いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
「家に呼ぶのが嫌なら、今度神谷さんのお店に行ってみようか。あそこのオムライス、すごく美味しいんだって」
「そうですね。俺も一度は行ってみたいです」
咲乃が笑って言うと、雅之は穏やかに微笑んでココアに口を付けた。
「ねぇ、咲乃。何か困っていることはない?」
「困っていること……?」
雅之に尋ねられて、咲乃は不思議そうに首をかしげた。
「いえ、特に無いですね」
「そう。それなら、良いんだけど」
雅之はにこりと微笑み、僅かに残ったココアに視線を落とす。カップをゆっくり廻すと、蛍光灯のあかりを受けてとろりと光るココアを眺めた。
中学生とは思えないほどしっかりしていて、一般の中学生よりも大人びた彼は、ひとりで何でもこなせてしまう。雅之の力を借りなくとも。
でもね、咲乃。
「困ったことがあったら、いつでも僕を頼ってね」
きみはまだ、大人に守られるべき未成年なのだから。
「ありがとうございます、叔父さん。でも、大丈夫です」
そう言って笑った咲乃の表情の中にあるものを、雅之は気付いていた。しかし、それを追求するつもりはない。本当に大事な時に、助けを求めてさえくれればいいのだから。
咲乃の部屋を後にすると、雅之は長い睫毛を伏せた。
あの子には、大事なものが欠落している。それを埋められる日が、いつか来るのだろうか。
*
【超強力!? 好きな人とライバルを離縁させるおまじない!!】
用意するもの:
・離縁させたい相手と、手に入れたい人が映った写真。
・44センチ以上の長さの黒い刺繍糸1本。
手順1:二人が映った写真を「赤い糸は切れ、黒い糸が結ばれる」と唱えながら、何重にも黒い糸で巻き付ける。
手順2:黒い糸を巻いた写真を、4日間、暗くじめじめした場所に放置する。
手順3:4日後、黒い糸を巻き付けた写真を取り出し、「これであなたたちはおしまい」と唱えながらハサミで糸を切る。
※使った写真と意図は、必ず燃やして処分しましょう。あなたの念が溜まった写真と糸を処分せずに放置していると、おまじないをしたあなた自身に良くない影響を与える可能性があります! おまじないの取り扱いには十分に注意して行いましょう!!
――――
ベッドで寝ころがりながら、咲乃は、閲覧していたウェブページを閉じた。この前届いた手紙のことについて調べていたのだ。予想通り、その手紙はあるおまじないを模して送られていた。
糸を咲乃に切らせることは、おまじないとして有効なのかは分からない。だが、重要なのはおまじないの効果ではなく、この手紙がどういう意図で送られてきたかだった。送り主の意図としては、おまじないが本当に効くかどうかなど関係が無かったはず。このような不気味な手紙を送ることで、受け取り側に不安感や恐怖心を抱かせ、神谷と付き合い難くさせることが目的だったのだろう。しかも、糸を切らせた後に、縁切りのおまじないだったことを明かすあたり質が悪い。おまじないの類を信じない人間でも、嫌な気持ちにさせる。
神谷が試合中に倒れたのはたまたまだと分かっていた。咲乃はおまじないを信じるタイプの人間ではない。しかし、バスケにだけは本気だった神谷が、大事な試合の前日に睡眠不足で倒れたという点に違和感を抱いた。
前日に興奮して眠れないことがあったとしても、ゲームメイキングが得意な神谷が、自分の体調を考慮せず試合に出ることなどあるのだろうか。自身のコンディションは自分が一番よくわかっているはずだし、チーム全体のことを考えれば、そんなコンディションで試合に望むべきではないと判断するはず。不完全な体調で試合に出た神谷の判断は彼らしくない。どんなにチームメイトを怒らせても、ヘラヘラしながら出場を辞退して、ベンチから適切な代役を立てるのが彼のやり方だ。
「もしかして、前日に眠れなかったことを隠したかったのか……」
咲乃は小さく呟いた。もし、そうだとしたら、試合前日、神谷に何があったのだろう。
*★*―――――*★*―――――*★*―――――
お読みいただきありがとうございました。
明日11/22
17:30 ep22 きみは優しいひとだから
カクヨム先行公開中です。
先の展開が気になる方は、カクヨムをご覧ください!
