いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】

ep30 きみはわたしの友達だから

 今日は勉強会の予定だったけど、篠原くんに会いたくなくて休ませてもらった。今まで好きでもない勉強を無理して頑張ってきた反動か、なにもやる気なんか起きなくて起き抜けからゲームをして過ごした。

 学校帰りに、ちなちゃんが遊びに来てくれた。ちなちゃんを部屋に案内すると、ちなちゃんは物珍し気にきょろきょろと部屋の中を見回した。

「なるちゃんの部屋、随分印象変わったね?!」

「ちなちゃんが部屋の中にきたの、小学生以来だもんね」

 そういえば、オタク部屋と化したわたしの部屋にちなちゃんを入れるのは初めてだった。
 わたしは苦笑いしつつ、二人分の飲み物をミニテーブルの上に出した。

「ねぇなるちゃん、今日は篠原くん来ないの?」

「……えっと……今日は来ない……」

 ちなちゃんにとっては、何の悪気なく聞いただけだったと思うけど、動揺したわたしは一瞬、なんて答えたらいいのかわからなくて言葉がつっかえてしまった。

「そうなんだぁ。この前のお菓子作りすごく楽しかったから、またやろうねって言いたかったのに」

「そ、そうだね。またみんなでやりたいね」

 無邪気に笑うちなちゃんを見ていたら、なんだか申し訳ない気持ちになってくる。篠原くんと喧嘩したことを言うべきか迷ったけど、またみんなで遊ぶのを楽しみにしているちなちゃんに黙っておくのも申し訳なくて、わたしは正直に話した。

「そんなことがあったんだぁ」

 ちなちゃんは、くりくりした目に悲しさをにじませた。

「なるちゃんは悪くないよ。だって、勝手に話進められちゃったら、誰だって嫌だもん!」

「そ、そうかな……?」

「うん、そうだよ! 篠原くんって、ちょっと意地悪だよね!」

 怒ったようにぷっくり頬を膨らませて言うちなちゃんに、わたしは苦く笑いながら頷いた。

「稚奈も篠原くんにレポート手伝ってもらった時酷かったもん! 『あと10分でこれができないと帰る』とか言ってすぐ急かしてくるし、出来たレポート見せた時も『AIに書いてもらった方がこれより上手く書けるけど、そんなことしたら本田さん(ちな)が書いたんじゃないってすぐにバレるから、これでいいんじゃない?』とか、言うんだよ!? 本当に意地悪!!」

 ちなちゃんは怒ったようにテーブルをぱんぱん叩いた。よっぽど、篠原くんに言われたことが悔しかったらしい。

「そんなことがあったんだ。ちなちゃん、本当によく頑張ったね……」

 篠原くん、ナチュラルにそういうところあるんだよな。最初は歩み寄ってくれてると思ってたのに、気づいたら篠原くんのペースで歩かされてた、みたいなこと。

 篠原くん、自分がなんでも簡単に出来ちゃうからって、誰でも同じように出来ると思ってるところ、直した方がいいと思うよ。あと、にこにこ笑って毒吐くのも良くないと思う。こっちはちゃんと傷ついてるから。

 ちなちゃんと篠原くんの話をしていたら、ちょっとだけすっきりしてきた。ちなちゃんに話せて良かったな。いじめられていた時は、誰にも相談できなくて辛かったから。

「じゃあ、なるちゃん、篠原くんともう会わないの?」

 ちなちゃんに心配そうに聞かれて、わたしは困った顔で笑った。

「うーん。今は、あまり会いたくないかな……」

 あれから、篠原くんから来るLINEは無視しちゃってるし、今顔を会わせても気まずいだけだ。






 翌日、わたしは珍しく、ひとりで外出していた。10分程度のスーパーでお菓子を買うつもりだった。もぐもぐ果汁グミとチョコレートは、部屋に常備しておきたい。せっかくだからポテチのサワークリーム味も買っちゃお。
 目的の商品を買ってスーパーから出ると、意外な人物と目が合った。

「成海ちゃん、久しぶりだね!」

 篠原くんの叔父さんがキラキラした笑顔でこちらに近づいてくる。篠原くんのことを避けている分、今、おじさんに会うのは気まずい。

「こ、こんにちはー……」

「こんにちは、成海ちゃん。お買い物?」

「はい」

 おじさんが目を細めて柔らかく笑う。篠原くんとはまた雰囲気の違った、暖かくて素敵な笑顔だ。

「僕も今日はオフなんだ。たまには外に出ないと健康に悪いからね」

 篠原くんの叔父さんは日本で数少ない独立時計師として機械式腕時計を作っている。普段自宅で作業していることが多いから、たまの休みはこうしてぶらぶら街を散歩するらしい。
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