いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
 急いで頭を下げて、その場から逃げ出した。恥ずかしさのあまり、叫びたくなった。

 早くここから逃げ出したい。篠原くんの前から消えてしまいたい。篠原くんの視界から消えるんだ。わたしは、篠原くんとは関係のない人間なんだから。

 目の前が涙で滲んだ。

 地面が大きく揺れる。ガラガラと大きな音を立てて足元が崩れた。

 ――落ちる。



「こら、津田さん。課題の途中で居眠りしちゃダメでしょ?」

 日高先生が、困った顔でわたしを見ていた。

「ご、……ごめんなさい」

 やっべ、机によだれついた。

 急いでティッシュで机を拭く。相談室で課題をやっている途中で眠ってしまったらしい。
 さっきの夢、なんだかすごくリアルな夢だったな。

「篠原、パス!」

 どこからか篠原くんの名前を呼ぶ声がした。相談室の窓から校庭が見える。ジャージ姿の男子生徒たちがサッカーをしている。目を凝らすと、その中に篠原くんの姿があった。

 篠原くんは男子からボールを受け取ると、ガードをうまく振り切ってゴールまで走った。
 篠原くんがゴールに近づくにつれて、校庭中の歓声が高まる。篠原くんがゴールを決めると、一際大きな歓声が上がった。

 チームメイトと篠原くんが互いにハイタッチしている。試合が終わって篠原くんがコートから外れると、待機していた女子たちが一斉に駆け寄った。

 良かった、篠原くん。寂しそうじゃない。

 現実の篠原くんは、みんなに囲まれている中で、とても楽しそうにしている。そんな篠原くんを見て、わたしはホッとした。

「すごいなぁ、篠原くんって」

 ついつい、手に汗握って魅入ってしまった。

「そうねぇ。篠原くん、かっこよかったわね」

 いままで、勉強を教えてくれる時の篠原くんしか知らなかったから、学校での篠原くんを見たのは初めてだ。

 みんなに囲まれて笑っている篠原くんを眺めて思う。篠原くんはやっぱり、別世界の人なんだと。

 中学を卒業したら疎遠になって、友達ではなくなっちゃうんだろうな。でも、わたしはそれでもいい気がする。寂しい気もするけれど、そもそも篠原くんとわたしは違いすぎるし、たまたま(・・・・)わたしが引きこもってたから出会えただけで、そういうものだって納得してまえる。

 だったらせめて、篠原くんに「無駄な時間だった」なんて思わせたくないな。

 わたしは椅子に座りなおして、再び解きかけのプリントに向かった。

 いつまでも、篠原くんのお世話になっていられない。いつかは、わたしも篠原くんから卒業して、ちゃんと自分の人生を生きられるようにならなきゃいけないんだ。

 頭の中で、前に日高先生が言った言葉を思い出す。

 ”なりたい自分”。

 わたしがなりたい自分が何なのかはわからないけど、ならなきゃいけない自分ならわかっている。それは、篠原くんがいなくなっても、わたしひとりでもちゃんと生きていけるくらい、強い人になることだ。そんなの、今の自分と違いすぎて、とてもなれそうな気がしないけど、それでも。

 わたしは、強い自分にならなくちゃ。
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