いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
「言うわけねーだろ。俺だってやっていい事と悪い事の判断はつくっての」

「……それならいいんだけど。そもそも俺の家、何で知ってるの?」

 教えるも何も、咲乃は初めから神谷には(・・・・)絶対に教えていない。つまり鎌をかけたのだ。しかし、神谷は自信満々に胸をそらした。

「そりゃあ、“マッス”に教えてもらったからに決まってんだろ」

 それを聞いて、咲乃は深くため息をついた。個人情報の取り扱いが厳しくなっているこの時代に、担任の口が軽すぎる。

 手紙の送り主を特定するために、咲乃は神谷から心当たり(・・・・)を数名教えてもらった。咲乃に告白して振られているが、全く諦める気のない女子2名と男子1名、毎回昼休みになると、咲乃に会いに教室までやってくる女子が5名、スマホのホーム画面を咲乃の画像に設定している女子3名と男子が2名、咲乃受けの二次創作を書いている女子が2名、そして、以前、帰りに咲乃の後をつけようとしていた女子が1名。

「それって、神谷が毎回ジュースをおごってもらっている人たちだよね?」

「あぁ。ちょっと拗らせてるけど、いい客なんだよこれが」

 全く悪びれない態度に、咲乃も早々に諦めている。咲乃は気を取り直すと、ゆるゆると首を左右に振った。

「神谷との利害関係がある人は違うと思う」

「なんで?」

「神谷が俺と関わりがある(・・・・・・)からこそ、欲しい情報を手に入れやすくなるのに、わざわざ『関わるな』なんて言わないはずだから」

「確かに」と神谷が顎に手を添えた。

「だとすると、俺が知ってる奴の中にはいねぇな。俺だって、篠原に気があるやつ全員把握してるわけじゃねぇし」

 咲乃の画像やあらゆる情報をばらまいているのは、この学校で神谷だけだったが、全員が全員、神谷と関わりがあるわけでもない。咲乃に気があっても神谷のガサツさを苦手に思う人はたくさんいるし、誰にも知られずに内に秘めておきたい人だっているからだ。そのため、神谷が全て、咲乃の害になりそうな人物を全て把握しているわけではなかった。

 咲乃は空いた机に腰かけると、改めて手紙に目を落とした。

「多分、この手紙をくれた人は、俺たちのクラスメイトなんじゃないかな? 日頃から、俺たちが話しているのをよく見かける人物が送っているはずだし……」

「クラスメイトか」

 神谷は腕を組んだ。

「筆跡で特定できるんじゃねー? 刑事ドラマみてーにさ!」

 神谷は名案だとばかりに、ぱぁっと目を輝かせた。明らかに犯人探しを楽しんでいる。

「筆跡なんて、最初から変えているんじゃないかな。やりたいなら、神谷に任せるけど」

「いや、いい。何か面倒くせーし」

 犯人探しはしたくても、地道な捜査はしたくないようだ。神谷らしい投げやりな答えに、咲乃は苦笑しつつ手紙をブレザーの内ポケットにしまった。

「そろそろ重田もいるだろうし、教室に戻ろうか」
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