【カクヨム】
https://kakuyomu.jp/works/16817330664367241645
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「そうですね。俺も一度は行ってみたいです」
咲乃が笑って言うと、雅之は穏やかに微笑んでココアに口を付けた。
「ねぇ、咲乃。何か困っていることはない?」
「困っていること……?」
雅之に尋ねられて、咲乃は不思議そうに首をかしげた。
「いえ、特に無いですね」
「そう。それなら、良いんだけど」
雅之はにこりと微笑み、僅かに残ったココアに視線を落とす。カップをゆっくり廻すと、蛍光灯のあかりを受けてとろりと光るココアを眺めた。
中学生とは思えないほどしっかりしていて、一般の中学生よりも大人びた彼は、ひとりで何でもこなせてしまう。雅之の力を借りなくとも。
でもね、咲乃。
「困ったことがあったら、いつでも僕を頼ってね」
きみはまだ、大人に守られるべき未成年なのだから。
「ありがとうございます、叔父さん。でも、大丈夫です」
そう言って笑った咲乃の表情の中にあるものを、雅之は気付いていた。しかし、それを追求するつもりはない。本当に大事な時に、助けを求めてさえくれればいいのだから。
咲乃の部屋を後にすると、雅之は長い睫毛を伏せた。
あの子には、大事なものが欠落している。それを埋められる日が、いつか来るのだろうか。
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【超強力!? 好きな人とライバルを離縁させるおまじない!!】
用意するもの:
・離縁させたい相手と、手に入れたい人が映った写真。
・44センチ以上の長さの黒い刺繍糸1本。
手順1:二人が映った写真を「赤い糸は切れ、黒い糸が結ばれる」と唱えながら、何重にも黒い糸で巻き付ける。
手順2:黒い糸を巻いた写真を、4日間、暗くじめじめした場所に放置する。
手順3:4日後、黒い糸を巻き付けた写真を取り出し、「これであなたたちはおしまい」と唱えながらハサミで糸を切る。
※使った写真と意図は、必ず燃やして処分しましょう。あなたの念が溜まった写真と糸を処分せずに放置していると、おまじないをしたあなた自身に良くない影響を与える可能性があります! おまじないの取り扱いには十分に注意して行いましょう!!
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ベッドで寝ころがりながら、咲乃は、閲覧していたウェブページを閉じた。この前届いた手紙のことについて調べていたのだ。予想通り、その手紙はあるおまじないを模して送られていた。
糸を咲乃に切らせることは、おまじないとして有効なのかは分からない。だが、重要なのはおまじないの効果ではなく、この手紙がどういう意図で送られてきたかだった。送り主の意図としては、おまじないが本当に効くかどうかなど関係が無かったはず。このような不気味な手紙を送ることで、受け取り側に不安感や恐怖心を抱かせ、神谷と付き合い難くさせることが目的だったのだろう。しかも、糸を切らせた後に、縁切りのおまじないだったことを明かすあたり質が悪い。おまじないの類を信じない人間でも、嫌な気持ちにさせる。
神谷が試合中に倒れたのはたまたまだと分かっていた。咲乃はおまじないを信じるタイプの人間ではない。しかし、バスケにだけは本気だった神谷が、大事な試合の前日に睡眠不足で倒れたという点に違和感を抱いた。
前日に興奮して眠れないことがあったとしても、ゲームメイキングが得意な神谷が、自分の体調を考慮せず試合に出ることなどあるのだろうか。自身のコンディションは自分が一番よくわかっているはずだし、チーム全体のことを考えれば、そんなコンディションで試合に望むべきではないと判断するはず。不完全な体調で試合に出た神谷の判断は彼らしくない。どんなにチームメイトを怒らせても、ヘラヘラしながら出場を辞退して、ベンチから適切な代役を立てるのが彼のやり方だ。
「もしかして、前日に眠れなかったことを隠したかったのか……」
咲乃は小さく呟いた。もし、そうだとしたら、試合前日、神谷に何があったのだろう。
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お読みいただきありがとうございました。
明日11/22
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【カクヨム】
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