お兄ちゃんと溺愛結婚!?~ハイスペ御曹司は昨日まで妹だったちょいぽちゃの私と本当の家族になりたいらしい~
第2話 お兄ちゃんと結婚することはナイショにしておきたい
○冒頭、前回の振り返り
幼い頃、手をつないで笑っている太陽と琴莉の描写。
――双子の兄妹だと思っていたお兄ちゃんに――
出て行こうとする琴莉の手首を、家の広い玄関におりて裸足のまま近付いた太陽が掴む。
ぎゅッと強く、太陽が琴莉の身体を抱きしめた。
太陽「琴莉、俺と結婚して本当の家族になって欲しい」
――18歳の誕生日、プロポーズされました――
〇天王寺学園高等部3年B組の教室(昼休み)
購買で買ってきたパンの袋を手にしたかの子が、琴莉の席に来た。
かの子「ごめん、お待たせ~。お昼にしよ」
机の上にかの子はパンを、琴莉は太陽が作ったお弁当を広げて食べ始める。
かの子「いつもながら琴莉のお弁当、美味しそうだよね~」
琴莉「ありがとう、作ってるのはお兄ちゃんだけどね」
かの子「うわ太陽くん、料理もできるって完璧過ぎだわ」
ちょっと引き気味なかの子に、琴莉は苦笑する。
琴莉「そうだね、私はお菓子作りくらいしかしないから見習わないと」
かの子「そういえばクッキー作ったって言ってたっけ、太陽くんへの誕生日プレゼント」
琴莉「うん、お兄ちゃんからリクエストがあったから」
かの子「琴莉の作るお菓子美味しいもんねー。琴莉は何もらったの、太陽くんから」
琴莉「ネックレス。もったいなくてまだつけてないけど」
琴莉の答えに、かの子は少し目を見開いた。
かの子「太陽くん、家族間のプレゼントなら手作りでも形に残るものでもいいんだぁ」
琴莉(言われてみると、毎年そうだ……。お兄ちゃん、他の人の手作りは断ってたのに)
かの子「まぁ彼女ができたら、その子からは手作りの物でも受け取るのかな。あれで彼女いないなんてね、ほんと意外」
かの子のセリフにドキッとする琴莉。
琴莉(そのお兄ちゃんに昨日プロポーズされたなんて、まだ信じられないよ……)
〇(回想)佐藤家リビング(第1話ラスト&冒頭プロポーズの直後)
――昨日、18歳の誕生日の夜――
リビングの大きなL字型ソファに座っている太陽と琴莉と父の旭。
ローテーブルの上には婚姻届の用紙がのっている。
父の旭は戸惑っていた。
旭「どういう事……かな、太陽、琴ちゃん?」
太陽「さっき琴莉にプロポーズした」
旭「えっと……お父さんは状況がよく分からないのだけれど」
太陽「琴莉さんを僕にくださいとか言った方がいい?」
旭「結婚、するつもりなのかな、ふたりは」
真剣な表情で頷く太陽。
その隣に座っている琴莉は戸惑っている。
琴莉(ぇ、結婚、本当に……? ぁれ、でも……)
少し我に返った琴莉が、太陽へ話しかける。
琴莉「お兄ちゃん、どうして婚姻届の用紙があるの、準備よすぎじゃない?」
太陽「琴莉と血がつながってないって、俺は前から知ってたんだ。だからいつか琴莉と結婚しようと考えて用意してた」
琴莉「だいぶ前から、本当の家族になりたいって思ってくれてたってこと?」
太陽「そうだよ」
優しい笑みを琴莉に向ける太陽。
琴莉は内心もの凄く感動している。
琴莉(お兄ちゃん、血がつながってなくても私のこと本当の妹として大切に思ってくれてたんだ……)
太陽(血がつながってないって知ったのは琴莉の事を好きだって自覚した頃だったから、嬉しかったのをよく覚えてる)
ふたりは見つめ合いながら、お互いに少しずれた事を考えていた。
旭「それなら結婚じゃなくて、養子に迎える選択肢もあるんじゃないか?」
父の提案に、太陽は首を横に振る。
太陽「俺、他の人とは結婚したくないんだ。知ってるよ、会社の取引先関係で俺が18歳になったら娘と見合いさせようと目論んでる人がたくさんいるの」
太陽の言葉に、琴莉はハッとした。
琴莉「お兄ちゃんは私と結婚すれば、したくないお見合いをしないで済むってこと……?」
太陽「そうだね」
