いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
「成海ちゃん、せっかくだから今日うちで夕飯を食べにおいでよ。いつも咲乃がお邪魔しっぱなしじゃ申し訳ないから、時々は来てくれなきゃ」
「えっ、でも、こっちのほうがお世話になってるので、これ以上甘えると申し訳ないですよ!」
篠原くんに勉強を教わっているのはわたしの方なのに、これ以上お礼を貰っちゃったら返すものが無くなってしまう。
「いいの、いいの。これもお礼の一環として受け取ってほしいんだ。咲乃だって、きっと喜ぶからさ」
ほんわか何の曇りもない穏やかなおじさんの顔を見て、わたしは思わずあはは……と空笑いが出た。篠原くんと喧嘩してるから行きたくない、なんて言えない。
成り行きで篠原くんのおじさんと自宅までの帰り道を一緒に歩くことになった。
おじさんはとてもいい人で、話下手のわたしに沢山話しかけてくれるから、すごく助かる。口調が穏やかで、微笑みを絶やさないところは篠原くんに似てるけど、おじさんは人懐っこくて、子供のわたしでも気負いさせない雰囲気があった。すごく暖かい人なんだな、と思う。穏やかに笑うけど、どこか冷たい雰囲気のある篠原くんとは真逆だ。
「そう言えば成海ちゃん。最近、咲乃の元気が無いようなんだけど、何か知らないかな?」
「えっ!」
心臓が飛び上がった。返答に困って目を泳がせていると、おじさんは考えるように空を見上げた。
「表情からは落ち込んでるようには見えないんだけど。でも、なんとなくそうなんじゃないかと思ってね」
「そうなんですかぁ……? いやぁ、何があったんでしょうかねー……」
篠原くんと別室登校のことで喧嘩したなんて、絶対に言えないよ!
「水族館へ行く時はあんなに楽しそうだったのに、帰ってから元気が無いみたいでね。成海ちゃんが何か知ってるかもと思ったんだけど……」
「本当に知らない?」と長身をかがめて、にっこりとわたしの顔を覗き込んでくるおじさんは、明らかにわたしが関係していると確信している。
さすが篠原くんの叔父さんだ。とぼけたふりしてしっかり退路を塞いでいく。
「いや……その……実は――」
わたしは観念して、篠原くんの叔父さんに全部話した。
「そっかあ。それは申し訳無かったね」
「いえいえ! おじさんのせいじゃないですよ!」
申し訳なさそうに謝ってくれるおじさんに、わたしは慌てて両手を振った。無関係なおじさんに謝られてしまうと、逆に申し訳なく思ってしまう。
「咲乃は時々、鋭すぎるくらいに合理的なところがあるからなぁ。結果を重視しすぎて、成海ちゃんの気持ちを置いてっちゃったのかもね」
おじさんは眉尻を下げて微笑むと、困ったように人差し指で頬を掻いた。
「スクールカウンセラーの先生を頼ろうとしたことは、正しい事だとは思うけど、やり方が不味かったね」
のほほんと言うおじさんの言葉に、わたしは複雑な気持ちを抱いた。篠原くんが、わたしのために考えてしてくれたことだっていうのは分かってる。でも、それをありがたく受け取れる余裕は、わたしにはない。ありがたさよりも、恐怖の方が勝ってしまうから。
わたしは弱い。篠原くんの厚意に応えられるような器の広さもない。
「やっぱりわたしと居たって、篠原くんの時間を無駄にしているだけなんじゃないかな……」
篠原くんがわたしに、時間や労力を割く必要は、本当にあるのだろうか。少なくても、篠原くんには何のメリットもない。前の学校でいじめられていた子への後悔があったから、不登校のわたしに付き合ってくれているんだっていうのはわかっているけど……。
わたしはおしゃべりが苦手だし、篠原くんとは趣味だって合わない。友達として一緒にいても退屈なはずだ。学校復帰する気もない。何の目標も未来も持っていない不登校と関わったところで、本当に篠原くんのためになるんだろうか。無駄な時間を浪費しているだけじゃないか、などと思ってしまう。
険しい顔で黙り込んだわたしを見て、おじさんは困ったように笑った。
