生贄教室
「実は前から郁の悪口を言ってるみたいだよ。私も、聞いたことある」
「嘘でしょ」
サッと血の気が引いていくのがわかった。

今まで信じていたものが一瞬にして崩れ落ちて壊れていく感覚がする。
視線は雄太へと向かうが、雄太も今は落ち着かない様子で教室内を無意味に歩き回っている。

「それ、本当のこと?」
「こんなときに嘘なんてつかないよ。私、前から雄太にはいい印象なかったんだよね」

ため息交じりの言葉は信ぴょう性があった。
なによりもクラスで一番冷静で大人びている恵子の言葉だったからこそ、信じることができた。

「そうだったんだ……」
自分の知らない雄太の一部に、郁は下唇を噛み締めた。
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