お兄ちゃんと溺愛結婚!?~ハイスペ御曹司は昨日まで妹だったちょいぽちゃの私と本当の家族になりたいらしい~
第4話 お兄ちゃんは私と本当の夫婦になりたいらしい
〇役所の時間外窓口(日曜日午前)
記入済みの婚姻届を差し出す太陽と琴莉。
太陽は爽やかな微笑み。琴莉は緊張した表情。
太陽&琴莉「「よろしくお願いします」」
――お兄ちゃんと、婚姻届を提出しました――
〇佐藤家リビング(日曜日午後)
リビングの大きなL字型ソファに座っている琴莉。
太陽はカウンターキッチンでカップを二つ用意してコーヒーを淹れている。
太陽「琴莉、いつも通り砂糖とミルク多めで大丈夫?」
琴莉「大丈夫。ありがとう、お兄ちゃん」
コト、と太陽が琴莉の前のローテーブルにコーヒーを置いて、そのまま琴莉の隣に座った。
太陽はブラックコーヒー。
太陽「無事に提出できてよかったな、婚姻届」
琴莉「お父さん、一緒に行きたがってたね」
「日曜日だけど仕事がぁ~」と泣いている父、旭の描写。
太陽「届を出したって連絡は入れておいたよ。そんなに遅くならずに帰れそうだって言ってた」
琴莉「よかった、お父さんの誕生日のお祝いできそうだね」
太陽「ああ」
手を伸ばし、琴莉がつけているネックレスに触れる太陽。
そのネックレスは、琴莉の誕生日に太陽がプレゼント(第一話に登場)したもの。
太陽「今日、これつけてくれたんだ」
琴莉「うん。ぁ、でももう外そうかな」
太陽「どうして?」
琴莉「ずっとつけてて壊したりしたら大変だから」
隣に座っている琴莉を愛おしそうに見つめ、フ、と太陽が小さく笑った。
太陽「ネックレスなのに飾っておくつもり? 琴莉らしくて可愛いね、外してあげようか?」
琴莉「平気平気、自分でできるから……ん、ぁれ?」
両手を首のうしろへまわしてネックレスを外そうとしている琴莉だったが、苦戦している。
太陽「自分だと難しいだろ。ほら、貸してみ」
琴莉「ご、ごめんね」
ソファに座ったまま、琴莉は背中を太陽の方へ向けた。
太陽「髪の毛が絡まないように持っててくれる?」
琴莉「うん、わかった」
ひとつにまとめる感じで琴莉が髪を上げうなじが見えると、太陽の心臓がドキ、と音を立てた。
吸い込まれるように太陽の唇が琴莉のうなじに触れる。
その瞬間、ぴく、と琴莉の肩が揺れた。
太陽「ごめん、手が触れた。痛かった?」
琴莉「ううん大丈夫。ちょっとくすぐったかっただけ」
微かに頬を染め、琴莉のうなじを見つめる太陽。
ネックレスの留め具はすでに外れている。
太陽「琴莉」
琴莉「ん、なに? やっぱり外れない?」
太陽「俺たち、本当の“夫婦”になろうな」
琴莉「?」
今度は意図的に、太陽が琴莉のうなじへ唇を寄せていく。
けれど触れる寸前のところで、玄関のドアが開く音とともに「ただいま~」と父、旭の声。
琴莉「ぁ、お父さんだ」
そう言って動いた拍子に、ネックレスの留め具が外れていることに気付く琴莉。
琴莉「ぁ、外れたんだ。ありがとうお兄ちゃん」
「おかえりなさい」と言いながら琴莉は玄関の方へ歩いていく。
残された太陽は、額を手で押さえ俯きながら、ハァ~、と大きなため息をついた。
太陽(父さんが帰ってこなかったら、危なかったかも、俺……)
〇引き続き、佐藤家リビング(日曜日午後)
帰ってきた旭も一緒に、太陽と琴莉の三人でソファに座っている。
琴莉と太陽は並んで座り、L字型ソファのもう一辺に旭が座る感じに。