「成海ちゃんは、けして咲乃の無駄ではないと思うよ?」
「……え……?」
「だって、こうして成海ちゃんと話しているの、僕は楽しいもの」
「えっ、でも、こっちのほうがお世話になってるので、これ以上甘えると申し訳ないですよ!」
篠原くんに勉強を教わっているのはわたしの方なのに、これ以上お礼を貰っちゃったら返すものが無くなってしまう。
「いいの、いいの。これもお礼の一環として受け取ってほしいんだ。咲乃だって、きっと喜ぶからさ」
ほんわか何の曇りもない穏やかなおじさんの顔を見て、わたしは思わずあはは……と空笑いが出た。篠原くんと喧嘩してるから行きたくない、なんて言えない。
成り行きで篠原くんのおじさんと自宅までの帰り道を一緒に歩くことになった。
おじさんはとてもいい人で、話下手のわたしに沢山話しかけてくれるから、すごく助かる。口調が穏やかで、微笑みを絶やさないところは篠原くんに似てるけど、おじさんは人懐っこくて、子供のわたしでも気負いさせない雰囲気があった。すごく暖かい人なんだな、と思う。穏やかに笑うけど、どこか冷たい雰囲気のある篠原くんとは真逆だ。
「そう言えば成海ちゃん。最近、咲乃の元気が無いようなんだけど、何か知らないかな?」
「えっ!」
心臓が飛び上がった。返答に困って目を泳がせていると、おじさんは考えるように空を見上げた。
「表情からは落ち込んでるようには見えないんだけど。でも、なんとなくそうなんじゃないかと思ってね」
「そうなんですかぁ……? いやぁ、何があったんでしょうかねー……」
篠原くんと別室登校のことで喧嘩したなんて、絶対に言えないよ!
「水族館へ行く時はあんなに楽しそうだったのに、帰ってから元気が無いみたいでね。成海ちゃんが何か知ってるかもと思ったんだけど……」
「本当に知らない?」と長身をかがめて、にっこりとわたしの顔を覗き込んでくるおじさんは、明らかにわたしが関係していると確信している。
さすが篠原くんの叔父さんだ。とぼけたふりしてしっかり退路を塞いでいく。
「いや……その……実は――」
わたしは観念して、篠原くんの叔父さんに全部話した。
「そっかあ。それは申し訳無かったね」
「いえいえ! おじさんのせいじゃないですよ!」
申し訳なさそうに謝ってくれるおじさんに、わたしは慌てて両手を振った。無関係なおじさんに謝られてしまうと、逆に申し訳なく思ってしまう。
「咲乃は時々、鋭すぎるくらいに合理的なところがあるからなぁ。結果を重視しすぎて、成海ちゃんの気持ちを置いてっちゃったのかもね」
おじさんは眉尻を下げて微笑むと、困ったように人差し指で頬を掻いた。
「スクールカウンセラーの先生を頼ろうとしたことは、正しい事だとは思うけど、やり方が不味かったね」
のほほんと言うおじさんの言葉に、わたしは複雑な気持ちを抱いた。篠原くんが、わたしのために考えてしてくれたことだっていうのは分かってる。でも、それをありがたく受け取れる余裕は、わたしにはない。ありがたさよりも、恐怖の方が勝ってしまうから。
わたしは弱い。篠原くんの厚意に応えられるような器の広さもない。
「やっぱりわたしと居たって、篠原くんの時間を無駄にしているだけなんじゃないかな……」
篠原くんがわたしに、時間や労力を割く必要は、本当にあるのだろうか。少なくても、篠原くんには何のメリットもない。前の学校でいじめられていた子への後悔があったから、不登校のわたしに付き合ってくれているんだっていうのはわかっているけど……。
わたしはおしゃべりが苦手だし、篠原くんとは趣味だって合わない。友達として一緒にいても退屈なはずだ。学校復帰する気もない。何の目標も未来も持っていない不登校と関わったところで、本当に篠原くんのためになるんだろうか。無駄な時間を浪費しているだけじゃないか、などと思ってしまう。
険しい顔で黙り込んだわたしを見て、おじさんは困ったように笑った。
「成海ちゃんは、けして咲乃の無駄ではないと思うよ?」
「……え……?」
「だって、こうして成海ちゃんと話しているの、僕は楽しいもの」