いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
「今日は、ご家族は居ないの? 津田さんひとり?」
「ハヒッ!」
「お母さんはいつ頃帰ってくる?」
「オッ、オ、お母さんは、ユ、ユ、ユウ、夕方には、カッ、帰って来ると、思います……」
「この前から思ってたけど、なぜ敬語なの? クラスメイトだし、タメ口でいいよ?」
「コッ、コ、これは、ソノッ。ヒッ、人とは、ハッ、話し、なれていない、せい、デシテ……」
「もしかして、今日来たの、迷惑だった?」
「エッ、ヤ……ソレハ……」
迷惑でしたなんて、本人を前にして言えるわけないだろ。
答えに困って視線をさまよわせるわたしに、篠原くんは不安そうに表情をくもらせた。
「しばらく来なかったこと怒ってる?」
「エッ、ソッ、ソソッ、そんなまさか! キッ、気にしてないですよ!」
気にしてない! 気にしてない! むしろ来ないでほしかった!
「そっか、良かった」
わたしの気持ちも知らずに柔らかく笑った篠原くんのキラキラしい笑顔をまともに見てしまい、わたしは一瞬意識を失いかけた。
カチ、カチ、カチ、カチ……。
……気まずい。もう数分以上も、黙ったままお互いただ座ってるだけの状況が続いている。こんなの耐えられないよ。お部屋に戻りたい。
「しばらく来れなかった理由なんだけどね」
お茶を飲んでいた篠原くんが、ようやく話し始めた。
「突然バスケ部の試合に参加することになってしまって、放課後は毎日練習に参加していたんだ。一言、津田さんに連絡を入れられていればよかったんだけど、連絡先を知らなかったから伝える手段も無くて。帰る時間も遅くなるし、家に行くタイミングも見失ってしまって……。本当に悪かったと思ってるよ。ごめんね」
「……ナル、ホド」
しかも今日がその試合の日で、終わった後すぐに来たのだと説明された。
「どうしても早く謝りたかったんだ。津田さんには変な誤解をしてほしくなかったから」
「……ハァ」
誤解も何も。わたしは篠原くんに「迷惑です」ってはっきり伝えたはずなんだけどなぁ。篠原くんの中で、あれは無かったことにされてるのだろうか。あんなに勇気を出して言ったのに。
ちらっと横目で、となりに座る美少年を改めて盗み見た。普通に話しかけてくれているけど、この人、わたしを見てもなんとも思わないのだろうか。
思春期ニキビだらけのデブを見て、引いてる感じがしないし。やぼったい髪の毛とか、顔に似合わなくてダサい茶色縁のめがねとか、着たおしてシミのついたよれよれの部屋着とか、挙動不審な動きや受け答えとか。もろもろ含めて、嫌われる要素しかないはずだ。人と対面する予定が無かったからとても人に見せられたような格好をしていない。あれ、朝顔洗ったっけ。
麦茶を飲み終わった篠原くんが、ようやくソファーから立ち上がった。
「かっ、帰りますか?」
そっか。じゃあ、支度しないとですね!? 傘なら貸してあげますよ! ジャージは、後日洗って返してくれればいいですから!!
「ううん、まだ帰らないよ」
帰らないの!!!???
「ゲームしようとしていたんでしょう? 俺にも出来そうなゲームってある?」
「……」
穏やかに笑った篠原くんの顔が眩しすぎて、まともに顔が見られない。
「エッ、エット……マリカーなら……」
「俺、やったことないんだ。教えてよ」
「エッ、エッ」
本気か? 本気でわたしと遊ぶつもりなのか? このデブスと?
