クラスで人気者の幼なじみと『離婚』前提の偽装婚約~この関係はフリだから、ふたりの時に溺愛なんて不要では!?~
第1話 プロポーズされました
○桜井家、二階の成美の部屋(朝)
ベッドで上半身を起こして座るパジャマ姿の桜井成美(さくらい なるみ)と、そのベッドに浅く腰かけている制服(ブレザー)姿の成瀬戒理(なるせ かいり)。
戒理「誕生日おめでとう。成美、結婚しよう」
戒理は指輪の入った小さな箱を成美へ差し出しその蓋をパカッと開けている。
眉目秀麗で艶のある黒髪の戒理、真剣な表情のアップ。
目を見開き驚いている成美。
成美は一般的な見た目の高校三年生、髪の長さは肩のところで少しだけ明るい色。
――18歳の誕生日の朝、プロポーズされました。
イケメンで性格も良くクラスの人気者、モデルもしているハイスペな幼なじみから――
成美「け、結婚しようって、私たちそういう関係じゃないよね……?」
『ただの幼なじみ』の矢印の描写。
戒理「俺は国が決めた相手と結婚したくない。好きな相手と恋愛したいと思ってる」
成美「なるほど……」
スン、と腑に落ちたように納得した表情になる成美。
成美(戒理は私を隠れ蓑にして、自由に恋を楽しみたいって事か……)
戒理は成美の手をとり、左手の薬指に指輪をはめようとしている。
戒理「だから成美、俺と結婚してほしい」
――戒理は私がずっと片想いしていた相手。
でも、嬉しくない。
このセリフは、国の制度から逃れるために言っているだけだから……――
〇天王寺学園高等部3年生の教室(休み時間)
誕生日プレゼントが入った包みを持っているクラスメイトで成美の友人の柚乃(ゆずの)と、りあ。
柚乃は眼鏡をかけていて三つ編み、りあはポニーテール。
柚乃・りあ「「誕生日おめでとう!」」
成美「ありがとう、嬉しい!」
りあが若干、天を仰ぎながらため息をつくような表情。
りあ「成美が18歳って事は、卒業・結婚まで半年をきったのかー」
柚乃「その前に受験もあるけどね」
成美「ハハ……」
眼鏡の位置を直しながら冷静に話す柚乃と苦笑する成美。
りあ「受験よりも結婚の方が重要だよー」
成美「りあの彼氏、マッチング免除申請出してるんだよね」
りあ「そうなの~。大学の友達で結婚してない人少ないみたいだから申し訳なくて」
柚乃「今は高校卒業したら国が決めた相手と結婚する人の方が多いから」
――20XX年、政府は『超異次元の少子化対策』を掲げ法律が成立した。
その内容は、晩婚化解消のため高校卒業時点で結婚相手がいない男女は国が構築したマッチングシステムで導き出された相手と結婚しなければならないというもの――
りあ「私の弟は中一だけど、親がマッチング婚の同級生けっこういるらしいよ」
成美「始まってからどのくらい経つんだっけ」
柚乃「施行からもうすぐ16年」
りあ「始まった頃は反発が凄かったらしいよね~」
柚乃「最近では政府マッチング婚の方がそれ以外の結婚よりも離婚率が低いという調査結果も出てるから、反対意見はだいぶ減ったみたい」
成美「やっぱりマッチング婚の方がいいのかな……」
ポツリと呟いた成美に対して、りあは瞳を輝かせ、柚乃は眼鏡の奥の目を少しだけ見開いている。
りあ「なになに成美、マッチング婚以外の選択肢があるの? 今までそんな話、聞いたことがないけど!」
成美「……ッ」
身を乗り出すりあ。
成美は動揺しながら、思わず窓際の方へ視線を向ける。
その方向には戒理の席があり、戒理はクラスメイトの男女数人の中心で談笑していた。
成美(戒理……普段と全然変わらない)
柚乃「なるみんが浜辺で告白された後のファーストキスに憧れているというのは、もしや漫画の話ではなかったのか……」
眼鏡をキラリと光らせながら成美を見つめる柚乃。
成美はボーっと戒理の事を眺めている。
成美(今朝のアレは、もしかして夢だったのかな――)
〇(回想)桜井家、二階の成美の部屋(朝、冒頭シーンの続き)
戒理「だから成美、俺と結婚してほしい」
ベッドで上半身を起こして座るパジャマ姿の成美と、ベッドに腰かけて成美の手をとり左手の薬指に指輪をはめようとしている戒理。
はッ、と成美が何かに気付いた表情になる。
成美「いやいやいやいや、結婚なんてダメでしょ」
パッと戒理から指輪を奪い取ると、ベッドに置いてあった箱を素早く拾って指輪をしまい「もらえない」と戒理に戻す成美。
