いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
 この時のわたしは勉強漬けで頭がおかしくなっていたらしい、普段はクソガキなんかに絶対近づかないのに、聞いたことのあるゲーム音につられて、ふらふら少年達の方へ向かって行ってしまった。少年たちが夢中になってモンスターを狩っているのを、頭の上から画面を覗き見る。

 いいなぁ、新作が出てるってことは知ってたけど、こんなに武器の種類が増えてるんだ。

「何だよこのデブ。俺たちに何の用?」

 クソガキのひとりが、ゲーム画面を覗いているわたしに気付いて胡散臭そうに睨んだ。ぽっちゃりした男の子だけど、おまえもデブの仲間だろうが。

「うっわ、マジでデブじゃん! 何ひとのゲーム見てんだよキモチ悪ぃ!」

 わたしを見たクソガキどもの声がデブデブと大きくなっていく。

 るっせえ! わたしはデブじゃなくて、ぽっちゃりだ。TシャツならMサイズぎりぎり着れるもん!

「アッ……ア……」

 しかし、小心者のわたしはこんな時咄嗟に言葉が出てこない。ふらついた足取りでゆっくりと後退る。

 これだから小学生のガキは嫌いなんだ。人を見た目だけでバカにするんだから。

 デブデブコールに居た堪れないきもちになってきた。今すぐ帰って泣きたい。

「そんなに彼女を悪く言わないであげて?」

 後ろから春風よりも柔らかい声が、小学生たちをたしなめた。驚いて篠原くんを見ると、柔和に笑って小学生達に話しかけている。

 小学生たちは、口をぽかんと開けたまま固まった。篠原くんの美しさは泣く子も喚く子も黙らせるらしい。

「うわぁ、イケメンじゃん!」

 小学生達の意識がデブを忘れてイケメンに集中している。よし、この隙に逃げよう。

「彼女、きみたちと遊びたいみたいなんだ。少しでもいいから混ぜてあげてもらえないかな?」

 篠原くんの言葉に、逃げようとしていた身体が固まった。小学生たちの視線が、またデブに戻っているのを背中で感じる。

「えー、デブと遊びたくねーし」

「そうだよ。おんなはゲーム下手クソだし超デブじゃん。絶対やだ」

 女はゲームが下手クソというのは偏見だし、デブは関係ねえだろうが!

「そんなこと言わないで? 意外と一緒に遊んだら楽しいかもしれないよ。あのこ、ゲームが得意だから、ね?」

 もう良いよ。新作のゲームに目がくらんで、何も考えず迂闊に近づいたわたしが悪いんだから。

 しかし少年達は顔を見合わせて「どうする?」「うーん」等と言って悩んでいた。

「いいよ。俺の貸したげる」

 ひとりの少年が、わたしにゲーム機を差し出した。
 わたしは、驚いたまま少年からゲーム機を受け取ると、操作方法を教えてもらいながら、画面のキャラクターを軽く動かしてみた。従来の操作とほとんど変わってないから、多少の動作は問題ない。後は追加動作を覚えるだけだ。

 初心者が狩りに行くエリアに行って、早速ゲーム感を堪能した。少し操作すると大体操作方法が身に付いて、動きもスムーズになっていく。5分程度でマスターすると、少年たちと一緒にレベルの低いボスで狩りに行った。

「デブやるじゃん! 次ここ行こう! 俺達じゃ強すぎて勝てねんだよ!」

「うん、分かった。しのくん、その防具だと炎耐性弱いから装備変えてください」

「おっけー」

「あきらくんは大剣より双剣向きだと思います。試しに双剣に変えてみてはどうでようか」

「でも大剣の方が強えーしカッコイイじゃん!」

「大剣の一撃は確かに強いけど、あきらくんせっかちだから双剣の方がやりやすいと思いますよ。動きも早いから、ダメージを受けにくいでしょうし。双剣もカッコイイ武器沢山ありますから」

「えー、そうかぁ?」

 先ほどまでわたしをデブだと馬鹿にしていた小学生達は、わたしが思ったより使えると分かった瞬間、仲間として好意的に見てくれるようになった。
 皆でわいわいゲームをして遊ぶ。ゲームを貸してくれたあつしくんはわたしの横に座ってひたすらゲーム画面を眺めていた。

「おねえちゃん、うまいね! もしかして、ゲーマー? 配信やってる?」

「やってないですよ。あつしくんそろそろ変わります? やりたいですよね?」

「ううん、いい! 欲しい素材あるから取ってよ!」

「了解です」

 楽しい。こんなに沢山の人と一緒にゲームやったの初めてだ。

 そろそろ帰らなきゃと言うと、小学生達は「えぇー」と残念そうな声を上げてくれた。

「デブ、また一緒に遊ぼうね」

「またなー、デブー」

 小学生たちが手を振ってくれる。仲良くなったんだから、デブって呼ぶのやめてくれない?

「すみません、篠原くん。お待たせしちゃって……」

 小学生と40分も遊んでしまった。その間待ってる篠原くんは、退屈だっただろう。

「ううん。みんな楽しそうでよかったよ」

 篠原くんは全く気にしていないというように、微笑んだ。

 篠原くんに気をつかわせてしまった。篠原くんだって、こんなことに時間を使うためにわたしの勉強を見てるわけじゃないのに。

 夕方までにはまだ時間がある。休憩は十分できたし。

「篠原くん、よければあと30分だけ、勉強の続きしませんか?」

 わたしが篠原くんに提案すると、篠原くんは少しだけ驚いた顔をして、ふわっと花が咲くように笑った。
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