「デッ、デモ……ソノ……」
「津田さんが嫌でなければ、一緒にゲームして遊ばない?」
篠原くんは、そう言って少しだけ首を傾げて笑った。
*
その後は、歩み寄って一緒にゲームしてくれた篠原くんに対する警戒心を解き、篠原くんからの申し出で一緒に勉強することになった。今でも一緒にいると緊張はするけれど、あの時よりは普通に喋れるようにはなったと思う。
そう言えば、初めて篠原くんをこの部屋に入れた時、あまりの部屋の荒れように篠原くんは絶句していたんだよな。でも今は毎日掃除して、きれいに片付いている。
美少年に、ホコリの溜まった床を歩かせるわけにはいかないからだ。
「津田さん、絵を描くんだね」
ある日篠原くんが、コルクボードに貼った、わたしの好きなアニメキャラのイラストを見て言った。
「……は、はい。ち、小さい頃からの、趣味なんで。た、たいして上手くはないですけど」
「そんなことないよ、すごく上手いと思う」
篠原くんがしゃべりかけてくるのに返答しながら、押し入れから折り畳み式のミニテーブルを出す。2人で教材を広げて使うのには丁度いい大きさだ。
「あ、ごめん、なんか踏んだ。……これって――?」
「えっ? うわああああっ、それはダメ!」
後ろを振り返ると、篠原くんの手に読みかけのBLマンガがあった。慌ててひったくって本棚に収める。
完全に片付けもれてた。ただでさえ、陰キャオタクなのに、B L が好きな腐女子だってことがバレてしまった……。
恐る恐る篠原くんの顔を見ると、篠原くんの顔は怖いくらいの笑顔だった。
「俺は気にしないよ。趣味は人それぞれだものね」
目の奥が笑ってない。……つまり全然大丈夫じゃないんだな。
ミニテーブルを設置して、床にクッションを敷く。これが、わたしたちが勉強するときのスタイルだ。
ちなみにミニテーブルの絵柄は、小さい頃熱中していた魔法少女アニメのキャラクターがプリントされたテーブルだ。小さい頃は、よくこのテーブルで友達とお絵かきをして遊んでいた。
最初篠原くんは、このオタク部屋に居心地悪そうにしていたけれど、最近は慣れてしまったみたいだ。
篠原くんの適応力、高過ぎだろ。わたしは全く篠原くんに慣れないのに、少しはその適応力を分けてほしいと心から思う。
「ハヒッ!」
「お母さんはいつ頃帰ってくる?」
「オッ、オ、お母さんは、ユ、ユ、ユウ、夕方には、カッ、帰って来ると、思います……」
「この前から思ってたけど、なぜ敬語なの? クラスメイトだし、タメ口でいいよ?」
「コッ、コ、これは、ソノッ。ヒッ、人とは、ハッ、話し、なれていない、せい、デシテ……」
「もしかして、今日来たの、迷惑だった?」
「エッ、ヤ……ソレハ……」
迷惑でしたなんて、本人を前にして言えるわけないだろ。
答えに困って視線をさまよわせるわたしに、篠原くんは不安そうに表情をくもらせた。
「しばらく来なかったこと怒ってる?」
「エッ、ソッ、ソソッ、そんなまさか! キッ、気にしてないですよ!」
気にしてない! 気にしてない! むしろ来ないでほしかった!
