悪女の汚名返上いたします!~悪役聖女として追放されたのに、私を嫌っていたはずの騎士がなぜか甘々に…⁉~
 ベアトリスに刃を向けていた男は突然の事態に動揺し、怯えきった様子でキョロキョロと辺りを見渡した。
 
「な、なんだ、いったい、なにが起きて……グフッ!」
 
 最後まで言葉を発することもできず、男は白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
 
「汚らしい手で触れるんじゃねぇよ」
 
 そう言って、瞬きの間に暗殺傭兵を蹴散らしたのは、黒衣に身を包んだ長身細身の男だった。
 
 艶やかな黒髪が月明かりに煌めき、群青の瞳が宝石のごとく輝く。
 
 漆黒の騎士は剣を鞘に収めると、力を失った傭兵をつま先で蹴飛ばし、目の前に(うやうや)しく(ひざまず)いた。
 
 そしてベアトリスの手足の拘束具を外した後、外套を脱ぎ肩にかけてくれる。

「迎えが遅くなって、すまない」

 そう言った彼は、自身の手のひらに血が付いているのに気付き、咄嗟に引こうとした。
 だが、ベアトリスは自分から腕を伸ばして、黒衣の騎士の──ユーリスの手を捕まえる。

 大きくて温かな掌に触れた途端、とてつもない安心感に包まれ、たまらず涙が溢れた。
 
「助けに来るのが、おっそいわよ! ユーリスのっ、ばかぁっ!!」
 
 叫んだ瞬間、身体を引き寄せられ、ベアトリスはユーリスの胸にすがりついて子供のように泣きじゃくった。
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