太陽が優しい笑みを琴莉に向ける。
琴莉は顎に手を当て考え込むような仕草。
琴莉「私がお兄ちゃんの役に立てるの……?」
太陽「そうだよ琴莉、結婚してくれたら俺はすごく嬉しいし助かる」
旭「琴ちゃん、無理して太陽と結婚なんてしなくていいんだよ。血がつながってなくても本当の家族だ、ずっとこの家にいていいんだから」
父、旭は心配そうな表情。
一方、琴莉は何かを決意したような表情に変わった。
琴莉「私、お兄ちゃんと結婚したい」
太陽「父さん、琴莉もこう言ってくれてる」
ハァ、と旭がため息をついた。
旭「わかった。でも太陽、これだけは約束してほしい。高校を卒業するまでは琴ちゃんが妊娠するような行為を絶対にしないこと」
琴莉(妊娠するような行為って……)
アハーン、とハートが飛んでモザイクがかかっているような画像が頭に浮かび、琴莉の顔が赤くなる。
琴莉(もう、お父さんったら。これはお兄ちゃんのお見合い回避のための結婚みたいなものだから、そんな心配する事ないのにっ)
目をギュッと瞑り、汗を飛ばして恥ずかしがっている琴莉。
一方の太陽は、表情を無くして少し遠い目をしていた。
旭「わかったか、太陽」
太陽「……ワカッテルヨ」
旭「琴ちゃんは、何か太陽に言っておきたい事ない?」
心配そうな視線を向ける旭にそう聞かれ、ハッと我に返る琴莉。
琴莉「が、学校では結婚すること内緒にして欲しい」
〇天王寺学園高等部3年B組の教室(昼休みシーンの続き)
琴莉がお弁当、かの子がパンを食べていると廊下の方からキャーッと歓声が上がる。
ふたりが視線を廊下へ向けると、教室の入り口から太陽が入ってくるところだった。
ほとんどの女子が太陽に熱い視線を向けている。
かの子「隣のクラスから来ただけでこの歓声って、すごいね」
琴莉「ハハ……」
かの子は若干引いている。琴莉は苦笑い。
琴莉(こんなにモテるお兄ちゃんと結婚するなんて知られたら……どうなるか怖い。絶対に内緒にしておかないと)
太陽はまっすぐ琴莉とかの子の方へやって来る。
太陽「琴莉、今日から部活が無いから帰り早いだろ? 俺委員会があるから先に帰ってて」
琴莉「うん、わかった」
太陽「深川さん、放課後よろしく」
かの子「はいはい、よろしく」
片手を軽く上げたかの子の頭には『生徒会書記』、太陽の頭には『生徒会長』と目では見えない旗が立っている。
〇天王寺学園高等部昇降口(放課後)
校舎から外に出る手前、ギリギリのところに立ち空を見上げている琴莉。
空からシトシト雨が降っている。
琴莉(朝は晴れてたのにな……傘、持ってこなかった)
一波「佐藤さん、か、傘、持ってきてないの?」
琴莉の横に立った一波が、傘を広げながら緊張した面持ちで話しかけてきた。
琴莉「そうなの。お兄ちゃんが委員会終わるまで教室で待ってようかなぁ」
一波「よかったら傘、一緒に入っ……」
太陽「琴莉!」
琴莉「ふぁ!?」
一波から距離をとらせるように、グィッと琴莉の肩を太陽が抱き寄せた。
ドキッと琴莉の胸がときめく。
太陽「間に合ってよかった。俺も深川さんも委員会で一緒に帰れないから、これ使って」
太陽は手に折りたたみ傘を持っている。
琴莉(そっか、お兄ちゃんはもうひとつ置き傘持ってるのか……)
琴莉「あ、ありがとう……」
太陽「それじゃ、寄り道しないで気をつけて帰れよ」
太陽は校舎の中へ戻っていく。
1年生らしき女子生徒のグループのヒソヒソ話す声が琴莉の耳に届いた。
女子生徒1「なにあの女? 佐藤先輩から傘借りてた」
女子生徒2「私知ってる、佐藤先輩の妹らしいよ、双子の」
女子生徒3「ぇ、あんなに太ってるのに双子なの?」
女子生徒4「いいなー、優しくしてもらえるなら私も妹になりたい」
聞こえないふりをしながら太陽から受け取った傘を広げる琴莉。
琴莉(明後日の日曜日、お父さんの誕生日に婚姻届を出してお兄ちゃんが夫になるなんて、学校じゃ絶対に言えない……)