お兄ちゃんと溺愛結婚!?~ハイスペ御曹司は昨日まで妹だったちょいぽちゃの私と本当の家族になりたいらしい~
第1話 お兄ちゃんと私は双子の兄妹……でした
〇 佐藤家(朝)
――6月30日木曜日――
豪邸の外観
――私の朝は――
起きている時は肩より少し長めのふんわりとした佐藤琴莉の髪が、今は枕の上で広がっている。
仰向けで寝ている琴莉のふっくらした顔の横だが髪をひっぱらない所に、ギシとベッドを軋ませながら男性の手が置かれた。
琴莉の顔のそばに手をつきベッドドン状態で優しげな笑みを浮かべている制服(夏服でベストにネクタイ)姿の佐藤太陽。
サラリと垂れる太陽の明るい色の前髪と琴莉の額の位置が近い。
太陽「起きて、琴莉」
――超絶美形男子の優しい声で始まる――
琴莉「んー、まだ眠い……」
もぞ……と動き寝返りをしようとする琴莉。
太陽「それなら寝たままでいいよ」
ふゎっ、とちょいぽちゃ体型の琴莉をお姫様抱っこする太陽。
琴莉は、パチ、と目を覚まして慌てだす。
琴莉「重いでしょ、おろして!」
太陽「もっと重くても、平気」
悪戯っぽく笑う太陽の表情に、ドキッと胸が高鳴る琴莉。
琴莉(お兄ちゃんが朝からイケメンすぎる……)
抱っこからおろし向かい合って立つ琴莉の頭に、太陽が優しくポンと手を置いた。
身長差があるため、太陽は少しかがんでいる。
太陽「おはよう琴莉、誕生日おめでとう」
琴莉「……お兄ちゃんも、誕生日おめでとう」
――私たちは双子の兄妹、まったく似ていないけれど――
〇 天王寺学園高等部、昇降口下駄箱(登校時間)
下駄箱へ靴を入れている琴莉に、クラスメイトの深川かの子が話しかけてきた。
ショートヘアで、かの子はスラリと背が高く、手に小さな紙袋を持っている。
かの子「おはよ、琴莉。誕生日おめでとう! これ、プレゼント」
琴莉「うわー、ありがとう、かの子ちゃん」
かの子「前に琴莉が食べたいって言ってたお店のブラウニーだよ」
琴莉「嬉しい、ここのブラウニーお兄ちゃんも食べてみたいって言ってたんだ」
少し離れた所へかの子が視線を向ける。
ふたりの視線の先で、太陽がプレゼントを手にした女子高生に囲まれていた。
背が高いので、少し困ったような表情の太陽の顔が見える。
かの子「そのお兄ちゃんは今年もすごいね……」
琴莉「下駄箱にもプレゼントがたくさんあったよ」
先ほど通った太陽の下駄箱で、プレゼントの量に驚く太陽を思い出しながら琴莉が苦笑する。
すると太陽を囲む人の輪から泣きながら外に出てきた女子高生がひとりいた。
その女子高生は、手作りのカップケーキらしきお菓子が入った袋を持っている。
かの子「あちゃ~一年生かねぇ。知らなかったのかぁ」
琴莉「そうかもしれないね、お兄ちゃんが断ったのかも」
かの子「太陽くん、手作りと高級品は受け取らないもんね」
琴莉「そう、あと形に残るものもダメなんだって」
かの子「おかげで生徒会は消耗品の文房具を買わなくてすんでるよ」
やれやれという感じに肩をすくめながら、ハッ、と小さく息を吐くかの子。
鉛筆、消しゴム、ボールペン、メモ帳、のり等、太陽へプレゼントされた品が頭上に浮かんでいる。
そんなかの子の頭には『生徒会書記』、人に囲まれている太陽の頭に『生徒会長』と目では見えない矢印が刺さっていた。
一波「お、おはよう佐藤さん、深川さん」
黒髪で誠実そうな見た目の犬居一波(いぬいかずなみ)が少し緊張した様子で話しかけてきた。
琴莉「おはよう犬居くん」
かの子「おはよー」
一波「今日で部活最後だね」
かの子「そっか、弓道部は今日までか」
