生贄教室
化け物はなんの反応もみせなかった。
「昂輝を返せ! みんなを返せ!」

叫びながら次々と椅子や机を教室から持ち出して化け物へむけて投げつける。
化け物はどれだけ物をぶつけられても、ふりむきもしない。

ゴツゴツとした分厚い皮膚に覆われているのだろう。
「返せ! 返してよ!」

泣きながら叫ぶ美麗を後ろから抱きしめて、理沙はどうにか教室の中へ戻った。
化け物を刺激して、次の生贄を今までよりも残酷に殺してしまうかもしれない。

そんな不安が唐突に胸に浮かんできたのだ。
理沙はベランダへ続くドアの鍵をしめて美麗を椅子に座らせた。

美麗はまた顔を両手でおおって泣き始めた。
最愛の人を失った悲しみは、きっと理沙にはまだわからない。

「大丈夫だよ美麗」
どれだけ声をかけても、その言葉は上滑りしていく。
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