クラスで人気者の幼なじみと『離婚』前提の偽装婚約~この関係はフリだから、ふたりの時に溺愛なんて不要では!?~
第5話 他の人にキスされているのを好きな人に見られました


〇天王寺学園高等部3年生の教室(休み時間)



廊下に面した教室の扉の所から、クラスメイトの男子が窓際の席の戒理に声をかける。



男子生徒1「おーい、戒理。三組の井堂さんが呼んでるぞ」



席を立ち「三組の井堂さん? 話した事ないけど……」と言いながら成美の席のうしろを通り廊下の方へ行く戒理。

少し気になった成美が廊下の方へ視線を向けると、可愛くてモテそうな雰囲気の女子生徒が戒理に手紙を渡しているのが見えた。

その様子を見ていたクラスの男子数人が、羨ましそうに話している。



男子生徒2「最近多いな、戒理への告白」

男子生徒3「今まで彼女いなかっただろ、戒理。マッチング婚するつもりだからだろうって諦めてた女子が、やる気出してるらしいぜ」

男子生徒4「戒理が恋愛結婚するって聞いて、自分にもまだ可能性あるかもって思ったのかもな」

男子生徒5「俺も告白されてみて―よ」



会話が聞こえてきて、チク、と成美の胸が痛んだ。



成美(戒理は私との結婚を隠れ蓑にして、誰と恋愛するんだろう……)



友人のりあと柚乃は、心配そうに成美の事を見ている。





〇天王寺学園高等部下駄箱(下校時間)



自分の下駄箱の中に紙が入っていることに気が付く戒理。

カードを手にして読んでいる戒理の様子に気付き、一緒に帰るため同じクラスの下駄箱の所にいた成美が声をかける。



成美「どうしたの?」

戒理「なんか……話があるから帰る前に体育館裏へ来てくれって」

成美「ぇ、今どき果たし状とかじゃないよね? 大丈夫かな、誰から?」



カードを手にしたまま思案顔の戒理。



戒理「桐浦ルネ(きりうらるね)って、知らないな……」

成美「ぇ、知らないの!?」



戒理の呟きに成美は驚きを隠せない。



成美(同じ学年、しかも学校で一番モテる女の子だよ!?)



戒理「知らない。帰ろ成美」

成美「ぇ、行った方がいいんじゃない? もし待ってたらかわいそうだよ」



そっか……、と呟くと戒理は成美の頭の上にポン、と軽く手を置いた。

距離が近くなり、ドキ、と成美の胸がときめく。



戒理「すぐ終わると思うから、ごめん、教室で待ってて」



成美は、わかった、と笑顔で言うが内心は不安な気持ちで、戒理の姿が見えなくなると心配そうな表情になる。



成美(本当にすぐ終わるかな、すごく可愛い子だよ、告白されたら、戒理はどうするの……?)





〇天王寺学園高等部3年生の教室(成美の隣のクラス、放課後)



自分の隣のクラスの教室の窓から下を見ている成美。窓ガラスは閉まっている。

放課後のため、もう教室には誰もいない。



成美(隣の教室からだと体育館裏、よく見えるんだよね)



視線の先に、ゆるふわのロングヘアがよく似合うまつげの長い女子高生と戒理の姿が見える。



成美(桐浦さん、やっぱり美人だなぁ……。戒理と並んでも、しっくりくる感じ)



そんな事を考えていると、教室の扉の方で、カタ、と音がした。

成美が振り返るとそこには戒理と同じくモデルをしている弥勒座統哉(みろくざとうや)の姿が。

統哉はブレザーの上着を着ておらず手に持っていて、シャツのボタンは第二ボタンまで外れネクタイは緩んでいる。



統哉「ぁれ……桜井さん、だよね、隣のクラスの」

成美「弥勒座くん……、まだ帰ってなかったんだ」

統哉「ぁー、午後少しサボって保健室に行ってたら遅くなっちゃった」



そうなんだ……、と呟きながら成美はまた窓の外を見る。

上着を着ながら窓際にいる成美の方へ近づいてくる統哉。

シャツから少し覗く統哉の胸元にはキスマークがいくつかあって保健室で何かあった事を予感させるが統哉に興味が無い成美は気付かない。



成美(戒理……なに話してるのかな……)



統哉「ぁれ、戒理じゃん」



いつの間にかうしろから窓との間に成美を閉じ込めるように統哉が手を窓についていた。



統哉「戒理って桜井さんと結婚するとか言ってなかったっけ。さっそく浮気?」



ぁーあれルネじゃん最近モデル始めたんだよなあいつも、と呟く統哉。



成美「浮気じゃないよ」



成美(桐浦さんが本命、とかはあり得るけど)



成美の内心を知らない統哉は、ぉ、と意外そうな顔をした。



統哉「すごいね、戒理に愛されてる自信あるんだ」



成美の視線の先で、桐浦ルネは笑顔で戒理に話しかけている。

戒理は少し困っているような顔。



成美(戒理……)



統哉「あの戒理が結婚する気になった相手、興味あるなぁ。奪ってやったらどんな顔するんだろ」



ぎゅ、と統哉がうしろから成美の腰のあたりを抱きしめた。



成美「ぇ、やだなに、やめて」



驚いて逃げようと身体を捩った成美が、窓へ手をついた。

窓を叩いた感じになり、ダンッ、と音がする。

その音に気が付いて、戒理が上を見た。

統哉が片手を窓につき、逃げられないように成美の体を閉じ込めるとその首にキスをして、ちぅ、と強く吸う。

成美の顔は窓の方を向いていてギュッと目を瞑り、怯えたような表情。

戒理の目が、大きく見開いた。




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