いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
ep28 小学生と津田さん
時々、篠原くんの勉強へのストイックさには、心も頭も追いつかなくなる時がある。
ほぼ毎日のように出される課題。夜LINE通話で監視されながらの勉強……。前よりは勉強する習慣がついてきたのは実感としてあるんだけど、たまに頭の使い過ぎで、脳がパンクしかけるときがある。
……あれ……なんでわたし、べんきょう、がんばってるんだっけ。しのはらくんに褒められるのが、うれしかったから? はじめてひとに期待されたから? 苦手だったべんきょうを克服できたのが嬉しかったから?
……なんで、べんきょう、してるんだっけ。ただでさえわたしには問題がたくさんあるのに。
自分のブスさに絶望していて人の視線とか怖いし、人と上手く話せないし、いつか恋愛してみたいけどできる気がしないし、進学とかも3年になったら考えなきゃだし、将来の夢とかなりたい職業とかわかんないし、そもそもわたし、進学した先で普通に学校に通えるのかな。できれば普通に友達つくって、普通の学生生活をおくりたい。
しかし、それらの悩みさえ、わたしには時間の無駄なのだ。数学のxとyの解を求めることに費やさなければいけないのであって、わたし自身の問題なんて二の次で、わたし自身の価値よりもこのxとyの価値の方が高いのだ。このxとyが解けない限り、わたしは篠原くんの友達ではいられない。わたしみたいな何のとりえもない陰キャブスは、篠原くんの友達でいるためには勉強を頑張らないといけないわけで、勉強を頑張るためには、悩み事なんかに割く時間なんかないわけで、その分、勉強して、このxとyの問題の答えを出せるようにならなきゃいけないのだ。
「篠原くん、この問題が解けないわたしに、存在する価値はあるんですかね」
「少し休憩しようか、津田さん」
篠原くんの対応はいつだって早くて正確だ。わたしがストレスでおかしくなりかけているのを察すると、すぐに家の外へ連れ出した。
公園のベンチに座って、篠原くんが奢ってくれた自販機のつぶつぶコーンスープを飲む。甘いクリームスープが、荒んだ心を包み込んでくれるみたい。温かい。
「気持ちは落ち着いた?」
「だいぶ良くなりました……」
外に出て気分転換をしても、もどったらまた勉強だ。今日はこれ以上勉強したくないな。やる気もさっぱりわかないし、頭だって働かない。
「勉強、嫌になった?」
「……すみません」
篠原くんが頑張ってるのに、すごく言いにくいことではあるんだけど。特に最近は推し活してないし、推しのボイスも聞いてない。ゲームもしてない。漫画も読んでないし、同人誌も読んでない。腐向け画像すら検索してない。腐女子から萌えをとったら萎びて死んでしまう。わたしのライフゲージはゼロに近い。
「そっか……」
隣に座った篠原くんは、それだけ言うと、コーンスープを飲んで黙り込んでしまった。
すぐ弱音を吐くから、呆れられているんだろうか。
「次の休日は、気分転換にどこか行こうか」
「……どこかって、どこですか?」
「津田さんは、行きたいところある?」
わたしの行きたいところで、篠原くんが行ける場所なんてあったっけ。そもそもわたしの行動範囲なんて、本屋さんで漫画コーナーを見てまわるか、中古屋さんでゲーム探すか、アニメ系ショップで好きなアニメのグッズを探したり、BLコーナーをうろついたりすることだけ。どう考えても、篠原くんが楽しめるコースではない。
「篠原くんは、どういうところに行きたいですか?」
「図書館」
勉強と読書以外の趣味ないんかな、この人。
「あ、そういえば、隣町に水族館が出来たそうです」
アクアリウムを展示している小規模な水族館で、鮮やかな熱帯魚が鑑賞できるらしい。Xで流れてきた画像では、海底にいるみたいで凄くきれいだった。
「じゃあ、今度のお休みはそこへ行ってみようか」
ふわって笑った篠原くんがまぶしくて思わず目をぱちくりさせてしまう。呆れられているどころか、まさか篠原くんからお出かけに誘われるなんて、なんという友達特権。わたしには身に余るイベントだ。こんなブタが篠原くんの横を歩いていて、通りすがりの女子たちに刺されないだろうか。
そんなことを考えていると、公園の一角でわいわい騒いでいる集団が目に入った。4人の小学生達が固まってポータブルゲームで遊んでいる。
本当は家で遊びたかったのにお母さんに追い出されて、寒い外でゲームやってる感じか。有望なゲーム廃人予備軍が沢山いるな。
「お?」
わたしは少年たちが遊んでいるゲームの音楽に気付いて、コーンスープの空き缶をにぎりしめたまま少年たちの方をじっと見た。
この心震わす音楽とモンスターの叫び声、甲冑のがちゃんがちゃんという音。そして、あの指の動きは――!
