いじめられ少女が腹黒優等生の一軍男子に溺愛されるまでの青春ラブストーリー【高嶺の君とキズナを紡ぐ】
 学校は行かなくても勉強だけはしておいた方がいいと、篠原くんからの提案で、わたしは篠原くんに勉強を教わることになった。

「……ど、どうぞ、汚いところですが……」

「お邪魔します」

 はじめてわたしの部屋に入った篠原くんは、物珍しそうに部屋の中を見回した。
 前日に大掃除したから、多少は片付いたとはいえ、本棚にはいっぱいのマンガやゲーム、キーホルダーやクリアファイル等のアニメグッズや、アニメのポスターが飾られている。わたしの部屋は、世に言う典型的なオタク部屋だ。

「津田さん、絵、描くんだね」

 コルクボードに貼ったイラストを見て、篠原くんが言った。

「……は、はい。ち、小さい頃からの、趣味なんで。た、たいして上手くないですけど」

「そんなことないよ、すごく上手いと思う」

 篠原くんが気を使ってしゃべりかけてくるのに返答しながら、押し入れから折り畳み式のミニテーブルを出す。2人で教材を広げて使うのには丁度いい大きさだ。

「あ、ごめん、なんか踏んだ。……これって――?」

「えっ? うわああああっ、それはダメ!」

 後ろを振り返ると、篠原くんの手に読みかけのBLマンガがあった。慌ててひったくって本棚に収める。

 完全に片付けもれてた。しかもよりによって、めちゃくちゃ濡れ場の多い作品を……。
 絶対に引かれた。絶対に引かれた。篠原くんに、絶対に引かれた。

 恐る恐る篠原くんの顔を見ると、篠原くんの顔は怖いくらいの笑顔だった。

「俺は気にしないよ。趣味は人それぞれだものね」



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 目の奥が笑ってない。……つまり全然大丈夫じゃないんだな。

 ミニテーブルを設置して、床にクッションを敷く。ちなみにミニテーブルの絵柄は、小さい頃熱中していた魔法少女アニメのキャラクターがプリントされたテーブルだ。小さい頃は、よくこのテーブルでお絵かきとかしてたなぁ。

「これでやるの?」

「これしかないので……」

 篠原くんは不自然な笑顔を崩さずに、ミニテーブルを見下ろしている。完全にカルチャーショック受けてる顔だった。




「津田さん、ここ違うよ」

「エッ、エッ、アッ……」

「この問題は、ここの数字を代入して――」

 勉強を始めたは良いものの、対面に座った篠原くんとの距離が近すぎて、全っ然落ち着かない。なんかいい匂いするし、まつげの長いし、肌のきめ細やかさとかがわかるくらい近い……! 篠原くんの説明、全然頭に入ってこない!!

「津田さん、話聞いてる?」

 ヒィィィィィィッ! チカイッ、カオ、チカイッ!

「……ス、スミマセン……集中デキナクテ……」

「今日が初日だし、無理もないよ。すこし休憩しようか」

「……スミマセン……」

 勉強するなんて、言うんじゃなかった………。

 ミニテーブルにつっぷしてぐったりしていると、ふと篠原くんのノートに目がいった。重要な箇所にマーカーが引かれ、隅にメモ書きが細かく書かれている。篠原くんらしい丁寧な字で、丁寧にまとめられたノートだった。

「あ、あの……、篠原くんは、勉強が好き、なんですか?」

「んー、好きか嫌いかって考えたことないな。必要だからしてるって感じだから」

「……必要だから?」

 必要だとわかってても、できない人間からしてみれば素直に尊敬する。やらなきゃとは頭では分かっていても、どうしても身体が動かないのだから。

「すごい、ですね。わたしは、どうしても、勉強は苦手、なので……」

 難しいだけで面白くないし、好きじゃないことで何時間も机に向かってなきゃいけないのがすごく苦痛に感じてしまう。

「わかるようになると面白いよ。それこそクイズを解いているみたいだしね」

「クイズ、ですか……」

 勉強のことをクイズを解いているみたい、なんて思ったことも無かったわ。

「津田さんだって、今から勉強を始めても全く遅くないと思うよ」

「……え」

 篠原くんは穏やかに言って、わたしに笑いかけた。

「1年生からの分を取り戻すにしても、沢山時間があるし、俺も出来ることなら協力するしね」

「……わ、わたしなんかに、勉強を教える時間が、も、もったいない、ですよ。じ、自分の、べ、勉強にあてたほうが……」

「もったいなくなんかないよ。人に教えると、学んだことが定着しやすくなるんだって。俺にとっても確認になって助かるし、津田さんにどう説明すればわかりやすいか考えながら勉強するの、けっこう楽しいよ」

「……そ、そう、なんですか?」

「うん。だから、津田さんも一緒に頑張ろう?」

 篠原くんは、こんなブスと一緒にいて嫌じゃないのかな。もし、嫌じゃ無かったら、お願いしても、いいのかな。篠原くんが勉強を教えてくれるのは心強いし。

「よ、よろしくお願いします」

「うん、よろしくね」

 ふわっと笑った篠原くんの笑顔が眩しい。これ……本当に慣れるのかな……?
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