琴莉「犬居くんが部長でよかったよ。今まで本当にありがとうね」
ニコ、と笑う琴莉の頭には『弓道部副部長』、琴莉の笑顔を見てカァァァと頬を染めた一波の頭には『弓道部部長』の目では見えない旗が立っている。
琴莉「それじゃ、また放課後に」
手を振りながらかの子と一緒に行こうとする琴莉へ、慌てた様子で一波が声をかけた。
一波「ぁ、あのさ……」
呼びかけられて振り返る琴莉。
首のうしろを手でさすりながら、まだ一波はほんの少しだけ頬を赤らめている。
一波「今日部活終わったら一緒にか……」
太陽「琴莉!」
琴莉「ひぁ!?」
両手にプレゼントで貰った小さな紙袋をたくさん持った太陽が、琴莉の事をうしろからギュッと抱きしめた。
太陽「今日父さんも早く帰るって言ってたから、家族で誕生日のお祝いしような」
琴莉「そ、それ、朝から何回も聞いたよ」
太陽「念のため、再確認。琴莉が部活終わるの待ってるから一緒に帰ろう」
じゃ、と手を振り去っていく太陽。
残された琴莉たちに先ほど手作りプレゼントを太陽に断られた女生徒が話しかけてきた。
女生徒「ぁ、あの……太陽先輩と、お知り合いなんですか」
いきなり話しかけられて戸惑う琴莉に代わってかの子が答える。
かの子「ふたりは双子なのよ。太陽くんが兄で、琴莉は妹」
女生徒「ぇ、似てなぃ……」
ボソッと呟かれた女生徒の言葉に琴莉が苦笑する。
琴莉(双子の妹ならさぞかし容姿端麗、文武両道なお嬢様だろうと思うよね……)
夏服でベストにネクタイの制服を着こなし、甘く微笑む太陽の全身の描写。
――私の双子の兄、佐藤太陽は運動神経抜群で頭脳明晰な高校三年生。
スラリと背が高いうえに、程よく鍛えられた身体の持ち主。
顔立ちもキリリと秀麗で、芸能人が持っていそうなオーラまで纏っている。
日本有数の企業である佐藤グループ社長の御曹司――
制服のベストを着ていてもふっくらとしていると分かる琴莉の全身の描写。
――残念ながら、うちの両親はお兄ちゃんに優秀な遺伝子をすべて使い切ってしまったようで。
私はそこらへんに石を投げれば当たるようなレベルのいたってフツーの女の子。
モデルみたいな背格好のお兄ちゃんと違って身長155センチ体重55キロのちょいぽちゃ体型。
もしかしたら身長は155センチよりも小さいかもしれないし、体重は55キロよりも多いかもしれない。
そのあたりは、ちょっとうやむやにしておきたい――
〇 天王寺学園弓道場(放課後)
弓道着を身につけ並んで矢を射る琴莉と一波。
的に矢が当たる。
琴莉がかけ(弓道で使うグローブのようなもの)を外していると一波が近付いてきて小さなキーホルダーをくれた。
一波「朝渡せなくて……、誕生日おめでとう」
琴莉「うわぁ可愛い。こんなのあるんだね、ありがとう」
一波がくれたのは、弓道の的と弓矢がモチーフのキーホルダーだった。
喜ぶ琴莉の笑顔を見て、満足そうな表情になる一波。
でもすぐに、一波は少し寂し気な表情へと変わった。
一波「もっと部活続けたかったな……」
琴莉「そうだね、部活終わるの寂しいね」
一波「うん、すごく寂しい……」
弓道場を眺めている琴莉に対して、一波は琴莉の横顔を見つめている。
〇 佐藤家(夕方)
並んでキッチンに立ち食器を洗っている琴莉と太陽。
パスタやピザ、チキンにケーキを頭に思い浮かべる琴莉。
琴莉「美味しくて食べすぎちゃったよ」
太陽「ハハ、父さん張り切って用意してたからな」
キッチンカウンターの反対側にいる父、佐藤旭がリビングのソファから二人へ声をかけた。