旭「琴ちゃん、太陽、結婚おめでとう」
太陽「ありがとう父さん」
琴莉「ありがとう、お父さん」
旭は琴莉の母の写真を胸に抱きしめ、目を潤ませている。
旭「これで琴ちゃんは戸籍上も家族だよ。日葵さん、安心してね……」
琴莉「お母さんも、名字は佐藤だったんだね」
旭「そうだよ琴ちゃん。出会った当時、日葵さんはお父さんの会社で企業内保育所にゼロ歳の琴ちゃんを預けて清掃の仕事をしていてね。名字が一緒、子どもの誕生日も一緒というのがきっかけで話すようになったんだ」
琴莉「そうなんだ……」
キラキラ目を輝かせて旭は琴莉を見つめた。
旭「琴ちゃん、これからもお父さんにたくさん甘えて欲しい」
太陽「んーじゃ手始めに、夏休みの旅行でも計画しようか。去年みたいにグランピングとかでいい?」
太陽の言葉に、旭は「ぁ……」と小さく呟いた。
琴莉「カリフォルニアに、出張……」
旭「そうなんだ、一か月くらいかな。夏休みどこにも連れていってあげられなくて、ごめんよ」
申し訳なさそうな表情の旭。
太陽「一週間後に出発か……、結構忙しいね」
旭「兵頭グループとの新事業立ち上げのスケジュールが早まってね。まぁいい話だから、こちらとしてもできる限りの事はしたいと考えている」
琴莉「お父さん、体調には気をつけてね」
琴莉の言葉を聞いた旭の目がウル、と潤んでいる。
旭「琴ちゃんは優しいねー。お父さんは一か月も琴ちゃんに会えなくて寂しいよ」
太陽「そうすると一か月、俺と琴莉のふたりきりになるのか。大丈夫かな……」
琴莉「大丈夫だよお兄ちゃん。私も家事を頑張るから」
太陽の呟きに対し、両手をグーにして小さくガッツポーズをする琴莉。
少し困ったように笑う太陽。
太陽(大丈夫か心配なのは、俺の理性なんだよな……)
旭「ふたりきりじゃないよ」
太陽「は?」
旭の言葉に太陽は眉を寄せ、怪訝そうな表情。
旭「今回一緒にカリフォルニアへ行く兵頭社長のお嬢さんが入れ違いでアメリカ留学から日本に戻るから、うちで預かることになった」
太陽「は? 預かることになったって犬猫じゃあるまいし、なに勝手に決めてんの?」
旭「うちで預からないとひとり暮らしになるんだけど、女の子ひとりは危ないからって兵頭さんが心配しててね。うちなら琴ちゃんと太陽がいるから安心だろう?」
太陽は納得がいかないような表情をしている。
琴莉「いくつくらいなの、その子」
旭「ふたりと同い年。高校もふたりと同じ学校に転入するんだって、だから琴ちゃん、色々と教えてあげて」
琴莉(新事業を一緒に立ち上げる会社のご令嬢だから、お父さんにとってすごく大切な人だよね……)
琴莉「うん、わかった」
太陽「いま思い出したけど……兵頭さんって確か、俺が18歳になったら自分の娘と見合いさせようと目論んでた人のひとりだよな」
旭「そうだよ。だけど太陽は琴ちゃんと結婚したわけだから、もうその心配はないだろ? 結婚したとは言ってないけど、太陽には決まった相手がいるっていうのは兵頭さんにも伝えてあるから」
チラ、と旭が室内の時計を見た。
旭「今日、娘さんが挨拶だけしにくる事になったんだ。そろそろ来る頃だと思う」
ピンポーン、と家に誰かが来た事を知らせるベルが鳴った。
旭「ぁ、もしかしてそうかな」
琴莉(ぁれ、この子確か昨日の……)
リビングのモニター画面で確認すると、そこにいたのは昨日男性に絡まれているところを助けた艶のある長い黒髪の美女だった。