いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
ep18 ふたりの約束
今日の家庭科は、班でシチュー作りが行われた。皆が和気あいあいと楽しげに調理している横で、咲乃と同じ班になった女子達は、絶対に失敗してはいけないというプレッシャーで表情をこわばらせている。自分たちが作ったシチューを咲乃も食べるのだ。不味いシチューなど食べさせられるわけがない。
咲乃の班は比較的、料理が出来る女子たちが集まっていたため、そこまで神経質になる必要はないのだが、出来るからこそ余計に失敗できないのだろう。
咲乃は女子たちに言われて大人しくテーブルに座っていたが、あまりにも張り詰めた緊張の中で調理する彼女たちが心配になり、何か手伝おうと立ち上がった。
「俺、野菜でも切ろうか?」
「篠原くんは座ってて!」
気を遣わせないように申し出たつもりが、怖い顔で怒られてしまった。咲乃は曖昧な笑顔を浮かべて大人しく身を引いた。静かに使い終わった調理器具を洗いながら、なるべく自分の存在を消すことにする。
女子たちの頑張りのおかげで、無事にシチューは出来上がった。可もなく不可もない出来栄えに、同じ班の女子たちは不満そうにしていたが、咲乃は無事シチューが出来上がったことに安堵していた。授業で作るシチューなのだから、普通で十分だ。
重たい空気の中、シチューを食している女子たちに、咲乃が「美味しいよ」と微笑んでねぎらうと、彼女たちの機嫌が嘘のように直った。
「神谷くん……。シチューにあるまじきえぐみがすごんだけど……何を入れたの……?」
神谷の班のシチューの出来は良くなかったようだ。興味本位に別の班の者が神谷の班のシチューを味見すると、皆微妙な顔をして戻って行く。
「篠原くん、良ければ私の班のシチュー、少し味見してみない?」
料理の腕を見せつけて相手の胃袋をつかんでやろうと、ここぞとばかりに山口彩美が現れた。長い髪を後ろで束ね、バンダナとレース付きの清楚な白いエプロンを付けた彼女の姿は、男子たちの視線を釘付けにしている。
「料理するの好きだから、今日はちょっと張り切りすぎちゃった。篠原くんのお口に合えば良いんだけど……」
白い頬を赤く染めて、上目遣いで咲乃を見る。どこからかダンッと包丁を突き立てる音が聞こえた。
*
結子の班のシチューはルウと水の分量を間違えてしまったせいで、スープのように水気の多い薄味のシチューになっていた。神谷の班のシチューくらいとびぬけて不味ければ、多少話題になったかもしれない。しかし、結子の班のシチューは食べられなくもないため、微妙に話題にも上がりずらい。
班のみんなも、自分の分を食べ終わるとすぐに他の班の所へ行ってしまい、結子はひとり、黙々と自分が作った班のシチューを食べていた。
「中本さんのところは上手にできた?」
結子は喉にシチューを詰まらせて咳込んだ。慌てて振り向くと、優しく微笑んだ咲乃と目があった。
「ぜ、全然美味しくないよ!」
動揺しているのもあって、慌てて否定した。
「少しだけ貰うね」
「ま、待って!」
咲乃は余っていたスプーンを手に取ると、結子の皿から少しだけシチューをすくい、そのまま口の中にいれた。
結子は驚きのあまり、唖然として咲乃を見つめた。
「ん、美味しいよ? これにコンソメを入れて塩と胡椒で整えたら、クリームスープになりそうだし」
「……篠原くん、お料理詳しいの?」
絶対に美味しくないシチューを咲乃に食べられ、結子が顔を紅くしていると、思わぬ感想におずおずと尋ねた。
「作るのは好きだよ。中本さんは?」
咲乃が微笑んだのを見て、結子は恥ずかしくなって再び視線をそらした。
「……す、少しだけ……。家では、料理のお手伝いしてるし、お休みの日はお菓子作ったりするから……」
「へぇ、中本さんお菓子作るんだ」
落ち着かな気に膝の上で両手をもみながら、結子は小さく頷いた。
咲乃の班は比較的、料理が出来る女子たちが集まっていたため、そこまで神経質になる必要はないのだが、出来るからこそ余計に失敗できないのだろう。
咲乃は女子たちに言われて大人しくテーブルに座っていたが、あまりにも張り詰めた緊張の中で調理する彼女たちが心配になり、何か手伝おうと立ち上がった。
「俺、野菜でも切ろうか?」
「篠原くんは座ってて!」
気を遣わせないように申し出たつもりが、怖い顔で怒られてしまった。咲乃は曖昧な笑顔を浮かべて大人しく身を引いた。静かに使い終わった調理器具を洗いながら、なるべく自分の存在を消すことにする。
女子たちの頑張りのおかげで、無事にシチューは出来上がった。可もなく不可もない出来栄えに、同じ班の女子たちは不満そうにしていたが、咲乃は無事シチューが出来上がったことに安堵していた。授業で作るシチューなのだから、普通で十分だ。
重たい空気の中、シチューを食している女子たちに、咲乃が「美味しいよ」と微笑んでねぎらうと、彼女たちの機嫌が嘘のように直った。
「神谷くん……。シチューにあるまじきえぐみがすごんだけど……何を入れたの……?」
神谷の班のシチューの出来は良くなかったようだ。興味本位に別の班の者が神谷の班のシチューを味見すると、皆微妙な顔をして戻って行く。
「篠原くん、良ければ私の班のシチュー、少し味見してみない?」
料理の腕を見せつけて相手の胃袋をつかんでやろうと、ここぞとばかりに山口彩美が現れた。長い髪を後ろで束ね、バンダナとレース付きの清楚な白いエプロンを付けた彼女の姿は、男子たちの視線を釘付けにしている。
「料理するの好きだから、今日はちょっと張り切りすぎちゃった。篠原くんのお口に合えば良いんだけど……」
白い頬を赤く染めて、上目遣いで咲乃を見る。どこからかダンッと包丁を突き立てる音が聞こえた。
*
結子の班のシチューはルウと水の分量を間違えてしまったせいで、スープのように水気の多い薄味のシチューになっていた。神谷の班のシチューくらいとびぬけて不味ければ、多少話題になったかもしれない。しかし、結子の班のシチューは食べられなくもないため、微妙に話題にも上がりずらい。
班のみんなも、自分の分を食べ終わるとすぐに他の班の所へ行ってしまい、結子はひとり、黙々と自分が作った班のシチューを食べていた。
「中本さんのところは上手にできた?」
結子は喉にシチューを詰まらせて咳込んだ。慌てて振り向くと、優しく微笑んだ咲乃と目があった。
「ぜ、全然美味しくないよ!」
動揺しているのもあって、慌てて否定した。
「少しだけ貰うね」
「ま、待って!」
咲乃は余っていたスプーンを手に取ると、結子の皿から少しだけシチューをすくい、そのまま口の中にいれた。
結子は驚きのあまり、唖然として咲乃を見つめた。
「ん、美味しいよ? これにコンソメを入れて塩と胡椒で整えたら、クリームスープになりそうだし」
「……篠原くん、お料理詳しいの?」
絶対に美味しくないシチューを咲乃に食べられ、結子が顔を紅くしていると、思わぬ感想におずおずと尋ねた。
「作るのは好きだよ。中本さんは?」
咲乃が微笑んだのを見て、結子は恥ずかしくなって再び視線をそらした。
「……す、少しだけ……。家では、料理のお手伝いしてるし、お休みの日はお菓子作ったりするから……」
「へぇ、中本さんお菓子作るんだ」
落ち着かな気に膝の上で両手をもみながら、結子は小さく頷いた。