旭は太陽と雰囲気が似ていて、高三の子どもがいる年齢の割に若い見た目。
旭「ふたりとも、終わったらこっちへおいで」
リビングのL字型ソファに琴莉と太陽が並んで座った。そのL字型ソファのもう一辺に旭が座っている。
太陽と旭の間にいる琴莉に、両方向からプレゼントの箱が差し出された。
旭は箱をふたつ持っている。
旭「改めて琴ちゃん、太陽、誕生日おめでとう」
太陽「これは俺から琴莉に、プレゼント」
旭からのプレゼントの中身は時計、太陽からのプレゼントの中身は可愛らしい小さな弓矢がモチーフのネックレスだった。
琴莉「うわー、ありがとう」
太陽「時計は俺のと琴莉のお揃いだな」
旭「これからもずっと仲の良い家族でいられるようにっていう願いを込めたんだよ」
旭からふたりにプレゼントされた時計は、太陽のが黒いベルト、琴莉のが薄いピンクのベルトと色は違うが文字盤のデザインが同じもの。
琴莉「大切にするね」
太陽「ありがとう父さん」
恐縮した表情で、手作りクッキーの入った袋をふたつおずおずと差し出す琴莉。
琴莉「私からふたりにはクッキーのプレゼント……ごめんね、このくらいしか用意できなくて」
太陽「俺、琴莉の作るお菓子好き」
旭「お父さんも、琴ちゃんが作るお菓子大好きだよ」
太陽「俺は大大好き」
旭「お父さんは大大大好き」
張り合う二人を見て琴莉が思わずクスクス笑いだす。
琴莉の笑顔を見て、太陽と旭も優しい笑みを浮かべた。
そして旭は、リビングに飾られている二つの写真立てに視線を移す。
ひとつはランドセルを背負った太陽と琴莉、今より若い旭と琴莉によく似た女性の四人で写っている写真。
もうひとつは、先ほどの写真にいた琴莉に似た女性が微笑んでいるアップの写真。
少し眉を寄せた旭が、再び琴莉へ視線を向けた。
旭「あのね、琴ちゃん」
琴莉「なぁに、お父さん?」
旭「ふたりが成人を迎えたら話そうと決めていたことがあるんだ……」
琴莉(え……)
琴莉「私のお父さんは私が生まれる前に亡くなっていて、お兄ちゃんの本当のお母さんはお兄ちゃんを産んだ時に亡くなってる……?」
旭が琴莉の言葉を聞いて頷いた。
太陽が心配そうに琴莉の事を見つめている。
琴莉(……うそでしょ?お父さんとお母さんが子連れ同士の事実婚で婚姻届も出してない、なんて)
呆然とする琴莉と、痛みを我慢しているみたいにつらそうな表情の旭。
旭「再婚に反対する親族がいてね。説得に何年もかかってしまった。でも婚姻届を出す直前に日葵さんは事故で……」
リビングに飾ってある琴莉に似た女性が微笑んでいるアップの写真に、黒いリボンがかかって遺影に使われたものだと分かる描写。
琴莉「それって私とお父さんが、それに私とお兄ちゃんも、赤の他人って事……?」
琴莉が、すくッと立ち上がる。
その目には涙が溜まっていた。
琴莉「私だけ、本当の家族じゃないんだ……」
バンッと大きなドアの音を立てながら琴莉がリビングを出て行く。
太陽「琴莉!」
旭「琴ちゃん!」
太陽が追いかけると、踵を踏んで靴を履いた琴莉が玄関のドアを開けようとしていた。
太陽「おいで、琴莉。外はもう暗いよ」
琴莉「私は本当の家族じゃないもの。お兄ちゃんの家には、いられないよ……」
出て行こうとする琴莉の手首を、裸足のまま近付いた太陽が掴む。
太陽「琴莉」
ぎゅッと強く、太陽が琴莉の身体を抱きしめた。
太陽「俺と結婚して本当の家族になって欲しい」
太陽に抱きしめられている琴莉は、大きく目を見開いている。
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