ほぼ毎日のように出される課題。夜LINE通話で監視されながらの勉強……。前よりは勉強する習慣がついてきたのは実感としてあるんだけど、たまに頭の使い過ぎで、脳がパンクしかけるときがある。
……あれ……なんでわたし、べんきょう、がんばってるんだっけ。しのはらくんに褒められるのが、うれしかったから? はじめてひとに期待されたから? 苦手だったべんきょうを克服できたのが嬉しかったから?
……なんで、べんきょう、してるんだっけ。ただでさえわたしには問題がたくさんあるのに。
自分のブスさに絶望していて人の視線とか怖いし、人と上手く話せないし、いつか恋愛してみたいけどできる気がしないし、進学とかも3年になったら考えなきゃだし、将来の夢とかなりたい職業とかわかんないし、そもそもわたし、進学した先で普通に学校に通えるのかな。できれば普通に友達つくって、普通の学生生活をおくりたい。
しかし、それらの悩みさえ、わたしには時間の無駄なのだ。数学のxとyの解を求めることに費やさなければいけないのであって、わたし自身の問題なんて二の次で、わたし自身の価値よりもこのxとyの価値の方が高いのだ。このxとyが解けない限り、わたしは篠原くんの友達ではいられない。わたしみたいな何のとりえもない陰キャブスは、篠原くんの友達でいるためには勉強を頑張らないといけないわけで、勉強を頑張るためには、悩み事なんかに割く時間なんかないわけで、その分、勉強して、このxとyの問題の答えを出せるようにならなきゃいけないのだ。
「篠原くん、この問題が解けないわたしに、存在する価値はあるんですかね」
「少し休憩しようか、津田さん」
篠原くんの対応はいつだって早くて正確だ。わたしがストレスでおかしくなりかけているのを察すると、すぐに家の外へ連れ出した。
公園のベンチに座って、篠原くんが奢ってくれた自販機のつぶつぶコーンスープを飲む。甘いクリームスープが、荒んだ心を包み込んでくれるみたい。温かい。
「気持ちは落ち着いた?」
「だいぶ良くなりました……」
外に出て気分転換をしても、もどったらまた勉強だ。今日はこれ以上勉強したくないな。やる気もさっぱりわかないし、頭だって働かない。
「勉強、嫌になった?」
「……すみません」
篠原くんが頑張ってるのに、すごく言いにくいことではあるんだけど。特に最近は推し活してないし、推しのボイスも聞いてない。ゲームもしてない。漫画も読んでないし、同人誌も読んでない。腐向け画像すら検索してない。腐女子から萌えをとったら萎びて死んでしまう。わたしのライフゲージはゼロに近い。
「そっか……」
隣に座った篠原くんは、それだけ言うと、コーンスープを飲んで黙り込んでしまった。
すぐ弱音を吐くから、呆れられているんだろうか。
「次の休日は、気分転換にどこか行こうか」
「……どこかって、どこですか?」
「津田さんは、行きたいところある?」
わたしの行きたいところで、篠原くんが行ける場所なんてあったっけ。そもそもわたしの行動範囲なんて、本屋さんで漫画コーナーを見てまわるか、中古屋さんでゲーム探すか、アニメ系ショップで好きなアニメのグッズを探したり、BLコーナーをうろついたりすることだけ。どう考えても、篠原くんが楽しめるコースではない。
「篠原くんは、どういうところに行きたいですか?」
「図書館」
勉強と読書以外の趣味ないんかな、この人。
「あ、そういえば、隣町に水族館が出来たそうです」
アクアリウムを展示している小規模な水族館で、鮮やかな熱帯魚が鑑賞できるらしい。Xで流れてきた画像では、海底にいるみたいで凄くきれいだった。
「じゃあ、今度のお休みはそこへ行ってみようか」
ふわって笑った篠原くんがまぶしくて思わず目をぱちくりさせてしまう。呆れられているどころか、まさか篠原くんからお出かけに誘われるなんて、なんという友達特権。わたしには身に余るイベントだ。こんなブタが篠原くんの横を歩いていて、通りすがりの女子たちに刺されないだろうか。
そんなことを考えていると、公園の一角でわいわい騒いでいる集団が目に入った。4人の小学生達が固まってポータブルゲームで遊んでいる。
本当は家で遊びたかったのにお母さんに追い出されて、寒い外でゲームやってる感じか。有望なゲーム廃人予備軍が沢山いるな。
「お?」
わたしは少年たちが遊んでいるゲームの音楽に気付いて、コーンスープの空き缶をにぎりしめたまま少年たちの方をじっと見た。
この心震わす音楽とモンスターの叫び声、甲冑のがちゃんがちゃんという音。そして、あの指の動きは――!