いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
「こんなの、ちょっとした悪ふざけに決まってんだろ。山口だって、本気で悪気があったわけじゃねえよ!」
「じゃあ、試合当日は、一体何を話してたの?」
咲乃が問い詰めると、神谷は観念したように脱力して背中を枕に預けた。
「何つーか……、愚痴? みたいなのに付き合ってたんだよ」
「愚痴?」
咲乃が同じ言葉を繰り返すと、神谷は額を掻いた。
「まぁ、大した話じゃねーけどさ、放っておくのも可哀そうじゃん。けっこう思い詰めてたみたいだったし」
咲乃ははっと短く息を吐いて、椅子の上に腰を下ろした。
神谷は意外に面倒見がいい。それにしても3時間も相手の話を聞いていたのか。
咲乃は取り上げたスマホを神谷に返すと、ひったくるように神谷はスマホを奪い取った。
「他人のスマホ勝手見んじゃねーよ、このメンヘラ!」
「悪かったよ。他人の画像ばらまいて宿題やってもらってるようなやつに、他人のスマホを見ちゃいけないなんて常識があったなんて知らなくてさ」
咲乃は、パイプ椅子の背もたれに背中を預けるようにして座りなおした。
「で、山口さんと何の話をしていたのか、絶対に教えてはくれないんだよね?」
「お前もしつけぇな。何でそんなに気になんだよ」
「心配しているんだよ。神谷が寝不足で試合中怪我するなんて、ありえないでしょう?」
「心配ねぇ?」
神谷は目を細めて、探るように咲乃を見た。
「今日のお前、絶対変だよな?」
「変?」
咲乃が聞き返すと、神谷はうんざりしたように答えた。
「いくら手紙の件があるからって、過敏になりすぎてんじゃねーか?」
咲乃は何も言わず、じっと神谷を睨んだ。神谷も、むすっとした顔で咲乃を睨み返した。
「どうせ、新しい手紙でも来たんだろ? 何書かれたのか知らねーけど、俺はお前のせいで傷つくほど柔じゃねぇから。勝手に責任感じて焦ってんじゃねーよ」
神谷に不満をぶちまけられ、咲乃は一瞬面食らった後、理解した。
確かに焦っていた。自分のせいで、神谷が傷ついたのだと。神谷が怪我をしたのは、手紙の件と何も関係がないとわかっていながら。
「悪かったよ、勝手なことをして」
「わかりゃあいい。次は、水じゃなく菓子をもってこいよな!」
*
結子と咲乃が、自動ドアを抜けて病院を出ると、冷たい風がしなびた落ち葉を拾って、二人の足元を抜き去っていった。
「今日は付き合ってくれてありがとう、中本さん」
咲乃に微笑まれて、結子は顔を伏せ手をもじもじさせた。
「ううん。私も神谷くんのこと心配だったし、私と理央だけで行っても、話すことが無くて気まずくなりそうだったから……」
学校で神谷と話したことのなかった結子は、神谷が少し苦手だった。クラスのムードメーカーで周囲を明るくしてくれる反面、彼の言動の雑さが、結子には合わないと感じていたのだ。
「中本さん、この後、少し時間ある?」
「えっ」
結子が驚いて足を止めると、咲乃は穏やかに笑った。
「少し話そう? このまま帰るのもつまらないしさ」
近くのバーガーショップに入り、店内の一番奥の席に向かい合って座ると、結子は落ち着かない気持ちで、背筋をこわばらせた。緊張のあまり食欲が出ず、せっかく買ったハンバーガーも喉を通りそうもない。
結子は、一緒に買ったコーラを飲んで口の中を潤した。食欲はわかないのに、喉は異常に乾いていた。
「篠原くんも、こう言うの食べるんだね」
結子の想像の中で、咲乃はジャンクフードを取らないイメージがあった。考えてみれば、彼だって普通の中学生なのだからジャンクフードを食べることもあるだろう。しかし、咲乃をどこか遠くの人だと思い込んでいた結子にとっては、ジャンクフードを食べる咲乃というのは、身近に感じられて嬉しくもあった。
「たまにはね。でも、少し量が多いみたい。中本さんも一緒に食べよう?」
咲乃が結子にポテトをお裾分けすると、結子はおずおず一本抜いて齧った。
ポテトくらいならば小さいので、食欲がわかない結子でも負担にはならない。ポテトの塩とサクサク軽い食感に、シュワッと舌の上をはじくコーラを合わせれば、気づくと手が止まらなくなってしまう。物を食べていると安心して、少しだけ心に余裕ができた。
「……神谷くん、元気そうで良かったね」
ポテトの端を小さく齧りながら、結子はつぶやいた。まさか、あの神谷が入院するなんて、全く誰も予想していなかった。それほど彼はパワフルで、病気や怪我とはかけ離れたイメージを持たれていたのだ。
みんなに心配をかけておいて、実際にお見舞いに行くと、当の神谷本人は何事もなかったかのようにけろっとしている。そういう人騒がせなところが、彼らしいと思えた。
「あいつは、何があってもへこたれなさそうだからね」
