生贄教室
その影はとても大きくてそれが化け物であることは明白だった。
池田は咄嗟に身構えて、中腰になる。
ベランダの手すりから下半分はコンクリートで固められている。

かがみ込んでしまえば池田の姿は化け物からは見えなくなるのだ。
だけど遅かった。
土埃の中の化け物はすでにこちらへ手を伸ばしていたのだ。

そのことに気がついたときにはすでに池田の体は宙に浮いていた。
「ひぃ! やめろ! 離せ!」
どれだけもがいても怪力な化け物はビクともしない。

懐中電灯で自分の体を掴んでいる手を殴りつけるけれど、その力が緩むことはなかった。
池田の目の前に黒い化け物が姿を見せた。
それはどこに目があるのか、口があるのかわからない真っ黒な化け物だった。

だけど化け物が大きく口を開けたとき、そこだけが真っ赤に燃えているように見えた。
そして次の瞬間、池田の体は化け物の手を離れて口の中へ放り込まれたのだった。
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