原くんはちなちゃんの彼氏だってこと、ちゃんと分かってるから! 好きになったりしないって、本気で約束するから、だから、本当にごめん!」
「なんで? 応援するって、なるちゃん言ってくれたじゃん!」
ちなちゃんはベンチから立ち上がると、怒りのこもった目でわたしを睨み、悲痛な声を上げて怒鳴った。
「もう、なるちゃんなんか親友じゃない! だいっきらい!!」
ちなちゃんが走り去っていく。
わたしはそのまま呆然として、校舎の陰に控えていた新島くんに肩を叩かれるまで、その場から動くことができなかった。