戒理「成美は俺と結婚するのが、嫌?」
くぅぅん、と捨てられた仔犬のような表情になった戒理を見て、う、と成美は罪悪感に襲われる。
成美「嫌とかそういうのじゃなくて、ほら、マッチング婚がしたくないからって結婚するのは良くないと思う」
成美(それにマッチングで強制的に相手を決めてくれた方が、戒理への恋心に諦めがつくかも)
戒理「漫画原作の仕事、ずっと続けたいんだろ?」
成美「ぇ、うん、続けたい」
成美(小学生のころから恋愛漫画が大好きだった私)
小学生の成美が目を輝かせて恋愛漫画を読んでいる描写。
パソコンに向かって、漫画のシナリオを打ち込んでいる最近の成美の描写。
成美(親と戒理しか知らないけど、趣味が高じて高校へ通いながら恋愛漫画の原作を書く仕事をしている)
戒理「結婚相手に反対されたら困るよな、俺と結婚すればそんな心配いらない」
成美「確かに、戒理なら私の仕事を応援してくれるよね……」
成美(マッチング婚が主流の今は、恋愛漫画って時代遅れだと鼻で笑う人もいるからなぁ)
戒理「それにもし別に好きな相手ができたら離婚すればいい。一度でも結婚してれば、もうマッチングシステムの対象にはならなくて自由だから」
成美(うわぁ、それって戒理に好きな人ができたら別れるっていう、離婚前提の結婚になるのでは……)
戒理「成美、俺と結婚しよ?」
母性本能をくすぐるような甘い笑みを浮かべて成美を見つめる戒理。
成美(戒理が他の人と恋愛するのを見るのはつらいけど……形だけの結婚だから離婚しても幼なじみの関係は変わらない)
成美「……ぃ、ぃぃょ……」
ぱぁぁああ、と戒理の笑みがさらに輝きを増す。
戒理「すっげー嬉しい、ありがとう」
成美「ひゃぁッ!?」
ギュッと戒理に抱きしめられて驚く成美。
戒理の腕の中で、成美は何かを諦めたようにため息を吐きながら目を閉じる。
成美(もぅ都合のいい女でもいいや……)
戒理(成美、好きだ。一生大切にするから、他の男を好きにならないで)
一方、成美の事を好きで好きで堪らない戒理は、成美が想像もしないような事を考えていた。
(回想終了)
〇再び天王寺学園高等部3年生の教室のシーンに戻る
成美(あのあと戒理が両方の親に伝えて……)
結婚だとー、と怒り気味な成美の父親と、まぁまぁお父さん私は大歓迎よ、と喜ぶ成美の母親の描写。
成美ちゃん戒理をよろしくね、と嬉しそうな表情の戒理の両親と、私は反対、と頬を膨らませている戒理の妹小学四年生の描写。
成美(高校卒業する時まで気持ちが変わらなければ結婚していいよって許してもらえたけど)
戒理の方をぼんやりと眺めながら考え込む成美。
おーいなるみん、と柚乃に話しかけられているが気づかない。
成美(やっぱり夢だったのかなぁ……?)
りあ「ね、成美は恋愛結婚するの?」
りあに肩を揺さぶられてようやく話しかけられていることに気付く成美。
成美「ぇ、恋愛結婚!?」
成美(恋愛結婚なんて自分には関係なくて創作や空想の中だけの話だと思ってた)
戒理「何の話?」
成美「ぅわぁッ!?」
いつの間にかすぐそばに立っていた戒理に驚き、そちらを向いた拍子にバランスを崩して椅子ごと倒れていく成美。
ガッターンッ、と椅子の倒れる音が教室内に響く。
戒理「ぁっぶね」
戒理がしゃがみ込みながら成美をグッと抱きしめたおかげで、成美は倒れずに済んだ。
すごい音だったねー、戒理だいじょぶかー、とみんなが集まってくる。
戒理「俺は大丈夫。成美は?」
成美「へ、平気……」
戒理は自分の膝の上に座る成美の事をギュッと抱きしめ、はぁぁぁ、と安堵の息を吐く。
戒理「よかった……成美に怪我がなくて」
目を見開き両手で口を覆っているりあと、キランと光る眼鏡の位置を指で直す柚乃。
りあ「成美が結婚するなら、相手はもしかして……」
戒理「俺だよ、結婚するのは卒業してからだけど。今朝、成美にプロポーズしたんだ」
ニコ、と戒理が甘く微笑むと、えええー!!!と教室中で絶叫が響き渡った。
特に女子は、嘘でしょ、と泣いている子もいる。
成美(ゆ、夢じゃなかった……)
戒理の腕の中で、成美は額に黒の縦線が入り冷や汗を流していた。
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