「そっか、良かった」
わたしの気持ちも知らずに柔らかく笑った篠原くんのキラキラしい笑顔をまともに見てしまい、わたしは一瞬意識を失いかけた。
カチ、カチ、カチ、カチ……。
……気まずい。もう数分以上も、黙ったままお互いただ座ってるだけの状況が続いている。こんなの耐えられないよ。お部屋に戻りたい。
「しばらく来れなかった理由なんだけどね」
お茶を飲んでいた篠原くんが、ようやく話し始めた。
「突然バスケ部の試合に参加することになってしまって、放課後は毎日練習に参加していたんだ。一言、津田さんに連絡を入れられていればよかったんだけど、連絡先を知らなかったから伝える手段も無くて。帰る時間も遅くなるし、家に行くタイミングも見失ってしまって……。本当に悪かったと思ってるよ。ごめんね」
「……ナル、ホド」
しかも今日がその試合の日で、終わった後すぐに来たのだと説明された。
「どうしても早く謝りたかったんだ。津田さんには変な誤解をしてほしくなかったから」
「……ハァ」
誤解も何も。わたしは篠原くんに「迷惑です」ってはっきり伝えたはずなんだけどなぁ。篠原くんの中で、あれは無かったことにされてるのだろうか。あんなに勇気を出して言ったのに。
ちらっと横目で、となりに座る美少年を改めて盗み見た。普通に話しかけてくれているけど、この人、わたしを見てもなんとも思わないのだろうか。
思春期ニキビだらけのデブを見て、引いてる感じがしないし。やぼったい髪の毛とか、顔に似合わなくてダサい茶色縁のめがねとか、着たおしてシミのついたよれよれの部屋着とか、挙動不審な動きや受け答えとか。もろもろ含めて、嫌われる要素しかないはずだ。人と対面する予定が無かったからとても人に見せられたような格好をしていない。あれ、朝顔洗ったっけ。
麦茶を飲み終わった篠原くんが、ようやくソファーから立ち上がった。
「かっ、帰りますか?」
そっか。じゃあ、支度しないとですね!? 傘なら貸してあげますよ! ジャージは、後日洗って返してくれればいいですから!!
「ううん、まだ帰らないよ」
帰らないの!!!???
「ゲームしようとしていたんでしょう? 俺にも出来そうなゲームってある?」
「……」
穏やかに笑った篠原くんの顔が眩しすぎて、まともに顔が見られない。
「エッ、エット……マリカーなら……」
「俺、やったことないんだ。教えてよ」
「エッ、エッ」
本気か? 本気でわたしと遊ぶつもりなのか? このデブスと?
「デッ、デモ……ソノ……」
「津田さんが嫌でなければ、一緒にゲームして遊ばない?」
篠原くんは、そう言って少しだけ首を傾げて笑った。
*
その後は、歩み寄って一緒にゲームしてくれた篠原くんに対する警戒心を解き、篠原くんからの申し出で一緒に勉強することになった。今でも一緒にいると緊張はするけれど、あの時よりは普通に喋れるようにはなったと思う。
そう言えば、初めて篠原くんをこの部屋に入れた時、あまりの部屋の荒れように篠原くんは絶句していたんだよな。でも今は毎日掃除して、きれいに片付いている。
美少年に、ホコリの溜まった床を歩かせるわけにはいかないからだ。
「津田さん、絵を描くんだね」
ある日篠原くんが、コルクボードに貼った、わたしの好きなアニメキャラのイラストを見て言った。
「……は、はい。ち、小さい頃からの、趣味なんで。た、たいして上手くはないですけど」
「そんなことないよ、すごく上手いと思う」
篠原くんがしゃべりかけてくるのに返答しながら、押し入れから折り畳み式のミニテーブルを出す。2人で教材を広げて使うのには丁度いい大きさだ。
「あ、ごめん、なんか踏んだ。……これって――?」
「えっ? うわああああっ、それはダメ!」
後ろを振り返ると、篠原くんの手に読みかけのBLマンガがあった。慌ててひったくって本棚に収める。
完全に片付けもれてた。ただでさえ、陰キャオタクなのに、B L が好きな腐女子だってことがバレてしまった……。
恐る恐る篠原くんの顔を見ると、篠原くんの顔は怖いくらいの笑顔だった。
「俺は気にしないよ。趣味は人それぞれだものね」
目の奥が笑ってない。……つまり全然大丈夫じゃないんだな。
ミニテーブルを設置して、床にクッションを敷く。これが、わたしたちが勉強するときのスタイルだ。
ちなみにミニテーブルの絵柄は、小さい頃熱中していた魔法少女アニメのキャラクターがプリントされたテーブルだ。小さい頃は、よくこのテーブルで友達とお絵かきをして遊んでいた。
最初篠原くんは、このオタク部屋に居心地悪そうにしていたけれど、最近は慣れてしまったみたいだ。
篠原くんの適応力、高過ぎだろ。わたしは全く篠原くんに慣れないのに、少しはその適応力を分けてほしいと心から思う。