いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
 既に勉強を始めて黙々とペンを動かしている篠原くんに、遠慮がちに声をかける。篠原くんは視線を問題集に落としたまま答えた。

「別にないよ」

「ちなちゃんが、みんなでクリスマスパーティしようって誘ってくれているんです。篠原くんも行きますよね?」

 行きませんか? ではない。これは決定事項だ。篠原くんにも、冬休みを楽しんでもらいたいのだ。わたしのために。

「どこでするの?」

「ちなちゃんの家です。プレゼント交換もします」

「メンバーは?」

「多分、わたしたちだけだと思いますけど……」

 あれ? その辺ちゃんと聞いてなかったな。「みんなで」って言ってたけど、ちなちゃん友達多いし、もしかするとわたしと篠原くんだけではないのかも。今更そんなことに思い当たって不安に感じていると、篠原くんは特に興味なさげに首を振った。

「俺は良いよ。そういうの面倒だから」

「そ、そうですか……」

 本当に? 篠原くん、本当にクリスマスパーティ行かないの? せっかくちなちゃんが誘ってくれたのに。他の子が来るなら、わたしだってパーティには参加しずらい。その辺、あとでちゃんと確認しておかなきゃ。


 わたしも勉強しよ。

 カリカリカリカリ……。黙って、ペンを動かす。

 あれ、なんだろう。視界がぼやけてる。さっきから鼻水とまらないな。目の周りが熱い。ぬぐってもぬぐっても視界はぼやけたままだし、なんでだろ。

「津田さん、なんで泣いてるの?」

「ウッ、ヒグッ、べ、べつに、なんでもないでず……グズッ」

 お゛や゛す゛み゛ほ゛し゛ぃ゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ……。





 篠原くんから、勉強のお休みをもらった。今日はずっと見たかったアニメをみるんだ。

「あれ、篠原くん。来たんですか?」

 せっかくの勉強休みなんだから、篠原くんも自由に過ごせばいいのに。

「あれから、津田さん大丈夫かなって」

 ふんわり曖昧な顔で笑った篠原くんの顔を見て、はてと首をかしげる。何が大丈夫なんだろうか。

「今日は一日、ずっと見たかったアニメを観ようと思っているんです。篠原くんも観ませんか?」

「うん。暇だから、ご一緒させてもらおうかな」

 これは、篠原くんをアニメ沼に引きずり込むチャンスだ。




 篠原くんをアニメ沼に引きずりこもうと思って選んだのは、今年流行った少年漫画が原作のアニメだ。

 様々な任務をこなしながら敵のスパイと戦う、異能×スパイ×学園ものの作品で、神作画と熱い展開で人気がある。もともとわたしは、WEBマンガで読んでたから先の展開は知っているんだけど、アニメ化とあってはやっぱりワクワクするものだ。

「はぁっ……浅田くんの声、主人公にぴったり……!」

 主人公の声がそのまんますぎてすごくいい! 今まで浅田くんって脇役のキャラの声を当てることが多かったから、今回初の主人公役なんだよなぁ。感慨深いなぁ。

「あっ、この人確か死んじゃうんですよ! はじめてマンガ読んだ時、活躍しそうだなって思ってたのに、すぐに死んじゃってびっくりしたんです!」

「津田さん、先の展開を言うのはマナー違反だよ」

「すみません、ついテンション上がっちゃって」

 1話目からすっかりアニメに夢中になっているわたしとは対照的に、篠原くんは適当に相槌を打ちながら、それでも黙って観てくれている。元々小説を読んだり、映画を観ること自体は好きらしいし、何だかんだ楽しんでいるようだ。

「アニメのミシマくん……きゃわ……」

 主人公のライバルポジションである未志麻遥(ミシマ ハルカ)くん。原作の時からの推しだけど、動いて喋ってるミシマくんが最高に可愛い。

 ミシマくんは、家柄も才能もある天才と呼ばれる秀才で、クールで頭脳派。最初は、養成学校で一番劣っていた主人公を眼中にも入れて無かったのに、強く成長していく主人公を徐々に意識し始める。ビジュアルがよくて女の子にモテる上に、既にプロとして活動するほどの実力の持ち主だ。でも実は過去にトラウマを持っていて、常に周囲の人間と距離を置いている。誰にも心を開かず、主人公にも冷たく突き放す感じだったのだが、だんだん主人公にも心を開いてきて、主人公の良き理解者になっていくのだ。

 ミシマくんのグッズ出たら絶対買おう。あと、ミシマくんと主人公カプの二次創作も漁ろう。

「津田さんって、ほんとうにこういうの好きだよね」

「えっ、可愛くないですか? ミシマくん!」

 冷めた様子の篠原くんにびっくりしてしまう。確かにまだ序盤で、どんなキャラかわかってないのもあるかもだけど。
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