生贄教室
その顔に迷いも恐怖もなく、だけど後方には化け物の手が迫ってきていた。
「雄太!!」
郁が叫んだと同時に雄太の体は化け物の手の中に消えていた。

「雄太! 雄太!!」
すぐに立ち上がってベランダへ向かう。
だけど美麗がドアと鍵を締めて立ちはだかっていた。

「ダメ、行かせない」
強い意思を感じさせる声。
「どけてよ! 雄太が、雄太が!!」

すがりついて懇談しても美麗はどけない。
それならと力づくでどかそうとするけれど、美麗は両足を踏ん張って耐えた。

「なんで邪魔するの! 雄太が死んじゃう!!」
叫んで泣いて、美麗の髪をひっぱって頬をはつって。
それでも美麗は動かなかった。

ボロボロと涙をこぼしながら「ごめん。ごめんね郁」と何度も呟く。
窓の向こうで化け物が大きく口を開くと、その中に雄太を放り込んだ。
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