一番苦労させられているはずの咲乃が苦く笑えば、結子もおかしくなって口元に手を当ててくすくす笑った。
「じゃあ、試合当日は、一体何を話してたの?」
咲乃が問い詰めると、神谷は観念したように脱力して背中を枕に預けた。
「何つーか……、愚痴? みたいなのに付き合ってたんだよ」
「愚痴?」
咲乃が同じ言葉を繰り返すと、神谷は額を掻いた。
「まぁ、大した話じゃねーけどさ、放っておくのも可哀そうじゃん。けっこう思い詰めてたみたいだったし」
咲乃ははっと短く息を吐いて、椅子の上に腰を下ろした。
神谷は意外に面倒見がいい。それにしても3時間も相手の話を聞いていたのか。
咲乃は取り上げたスマホを神谷に返すと、ひったくるように神谷はスマホを奪い取った。
「他人のスマホ勝手見んじゃねーよ、このメンヘラ!」
「悪かったよ。他人の画像ばらまいて宿題やってもらってるようなやつに、他人のスマホを見ちゃいけないなんて常識があったなんて知らなくてさ」
咲乃は、パイプ椅子の背もたれに背中を預けるようにして座りなおした。
「で、山口さんと何の話をしていたのか、絶対に教えてはくれないんだよね?」
「お前もしつけぇな。何でそんなに気になんだよ」
「心配しているんだよ。神谷が寝不足で試合中怪我するなんて、ありえないでしょう?」
「心配ねぇ?」
神谷は目を細めて、探るように咲乃を見た。
「今日のお前、絶対変だよな?」
「変?」
咲乃が聞き返すと、神谷はうんざりしたように答えた。
「いくら手紙の件があるからって、過敏になりすぎてんじゃねーか?」
咲乃は何も言わず、じっと神谷を睨んだ。神谷も、むすっとした顔で咲乃を睨み返した。
「どうせ、新しい手紙でも来たんだろ? 何書かれたのか知らねーけど、俺はお前のせいで傷つくほど柔じゃねぇから。勝手に責任感じて焦ってんじゃねーよ」
神谷に不満をぶちまけられ、咲乃は一瞬面食らった後、理解した。
確かに焦っていた。自分のせいで、神谷が傷ついたのだと。神谷が怪我をしたのは、手紙の件と何も関係がないとわかっていながら。
「悪かったよ、勝手なことをして」
「わかりゃあいい。次は、水じゃなく菓子をもってこいよな!」
*
結子と咲乃が、自動ドアを抜けて病院を出ると、冷たい風がしなびた落ち葉を拾って、二人の足元を抜き去っていった。
「今日は付き合ってくれてありがとう、中本さん」
咲乃に微笑まれて、結子は顔を伏せ手をもじもじさせた。
「ううん。私も神谷くんのこと心配だったし、私と理央だけで行っても、話すことが無くて気まずくなりそうだったから……」
学校で神谷と話したことのなかった結子は、神谷が少し苦手だった。クラスのムードメーカーで周囲を明るくしてくれる反面、彼の言動の雑さが、結子には合わないと感じていたのだ。
「中本さん、この後、少し時間ある?」
「えっ」
結子が驚いて足を止めると、咲乃は穏やかに笑った。
「少し話そう? このまま帰るのもつまらないしさ」
近くのバーガーショップに入り、店内の一番奥の席に向かい合って座ると、結子は落ち着かない気持ちで、背筋をこわばらせた。緊張のあまり食欲が出ず、せっかく買ったハンバーガーも喉を通りそうもない。
結子は、一緒に買ったコーラを飲んで口の中を潤した。食欲はわかないのに、喉は異常に乾いていた。
「篠原くんも、こう言うの食べるんだね」
結子の想像の中で、咲乃はジャンクフードを取らないイメージがあった。考えてみれば、彼だって普通の中学生なのだからジャンクフードを食べることもあるだろう。しかし、咲乃をどこか遠くの人だと思い込んでいた結子にとっては、ジャンクフードを食べる咲乃というのは、身近に感じられて嬉しくもあった。
「たまにはね。でも、少し量が多いみたい。中本さんも一緒に食べよう?」
咲乃が結子にポテトをお裾分けすると、結子はおずおず一本抜いて齧った。
ポテトくらいならば小さいので、食欲がわかない結子でも負担にはならない。ポテトの塩とサクサク軽い食感に、シュワッと舌の上をはじくコーラを合わせれば、気づくと手が止まらなくなってしまう。物を食べていると安心して、少しだけ心に余裕ができた。
「……神谷くん、元気そうで良かったね」
ポテトの端を小さく齧りながら、結子はつぶやいた。まさか、あの神谷が入院するなんて、全く誰も予想していなかった。それほど彼はパワフルで、病気や怪我とはかけ離れたイメージを持たれていたのだ。
みんなに心配をかけておいて、実際にお見舞いに行くと、当の神谷本人は何事もなかったかのようにけろっとしている。そういう人騒がせなところが、彼らしいと思えた。
「あいつは、何があってもへこたれなさそうだからね」
一番苦労させられているはずの咲乃が苦く笑えば、結子もおかしくなって口元に手を当ててくすくす笑った。